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第百五十六話 気の合う二人の、決戦前夜トーク

 その夜、虹塚先輩の携帯電話に、優香からメールが届いた。それには、彼女主催の『記憶消去デスマッチ』とやらの詳細が記載されていた。俺も、失礼ながら、横から確認させてもらった。




『勝負の開始は、明日の午前九時から。そこからは、勝負が決着するまで、勝負は続行される。

 基本的に暴力の使用も容認されるが、脅しによって、記憶喪失に追い込ませることは認められない。あくまで、自分の手で記憶喪失にしなければ失格とする。

 もし、相手が明らかに記憶喪失の状態と見られても、それだけでは敗北にならない。

 確認のために、名前をフルネームで言ってもらう。一分以内に名前を言うことが出来なければ、記憶喪失に陥っているとみなし、敗北とする。

 尚、いかなる場合においても、ギブアップは認められない』




「授業時間は免除。通常の学校生活に支障が出ない範囲で勝負を決めようというのね」


「でも、記憶には支障が出るんだろ?」


 これからの自分たちのことを皮肉って笑ってやった。嫌な顔をされると思ったが、意外にも、虹塚先輩は、つられて笑ってくれた。


「暴力で脅して、記憶喪失剤を自分に使わせるというやり方を自分で封じてくるのは、意外だったわね。あの女のことだから、てっきりその方法でくるかと思ったんだけど、いらない気苦労だったかしら」


 確かに、優香だったら、一番好みそうな作戦だな。でも、それをしないからといって、正々堂々と来るとは限らない。他に良さそうな作戦があるから、こっちはいいやと思っただけの可能性が高いな。


「気になるのは、ギブアップ禁止のところね。一度ゲームに参加するって言ったら、何があろうと最後までやらせる気なのね」


 俺の方を見ながら、虹塚先輩が、意地悪く微笑んでいる。俺をビビらせようとしているのかね、この小悪魔先輩は。


 でも、残念。全く動揺しちゃいないよ。今までだって、散々ギブアップさせてもらえない状況で揉まれてきたんだからね。今は頼れるお姉さんだけど、虹塚先輩が、優香のポジションにいた時だってあるんだぜ? むしろ、ギブアップOKですって、言われた方がビビるね。


「とことんやってやろうじゃないか」


 俺は全然ビビっていない。それどころか、やる気満々だということを、言葉にしてアピールしてやった。虹塚先輩は、喜んでくれたが、一方で、からかいそこなって残念そうだった。


「あらあら。爽太君。やる気満々ね」


「当り前だ!」


 記憶の消しあいをやって、最後まで残った者が、俺の彼女になるだと!? 俺の了解を得ないで、勝手に話を進めやがって……。


「仮に、優香が勝ち残っても、絶対に付き合ってやらないから!」


 勝負に負けても、自分と付き合い続けるという言葉を、俺の口から聞くことが出来たのがよほど嬉しかったのか、虹塚先輩はこの上なく上機嫌だ。


 対照的に、俺の気分は、どんどん悪くなっていく。時間がたてば落ち着くかと思ったが、そんなことはなかった。むしろ、天井知らずで悪くなっているね。ああ~、何かに八つ当たりしたくなってきた~。


 一番納得がいかないのが、負けた二人の内のどちらかが、あの大男の彼女になるというものだ。どうせ負けたやつを陥れるためなんだろうが、それでも、やつがしゃしゃり出てくる意味が分からなかった。


「あんな木偶の坊に、心愛は渡さない!」


 感極まった虹塚先輩の拍手が、辺りに響いた。俺の腕っぷしの頼りなさは知っているだろうに、そこまで喜ぶなよ……。恥ずかしい。


「うふふ。どんどん勝てる気がしてきちゃったわ。もう勝負に勝ったって感じね」


「いやいや。まだ始まってもいないだろう」


「記憶を戻した時、あの女、どんな顔をするのでしょうねえ」


 本当に勝ったつもりでいるのか。いくらなんでも浮かれ過ぎだろ。でもまあ、緊張でガチガチになっていても困るし、今はこれでもいいかな。……明日の午前九時前になっても、浮かれているようなら、さすがにたしなめるけどね。


 それよりも、今は、小さな嘘を指摘しておいてやるか。


「……嘘だね」


「あら?」


「本当は別のことを考えている。心愛は、優香の記憶を戻すことなんて、これっぽっちも考えていない」


 自分で決めたルールとはいえ、あの優香が、大人しく引き下がるとも思えないしな。記憶をまた失ったのなら、今度こそ永久封印を図るのが、正しい選択肢といえる。


「実をいうと、俺も、そっちの考えだったりする」


 俺がニヤリと笑いかけると、虹塚先輩も、こらえきれずにクスリと漏らしてしまった。


「よくぞ、私の本心を見抜きました」


 虹塚先輩の性格を、だんだん掴んできたってことかな。個人的には、こういった形で言い当てるのは好きだ。


「そうなると巨人さんは、アリスちゃんと付き合うことになるのかしら?」


 謎かけのつもりか? 悪いが、それも本心はお見通しだよ。


「冗談だろ。あんな猿人に、アリスはもったいないぜ。どさくさで、あいつにも、記憶喪失剤を注入してやるっていうのはどうだ? 本当の意味で、頭がパーになるけどな」


 アパートの前で、あいつから食らった拳の味を、生憎まだ忘れちゃいないんだ。誰が、あいつの彼女作りに協力なんぞするか。頭の中をクルクルパーにして、一生彼女が出来ないようにしてやるよ。


「大正解」


 俺に考えが見透かされたのが愉快なのか、虹塚先輩は、口に手を当てて笑った。


「こんなに考えが合うとなると、やっぱり爽太君は、私と付き合うべきね」


 何となく、虹塚先輩に都合の良いようにまとめられた気もするが、案外そうなのかもしれない。


「さて。私たちの気持ちを確認し合ったことだし、これで景気づけでも行いましょうか」


「それ……。お酒ですよね」


 一体どこに隠し持っていたのだろうか。もはや、四次元ポケットのように、異次元から取り出しているとしか思えん。


「無礼講と言うものよ。大学生も、未成年なのに、こっそり飲み会で嗜むものでしょう」


「いや、俺たち、大学生ですらないですから……」


 遠慮しようとしたが、虹塚先輩に押し切られて、結局一杯だけという約束で飲み始めた。もっとも、この一杯だけというのが、飲んだくれてしまう最初の入り口なのだが。


 うん……、苦い。お世辞にも美味いとは言えないな。一仕事の後の楽しみになるには、まだ時間が必要みたいだ。


 しかし、俺に酒を差し出す、あの手慣れた手つき、接客で磨いたと考えていいな。早く手に職を持って、楽させてあげないと……。などと、臭いことを考えている内にも、酔いが回ってきた。やはり、俺には早かったか……。




 結局、最初の一杯で、ノックアウトしてしまったらしく、気が付いたら、翌朝になっていた。


 隣では、虹塚先輩がすやすやと寝息を立てている。周りに酒瓶が転がっていないし、俺が寝た後で一人酒を楽しんだ様子はない。


 寝覚めは最高で、二日酔いというものは経験せずに済んだ。


「いよいよだな……!」


 上半身を起こすと、何気なく呟いた。さあ、今日から忙しくなるぞ。


登場人物のヤンデレ顔が描きたくなってきましたね。

今日ではないですが、その内に必ず……。

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