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第十四話 昨日遊んだ女子に、許嫁の容疑がかかった

 ひょんなことから知り合ったアカリと、最愛の彼女であるアリス、あともう一人……、名前を忘れてしまった。存在感は抜群だったんだけどな。名前だけが記憶に残らなかった。とにかく三人の女子と、昨日の日曜日、遊びに行ってきた。


 軽く流して終わる筈が、予想外の出費がかさんで今月のパンの耳生活が決定してしまうわ、Xからレイプ紛いのキスをされてしまうわ、散々な一日になってしまった。


「昨日は散々だったな……」


 遊びに行ったら、多少の想定外の出費は付き物だけど、昨日のはひど過ぎる。夢に出てきそうだ。


「お前、今日はやたら水ばかり飲むな。トイレが近くなるぞ」


 お金を節約するために、今日の昼食は水道水だ。さすがにおかしいと思ったのか、木下から問いただされてしまった。こいつから金を貸してもらえば、少しは楽になって、炭酸飲料くらいは買えるかもしれない。でも、こいつに昨日のことを話したくない。悩んだ結果、強がって誤魔化すことにした。


「ふん……! 俺がトイレにたくさん行くようになったら、女子からトイレ大王として嫌われるから、お前的には愉快なことなんじゃないのか」


「おお、そうか! 確かにそうだわ。そういうことなら、話は別だ。どんどん飲め!」


 この野郎……。冗談で言ったら、真に受け止めやがって。しかも、嬉しそうなのが、頭にくる。やっぱりこいつに昨日のことを離したり、金の無心をしたりしなくて、正解だったわ。


 その後、購買部に行くと言った木下を、半分恨みがましく追い払うと、待ってましたとばかりに、アカリと、その親友が話しかけてきた。


「そ、爽太君。昨日はありがとう。わ、私のことは忘れていないよね?」


「もちろん覚えているよ。昨日のことじゃん。忘れたりなんかしないよ。それに、俺の方こそ誘ってくれてありがとうね、アカリ」


 本当はありがとうなんて、微塵も考えていないが、社交辞令で感謝の言葉を述べた。それに気付かないアカリは、本気で照れていた。


「ほらね、言ったでしょ。忘れる訳がないって。あんたは大げさなのよ。ね、晴島君」


 アカリの親友が俺に笑いかけてくる。俺は冷や汗ダラダラ。やべ……。本人を前にしても、名前を思い出すことが出来ない。


 当初は笑っていたアカリの親友も、俺の反応がおかしいことに不信感を抱いたようだ。


「……え? マジで覚えてないの?」


「……」


 俺が覚えていないと知るや否や、アカリの親友は顔を真っ赤にして怒った。


「本当に失礼しちゃうわ。ねえ、アカリ」


「そうですよ。昨日遊んだ仲なのに。……え~と」


「お前も忘れたんかい! ていうか、私のポジションって、これなの!?」


 アカリにまで名前を忘れられてしまい、アカリの親友は激高した。ちなみに、この後名前をもう一度教えてもらったので、今度は忘れないように気を付けよう。


 何回か喧嘩になりかけたけど、最後はお互いに笑って別れることが出来た。そうすると、次は小うるさい彼女の妹に会った。


「へっへっへ! 昨日はどうも」


 頭をかきながら、アキが近寄ってきた。俺の今月の貧乏生活を決定づけた、彼女の妹だ。正直、そのことを思い出すと、まだ怒りが沸いてくるので、無視しようとすると、アキがしつこく追いかけてきた。


「ちょっと! 無視しないでくださいよ」


「ツーン」


「あっ! ツーンって言っている! となると、次はデレる番ですね。私はいつでも迎える準備OKですよ。さあ、来なさい!」


 残念だったな。俺はツンツン系なのさ。ツンデレなどではない。だからいくら待っても、反応はないぜ。


 俺のツッコミを期待していたアキも、つれない態度に、徐々に俺の真意を見抜いたようだ。


「ちょっ! お義兄さん。マジで無視しないでくださいよ。つれないですよ!?」


 昨日お前のせいで殉職することになった福沢諭吉さんたちの恨みだ。意地でも、今日一日は、お前とは話さん。


「む~! これ以上無視すると、他の女の人とキスをしたことを、お姉ちゃんにばらしますよ!」


 アキが知らない筈の事実を叫んだので、思わず足を止める。


「お前……。あの時、意識があったのか?」


 俺が恐る恐る振り返ると、鬼の首を取ったような顔で、アキがニヤリと勝利の笑みを漏らしたのが、気に食わなかったが、耳は傾けてやろう。


「あったのは最後だけです。お義兄さんが誰かに向かってキスをしようと言っているところで目覚めました」


 つまり、Xがもう立ち去るところで目覚めたのか。もうちょっと早く意識を戻してくれれば、Xの姿を確認していてくれたかもしれなかったというのに、タイミングが遅いんだよ。


