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第百四十三話 ラスボス彼女からの、犯行予告

「優香……。教室にはいなかったな。休んでいるんだろうか」


 翌日の学校で、優香を探しているのだが、教室に行っても、会うことは出来なかった。


 この時点では、まだもう一人の優香が復活してしまったことを知らず、あの後無事に帰ることが出来たのかを純粋に心配している気持ちもあった。


「やっぱり送って行った方が良かった気がしてきた。いくら粗暴な態度を警戒したとはいえ、歩くのもやっとな状態で、一人帰すのはどうかしていた……」


 これで学校を欠席でもしていたら、確実に俺のせいだ。実家が医者をやっているので、問題はないだろうが、気分は良くなかった。


 しかし、一方で、根拠はないが、会うことが出来るような気がしていた。何かひょっこり顔を出しそうな気がしたのだ。


結果だけ見ると、その勘が当たることになった。そして、その瞬間はすぐにやってくることになる。


 階段を降りようと、足を踏み出そうとした時だった。後ろから誰かに手で視界を遮られてしまった。


「だ~れだ?」


 何て不意打ちな接触をしてくるのだ。ていうか、もうちょっと隠すのが遅かったら、階段から足を踏み外していたぞ。


「だ~れだ?」


 俺からの返事がないのをじれったく思ったのか、もう一度聞いてきた。さっさと答えろってか?


 それだけなら、特に問題はないのだが、俺の目を覆う手に力がこもっているのが、いただけない。まさか正解を早く言わないと、どんどん力が強くなっていくとでもいうのか。


「優香か……」


「大正解!」


 普通正解したのなら、手をどけてくれるものなのだが、依然俺の視界を遮ったままなのが気になる。


「とりあえず力を緩めてくれないか? そろそろ眼球が潰れそうなんだ」


 もちろん潰れそうというのは誇張した表現だが、目が痛くなってきているのは本当だ。手をどけなくてもいいから、マジで力を緩めてほしい。


「あははは! ごめん、ごめん。爽太君を自分の手で掴んでいるのが、束縛しているみたいで気持ち良くてさ。つい自然と力も入っちゃったのよ」


 聞きようによっては、興奮のあまり、うっかり潰してしまうかもしれなかったと言っているようにも聞こえる。ブルッときたので、思わず手を話された後で、目のあたりをさすってしまった。


「また表に出てきたんだな……」


「え? 何を言っているのか分からないな? 私はずっと爽太君の前にいたよ?」


 いや、俺が今まで会っていたのは、お前のもう一つの人格の方だ。ずっと前にいたとか言っているが、お前は、今まで裏に引っ込んでいたじゃないか。とぼけたって無駄だからな。


「えへへへ! 教室に戻ったら、驚いたよ。なんと、爽太君が、私を訪ねてきたっていうじゃない。嬉しくなって、全速力で後をつけてきちゃったわ!」


 いや、俺が会いに行ったのは、優しい方のお前ね。表に出てきているのがお前だったと知っていたら、誰も会いになど行かなかったよ。


「どうしたの? 私に用事があったんじゃないの?」


「用事は……、たった今済んだよ……」


「? 訳が分かんないわ」


 優香の体調が心配だったが、この分だと、何の心配もいらないだろう。むしろ、俺の身を心配してほしいくらいだ。


「爽太君が、用事がないっていうんなら、私の質問に答えてもらってもいいかな?」


 一応、質問していいかどうか聞いてきてはいるが、おそらく駄目だと言っても、勝手に質問をしてくるのだろう。ここはやりたいようにやらせて、答えづらい質問がきたら、曖昧に流すことにしよう。


「ずばり聞いちゃうけど、心愛と付き合ってんの? 仲睦まじくしていたのは、昨日見たけどさ。脅されている可能性だってゼロじゃない訳じゃん」


 俺と虹塚先輩の関係を疑うのは自由だが、脅されているとか、お前が言うのか? まあ、いいや。質問に対して答えてやろう。


「……そうだよ」


 言って良いことか、一瞬ためらってしまった。こっちの優香は、ヒステリックなところがあるからな。回答次第で、どう出てくるのか予想がつかない。だが、ここで彼女はいないと言うのは、虹塚先輩に失礼だし、優香に屈したみたいでイラッときた。若さも手伝って、文句あるかとばかりに、肯定してやる。


「……否定しないどころか、堂々と認めてきましたか」


 憎しみを噛みしめるように、ゆっくりと言葉を吐いた。問題は、次にどういう行動に出てくるかだよな。


「ねえ、ここから突き落してもいい?」


「全力で拒否する!」


 いきなり腹いせで俺を階段から突き落とそうとしている! 再会早々、俺、いきなりピンチじゃないか。


「何かね。このシチュエーションになると、突き落してやりたくなるっていうか~。これが私なりのコミュニケーションって感じ?」


「拒否するって言っているだろ? 俺の話を聞けよ!」


 優香なら本当にやりかねないので、急いで階段を駆け下りた。幸い、優香は、後を追ってくることなく、階段の上から、俺のことをじっと見ていた。


「この間、会った時と彼女が代わっているね」


「……まあな。いろいろあったんだ」


 本当は、たいしたことなんてないんだけどな。俺が馬鹿をやってしまった。ただそれだけのことなのだ。


「私ね。爽太君が他の女とイチャついているのを見るだけで、腸が煮えくり返りそうになるのよ。ましてや、相手が、あの心愛ともなると、どれだけの憎しみを湛えているのかは分かってくれるわよね」


「……」


「でも、いいのよ~。私は寛大な人間だから、爽太君の節操のないところも含めて、み~んな許しちゃう」


「虹塚先輩は?」


 何気なく口から洩れた質問を聞いて、優香の表情が曇る。


「あいつを、許す訳がないじゃない……。徹底的に生き地獄を見せてあげるわ……」


 やはり駄目か……。虹塚先輩が、アリス以上に、優香を目の敵にしているように、優香も、虹塚先輩が憎くて仕方がないのだ。もはや、宿敵といってもいいレベルだ。


「あいつには、特大の天罰をくれてあげなきゃね……」


「おい……! 虹塚先輩に手を出すな……。やるなら、俺の方だろ!」


 本音を言うと、俺にも手を出してほしくない。だが、この二人の争いの原因は俺なんだから、罰を受けるべきなのも俺なのだろう。


「わあ、男らしい。でも、それも、心愛のためなんだよね。そう考えると、やっぱりムカつく」


 駄目だ。どう言っても、虹塚先輩批判に持っていく気だ。


「だけど、爽太君の男らしさは評価するよ。ご褒美に、飛びっきり面白いものを見せてあげるから! 期待していていいわよ」


「!? おい、面白いことって何だ?」


 優香の笑みに狂気じみたものを感じたので、すぐに問い詰める。だが、優香は、俺をの顔を楽しげに見つめるだけで返事をしようとしない。結局、そのまま歩き去ってしまった。


「くそ……! 行っちまいやがった……。面白いことって、何だよ?」


 不穏なものを感じながらも、俺は歯ぎしりして立ち尽くすよりなかった。


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