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第百三十三話 約束された再度の来襲と、それに怯える俺

「何であいつが優香の家にいるんだよ……」


 軽く昼食を食べた後、柚子と別れた俺は、ぶつくさ言いながら、街中を歩いていた。


 昨夜、自宅の玄関前で、謎の大男から襲撃されたのだが、その時に殴られた頭部の痛みが引かずに、病院で診てもらってきたのだ。


 ひょんなことから、柚子に紹介されて訪れた病院は、なんと優香の両親が経営しているところだった。


 それだけでも驚きなのに、俺を襲った大男と優香が話している場面を偶然に見てしまったのだ。しかも、その内容が、また物騒なものだった。


 大男のやつ。昨日、俺の前から必死に逃げて行ったのに、懲りもしないで、また襲う予定らしいのだ。それにあたって、優香にも手伝うように要請していた。あまり優香は乗り気ではなかったようだが、俺にとっては、聞き捨てならない話だ。


 そっと病院を後にした俺だったが、それからは、次に襲われたらどうしようか考えてばかりいた。


「また遊里に助けてもらうか? でも、いつ襲ってくるか分からないしなあ」


 一番いいのは、このまま襲撃のことをきれいさっぱり忘れてくれることだが、それは期待出来ない。


 優香に熱心に働きかけていた、あの口ぶりからして、虹塚先輩のことも、襲撃のことも、まだ諦めていないと思われる。あの調子では、もう一度俺の前に現れる可能性は、非常に高いといえた。


 こんなことに使う体力があるんなら、もっと人のためになることに使えよと毒を吐くが、本人がいないところで言っても仕方ないか。


「前回は鉄の棒だから、次来るとしたら、もっと強力な武器を持ってくるよな。もっと綿密に計画を立ててくるよな。やばいよな、俺、喧嘩強くないのに……」


 実をいうと、診察してもらった時に、医者からは、危険なことは避けるようにと、釘を刺されているのだ。初老の医者には、あまり突っ込んだことを聞かれても嫌なので、怪我をした理由を上手く誤魔化したつもりだったのだが、バレバレだったみたいだ。


 最悪の場合、虹塚先輩に話をつけてもらおうかな。あの大男、先輩にご執心みたいだし、俺が駄目でも、先輩の話には耳を傾けてくれるだろう。


 そんな最悪なことまで頭に浮かんでしまう。つくづく追い込まれているね。人と争わないように生きているつもりなんだがね。周りが、俺をトラブルの中に引きずり込んじゃうんだよな。


 だが、自分より強い相手に絡まれちゃったから、彼女に向かってお願いしますっていうのもなあ……。成り行きとはいえ、俺が守ってやると宣言した後では、死んでも言いたくないセリフだ。まあ、このままだと、本当に死にかねないので、ただの強がりで済みそうにないのが怖いところだがね。


 そこで、その虹塚先輩からメールが送られてきた。内容は、俺の夏バテが心配だから、鍋を作って食べようというものだった。ありがたい申し出だったので、その場でOKを出した。


 すぐに返信がきて、俺の家で待っているとのことだった。虹塚先輩に、家の合鍵は渡していないので、おそらくドアの前で待っているという意味だろう。


 あの人のことだから、もう家の前で待機している可能性もある。待たすのも何なので、急いで帰路に就いた。




「あれ? いないな……」


 自宅へと帰り着いたが、ドアの前に虹塚先輩の姿はなかった。てっきり待っていると思っていた俺は、メールで、家で待っているのでいつでも来てOKですよと伝えた。


 メールを送ってから、十秒もしない内に、返信がきた。それを見ると、もう到着しているとのこと。しかし、家の前に、虹塚先輩の姿はない。何度確認しようとも、同じことだった。


