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第百二十話 一線を越える覚悟は……、ありますか?

 虹塚先輩の家に招待されて、母親を紹介されて、案内されるままに自室へと連れて行かれた。


 そこで、お茶菓子を食べながら雑談していたら、話の流れで、虹塚先輩から誘わてしまった。焦る俺を横目に、虹塚先輩は、ベッドに倒れこむと、無防備な体勢になった。後は俺の好きにしていいとでも言っているかのように。


「虹塚先輩……?」


 マグロのように、仰向けの状態で目を閉じている虹塚先輩に語りかけてみるが、反応はなし。だからといって、俺のことを無視している訳ではない。むしろ、この上なく、俺の一挙一動に神経をとがらせているのが分かる。


「あの……。とりあえず添い寝すればいいですかね?」


 言った瞬間、意気地なしと自分自身を罵った。何を動揺しているのだ。女子とこういう空気になるのは、初めてじゃないだろう。相手が虹塚先輩になった途端に動揺するとは、どういうことだ。


 あ、虹塚先輩の右目と右耳の間に、青筋が浮かんだ。俺の冗談がお気に召さずに、気分を害しているな。でも、先輩の機嫌を取って、俺の欲望に忠実になると、別の人たちに怒られることになるとも思うんだよな。


 さて、どうしたものかね。何をすべきかは分かっている。なのに、妙に緊張してしまうのだ。くそ、俺は、こんな小心者じゃなかっただろ。相手がアリスでも、こんな風に緊張するか? しないよな。アリス以外の女子と、こんな場面になっても、緊張なんかしないよな。


 それなのに……。どうして虹塚先輩の時だけ、こんなにも狼狽するんだよ!!


 俺がうじうじと悩んでいる間も、じらされている虹塚先輩からは、早くしろと無言のプレッシャーが飛ばされてくる。


 とりあえず胸だけ揉んでから、一人ノリツッコミの要領で、「なんでやねん!」って、叫ぶか? って、この発想こそ、何でやねん!


 何を普通に受け入れているんだよ。虹塚先輩に誘われたからといって、素直にやろうなんて思うな。今日アリスと別れたばかりで、まだ精神的にも混乱が残っている状態で出来る訳がないだろう。


「爽太君。『据え膳食わぬは男の恥』という言葉を知っているかしら」


 俺がぐずぐずしていたら、虹塚先輩からくぎを刺されてしまった。だが、俺の心は動かない。


「知ってますよ。でも、だからといって、誘われるままに女子に覆いかぶさるほど、俺は野獣ではありません」


 虹塚先輩と、そういうことをするのは、まだ早いということを遠回しに説明した。先輩は、そんな俺をからかうような目で見つめた。


「なかなか殊勝な心がけだけど、いつまでもつかしらね」


 挑発的な笑みを漏らすと、虹塚先輩は、俺の右手を掴み、そのまま自身の胸元へと引っ張り上げた。


「このまま私の胸を掴ませちゃおうかしら。爽太君は、どこまで理性を保っていられるかしらね?」


「ぐ……」


 俺の理性が試されている。格好をつけたとはいえ、思春期の男子なのだ。この誘惑は耐え難い。実際問題として、さっきから止めるように求めつつも、されるがままになっているという事態に陥ってしまう。


 し、仕方ないのか。俺は駄目と言っているのに、先輩の力の方が強いから、振りほどくことが困難だ。これは、もう先輩に全てを委ねるしかないのか?


 などというしょうもない言い訳を連発した。恥ずかしながら、この時点で抵抗する気力はゼロになってしまっていた。頑張ってはみたが、結局は虹塚先輩の魅力に惨敗してしまったのだ。それだけ抗いがたいものを、この人は持っている。


 弱ったな。この場面を誰かに見られたら困っちゃうなあと、調子の良いことを考えながら、視線をわざとらしくずらした。すると……。


「ん?」


 ふと、顔を上げた際に、わずかに開いたドアの隙間から、こちらを覗いている目と、目が合ってしまった。


 泥棒!? とは思わなかった。犯人の目星など、すぐについた。もちろん、虹塚先輩にも、すぐに報告した。


「お母さん!」


 なんと、虹塚先輩のお母さんが、ドアの隙間から、こちらの様子を伺っていたのだ。娘から睨まれると、申し訳なさそうに苦笑いした。


 正気を取り戻した俺は、大きく深呼吸して、精神を落ち着けた。


 やばかった……。あのまま欲望の赴くままに、虹塚先輩に圧し掛かっていたら、一部始終を見られてしまっていた。そして、既成事実を突きつけられて、ずぶずぶと泥沼に引きずり込まれていくところだった。危ない、危ない。

 

「ほら! 心愛が男の子を連れ込むなんて、滅多にないことじゃない。何を始めるのか興味津々で……、じゃなかった。不安に駆られちゃって、こっそり様子を見に来たのよ。決して覗き目的で来た訳じゃないわよ」


 虹塚先輩に睨まれて、お母さんはすっかり慌ててしまった。そして、何度も否定してらっしゃいますが、バレバレですよ、お母さん。そして、その接近に直前まで気付けなかった俺は、かなりの間抜けということですな。