 アキに言いたいことは山ほどあったが、まずは誤解を解かなくては。こいつのことだ。俺がマジで浮気して、他の女子に言い寄ったものと捉えているに違いない。何かの拍子にアリスの耳に漏れることになれば、一大事だ。そうならないために、とっとと真実を伝えなくてはならない。


 どううまく説明しても、言い訳に聞こえてしまうのが悔しいが、俺は言葉の限り、昨日会ったことをアキに伝えた。


「そ、そんなことが……。おのれ、X! お義兄さんの純情を弄ぶなんて許せません!」


「いや、弄ばれてはいないぞ」


 まだ勘違いしている部分があるような気がする。念のために、アリスに話すことは口止めしておくに限るか。


「でも、あの楽しいお弁当の時間にまで、犯罪の魔の手が伸びていたなんて……」


 全くだよ。アキが俺に奢らせる前に、魔の手を伸ばしてくれたら、余計な出費をせずに済んだのに……。おっと! これは今考えることじゃないな。


 とにかくアキだ。顎に手を添えて考え込む姿勢は、迷探偵の再来を予感させた。


 俺の予想は的中し、物知り顔のアキが直に話し出した。だが、その推理は衝撃的なものだった。


「私、考えたんですけどね。アカリさんがXじゃないんですか?」


「は!?」


 口を開けて驚く俺に、アキが推理の独白を続ける。


「それだったら、弁当に睡眠薬を仕込むなんて簡単なんですよ。自分が作っている訳ですから。混入することなんて、簡単です」


「で、でも、アカリも一緒に寝ていたんだぞ!」


「彼女が寝ている姿をちゃんと見たんですか?」


 聞かれたので思い返してみたが、アカリが眠りこけている姿を見たのは、Xが去った後だ。


「そこです! 去ったと見せかけて、その場に倒れて寝た振りをしたんですよ」


「何か推理小説みたいな展開だなあ」


「殺人事件が起こってないだけで、もう小説にも勝る展開の真っ最中ですぜ!」


 確かに、こんなこと、現実ではそうそう起こるもんじゃないよなあ。でも、小説にも勝るって言葉が、妙に引っかかるんだよなあ。


「しかし、怪しいといっても、そこ止まりなんだよな。証拠がある訳じゃないし」


 いきなり犯人扱いして、問い詰めるなんて論外だろ。遠まわしに聞いても、変態扱いされそうだしな。


 俺の懸念を聞くと、「何だ、そんなことか」と、打開策をあっさりと提示してくれた。


「証拠がないなら、掴めばいいんですよ!」


「何だと?」


 何かアキが熱い。妙なスイッチが入ってしまったみたいだ。


「あ、掴むといっても、あの豊満な胸じゃないですよ」


「分かっとるわ」


 黙って聞いていたら、いらない心配をされてしまった。もちろん、即座に否定する。ていうか、アキには俺がそういうことをする男だと思われているのだろうか。


「という訳で、丸一日使って、アカリさんをストーキングしましょう」


「せめて尾行って言えよ」


 この間の探偵ごっこの続きか? 手助けしてくれるのはありがたいけど、こいつからは真剣みを感じないんだよな。遊びの延長で協力している可能性を、どうしても勘ぐってしまうのだ。


「でも、尾行か。気が進まないな」


 第一、万が一見つかったら、どう言い訳をするんだよ。そうでなくても、アカリの親友……、あれ、何て名前だっけ? もう忘れてしまった……。とにかく! 親友に睨まれているというのに、一層不信感を募らせてしまうではないか。


「けっ! 何を尻込みしているんですか。あなたのお姉ちゃんへの想いは、そんなものだったんですか。だとしたら、ガッカリですよ」


 アキに言われて、ハッとした。


 そうだ。アリスはXから脅されて怯えているのだ。一日も早く、Xを突きとめて、脅しを止めさせなければいけないのだ。悩んでいる場合ではないだろう。


「アキの言う通りだ。俺が甘かった。アカリを尾行して、Xじゃないか、見極めよう」


「ふっ! それでこそ私のお義兄さんですぜ」


 何となく乗せられた気もしなくもないが、きっと気のせいだ。アカリがXじゃなかったにせよ、疑いは早めに晴らした方が良い。


 自分に言い訳をするように、とんとん拍子でアカリを尾行する話がまとまったのだった。


アカリの親友の名前をお忘れの方は、第八話あたりから読み直すか、明日の十時ごろに訂正予定の「登場人物紹介」をご確認ください。

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