 どういうことだと頭を捻っていると、ある一つの考えが浮かんだ。一旦は、まさかと撤回しようとしたが、あの人だったらやりかねないと、玄関のドアノブを回してみた。


「鍵が……、かかっていない?」


 悪い方の予想が当たってしまった。かたずを飲んで、そのまま室内へと目を向けると、料理の下準備をしている虹塚先輩と目が合った。


「おかえりなさい」


「ただ今」


 「お風呂にする? それとも、ご飯にする?」とか、今にも聞かれそうな雰囲気に誤魔化されそうになるが、しっかりとツッコませてもらおう。


「どうやって部屋に入ったんですか? あっ、鍵が開いていたとか?」


 たいへん不用心なことなんだが、ここ数日の間に、既に二回も施錠を忘れて外出してしまっている。また忘れたのかと冷や汗をかいていると、虹塚先輩が、鍵を取り出して、これで開けたのだと言う。


「あれ? それって、この部屋の合鍵ですよね。渡していましたっけ?」


 渡した覚えなんかないんだけどな。かすめ取られていた可能性も考慮していたが、そっちは口にしないでおこう。


 腑に落ちず、顔をしかめながら聞いてみると、虹塚先輩は、ニコリと笑ってネタ晴らしをしてくれた。


「作っちゃった……❤」


「恥じらいながら告白しているところを申し訳ありませんが、そういうことを無断でやるのは、勘弁してもらっていいですかね?」


 知らない内に、スペアキーを勝手に作られていたよ。合鍵をこっそり盗んでいたのかと邪推していたんだが、それを超える展開が待っていた!


「あら。そんな人を犯罪者みたいな目で見つめないで。私はただ、心配なだけよ。爽太君って、トラブルに恵まれているじゃない。先日なんて、自宅に監禁されるというレアな体験までされた時は、仰天しちゃったわ。もし、同じような事態に巻き込まれても、力になれるようにって、気を利かせて作ったのよ」


 そんなことがある訳ないでしょ。どう考えても、あなたに襲われる危険の方が高いですよ。そういう風に、断言出来ないのが、今の俺の痛いところだ。


 虹塚先輩には、まだ伝えていないが、現時点でも、新たなトラブルに見舞われているのだ。昨夜は、玄関先で襲われているのだ。この先、家の中にまで乱入してくる展開に発展しても、おかしいと言えなかった。


「安全上は良いかもしれませんが、勝手に部屋に上がられるのは嫌ですね」


 今日はメールで知らせてくれたからいいものを、ある日帰宅したら、彼女がいるというのは、嬉しい時もあれば、鬱陶しい時もあるのだ。


 虹塚先輩も、その点には、考慮してくれたようだ。もしかしたら、表面上かもしれないけどね。


「あくまで緊急時のためよ。なるべく使用は、控えるようにするわ」


「使わないと断言しないんですね」


 この人のことだ。浮気調査の名目で、俺の不在時に、部屋の内部をこまめにチェックする気なんだろう。口にはしないが、それが目的で、スペアキーを作成したというところだろうな。


 あ~あ、せっかく病院に行ってきたのに、また頭が痛くなってきたよ。


 ピンポーン!


 スペアキーの件で、頭を抱えていると、チャイムが鳴った。こんな時に、誰かやってきたようだ。虹塚先輩がでなくていいのかと、目で訴えてくるが、それどころではない。居留守を使わせてもらおう。


 しかし、居留守を使ってやり過ごしているというのに、やけにしつこくチャイムを連打している。チャイムを押している人間は、よほどしつこい性格なのかね。それとも、不在なのをいいことに、調子に乗っているのか?


「お義兄さ~ん。いるんですよねえ~? 私です。あなたの可愛いアキですよ~!!」


 ドアの前でチャイムを押す手を止めずに、アキが呼びかけてきた。知り合いの中でも、面倒くささトップスリーに入る人間の来訪に、頭痛がひどくなったのは言うまでもない。


 ……そろそろ来るころだと思ったんだよなあ。昨日から、やたら知り合いの女子とばったり遭い続けていたし。


 ふと、横で俺を優しく見つめている虹塚先輩と目が合う。もちろんあなたも、その中に含まれていますよと、笑みを返す。


 アキがチャイムを鳴らしている中、二人の間で、謎の微笑みが交わされたのだった。


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