「もう! お母さんったら!」


 虹塚親子がじゃれあっている後ろで、俺は止まりそうになっている心臓を抑えて、荒れた息を整えていた。


「まあ、いいわ。私がここにいなくても、この部屋で何が行われているのかを把握するのは容易いもの」


 不敵な笑みを浮かべながら、お母さんは部屋をつまみ出されていった。お母さんの足音が一階まで降りたのを確認して、虹塚先輩は、再び言い寄ってきた。


「思わぬ邪魔が入っちゃったけど、仕切り直しよ」


 母親の妨害で、気持ちが萎えてしまったのかと思いきや、むしろさらに燃え上がってしまっているようだ。


 さっきまでは俺から仕掛けるのを待っていたのに、俺がなかなか行動を起こさないことにじれてしまったようなので、虹塚先輩から近寄ってきた。


「経験したことがないんだったら、そう言いなさい。次は私からしてあげるわ。爽太君は、されるがままにしていればいいの。だから、力を抜いて楽にしてなさい」


 俺の両腕に、そっと手を添えて優しく囁かれた。今日何度目だろうか、心臓がバクンと音を立てて飛び出しそうになった。死ぬ! こんな刺激の強いことを連続でやられたら、俺の心臓が耐えられなくなって、弾けて死ぬ!


 だが、俺は逸る気持ちを抑えて、虹塚先輩を押しとどめた。


「虹塚先輩。ちょっと待ってください。俺、お母さんの去り際の笑顔が気になっているんですけど」


「あら。この期に及んで、まだ尻込みするの? 往生際が悪いわよ、爽太君」


 お母さんの、あの笑みがどうしても気になると訴えても、虹塚先輩は耳を貸してくれない。俺を料理することで、頭がいっぱいになっている。


 虹塚先輩の唇が近づいてくる。どうやら、キスから始めるらしい。俺の体に、腕を回して、自分より身長の高い俺の唇に背伸びする形で、顔を近付けてくる。この時点で、胸の感触が、かなりやばいことになっている。俺の心臓の鼓動も、先輩に伝わっていることだろう。


 と、その時に、見つけてしまったのだ。本棚の上で光る何かを……。


 見間違いじゃない。レンズの光がはっきりと反射されていた。あれは……、隠しカメラだ。


「虹塚先輩。アレ……」


 俺が小型カメラの方を指さすと、虹塚先輩も気付いたようだ。誰が設置したかなど、考えるまでもなかった。


「お母さんったら……」


 さすがの虹塚先輩も、母親の暴走に眉を潜めている。去り際に見せた笑みは、こういうことだったのだ。当然、カメラはすぐに取り外すことになった。


「どうです? 届きそうですか?」


「駄目だわ。私の背より高い位置にあるから、台になってくれない」


 発見されても、すぐには取り外せないように、高い位置へと取り付けてあった。こんな犯罪まがいの行為を実践に移すところと、用意周到なところは、虹塚先輩と似ている。やはり親子なのだなと、妙なところで感心してしまった。


 俺は言われるままに、土下座に姿勢でかがんで、虹塚先輩のための台になった。先輩は遠慮なく乗っかってくる。重……、くはなかったな。


「まさかこんなことをする羽目になるなんて……」


 さっきまでの甘いムードからは、想像も出来ないな。


「私もよ。まさか爽太君を、尻に敷くより先に、足踏みすることになるなんて……」


「上手いことを言ったつもりですか?」


 というか、俺を尻に敷くつもりなのか……。ひょんなことから、恐ろしい未来予想図が明らかになってしまった。今は付き合い始めたばかりなので、優しく接してくれているが、その内に凶暴な本性をあらわにするということか?


 思い返してみれば、虹塚先輩は、まだ正体を隠して接近してきたときに、高笑いしていたこともあった。


「お母さんったら、相当きつく固定しているわね。全然取れないわ」


「あの……。俺が代わりましょうか?」


「駄目よ。ここは爽太君の背でも届かないわ。それとも、私を踏み台にするつもりなのかしら?」


「え? いや……、滅相もない」


 深く考えないで発言しただけなので、虹塚先輩に聞き返されて、ドキリとしてしまった。その同様のせいで、体が揺れてしまう。


「爽太君。体を動かさないで。私が落ちちゃうって……。キャア~~~!」


「虹塚先輩!?」


 俺が顔を上げた時には、虹塚先輩がもう転落してくるところだった。とっさに俺は体勢を立て直して、先輩を抱きしめる。


 ここまでくると、勘のいい人は既に察しているかもしれないが、その際に、虹塚先輩の胸を思い切り鷲掴みにしてしまった。先輩は、目を白黒させていたが、幸いなことに、悲鳴を上げられることはなかった。


「爽太君。さっきはしてくれなかったのに、こういうタイミングで仕掛けてくるなんて……。あなたって、そういう趣味の人なの?」


「違いますよ……。これは、不可抗力です……」


 どうして俺は、落下してくる女子を受け止めようとすると、こういう展開になってしまうのかね。ラッキースケベを通り越して、呪いを感じるよ。


「と、とにかく! 怪我がないようで、何よりです」


 話を強引にいい方向にまとめようと試みた。だが、その努力も、落下してきたカメラによって、打ち砕かれてしまう。


 虹塚先輩が躍起になって外そうとしていたカメラが、今頃になって落下してきたのだ。どうやら、もう少しで外れるところだったのが宙ぶらりんになっていたらしい。それが重力に耐え切れなくなって、今落下してきたのだ。


 そして、それは俺の額にジャストミートすることになる。思わぬ衝撃を受けた俺は、気絶。もう踏んだり蹴ったりだ。


パソコンの不調の原因が依然分からないので、

予備機を購入して、投稿を続けることにしました。

……絶対に直してやる!!

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