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第百十四話 さようなら、アリス…… 中編

 俺の許嫁でもある虹塚先輩が、アリスと別れるように迫ってきた。しかも、今すぐに別れろという。


 俺からキスをしてしまったら、アリスと別れるという約束はしていたが、ただちに実行に移されるとは思っていなかった。きっと下手に時間を与えて、俺とアリスで、作戦を立てられるのを避ける狙いだろう。俺の性格をよく分かっているといえる。


 渋る俺に痺れを切らして、虹塚先輩がこの場にアリスを呼び出そうと、彼女に電話をかけてしまった。アリスと虹塚先輩は、そんなに親しいイメージがないのに、電話番号を知っていたことを密かに驚いたが、きっと俺の知らないところで入手したのだろう。


 とにかく、今は、電話番号のことを気にかけている場合ではない。俺は、アリスに電話に出るなと、脳内で必死にエールを送った。彼女が虹塚先輩からの電話にさえ出なければ、まだ時間を稼ぐことが出来ると踏んだのだ。


 しかし、世の中は無情なもので、アリスはすぐに電話に出てしまった。俺は絶望の思いで、天を仰いだ。


 俺の憂鬱な心情と対照的に、虹塚先輩は明るい口調でアリスと話し出した。ここで始められようとしている話し合いの内容を考えると、先輩の明るさは、かなり浮いた物に思えた。


「お久しぶりね。私が誰なのかは分かるわね?」


 定番の「もしもし」を使わずに、何かオレオレ詐欺みたいな切り口で話し出した。果たしてアリスは、こんな出だしで、電話の相手が虹塚先輩だと分かるのだろうか。


「私もあまり話したくないから、単刀直入に言うわね。重要な話があるから、あなたと私、それに爽太君も交えて、ちょっとお話でもしましょうよ。え? 爽太君が来る訳がない? 残念ね。彼なら、今、私の横にいるの。信じられないなら、代わってあげましょうか?」


 アリスのため息が、今にも聞こえてきそうで、心底申し訳なくなってしまった。いつ先輩が携帯電話を突き出してくるか不安だったが、アリスは俺の声を聞こうともしてくれなかった。彼女の機嫌があまりよろしくないのが手に取るように分かる。


 そんなただでさえご機嫌斜めなアリスを、この後、さらに激昂させることになると思うと、俺の不注意がもたらした結果とはいえ、逃げ出したくなってしまう。


「うふふふ……。それはどうかしらね……」


 話の詳細までは分からないが、揉めているのだけは、よく分かった。アリスと虹塚先輩って、仲が悪いのか? などと、海で二人が顔を合わせていることを知らない俺は、呑気なことを考えたりしていた。


「アリスちゃん、来てくれるそうよ」


 通話を終えた虹塚先輩は、俺の顔を見てニッコリと笑いかけてくれた。先輩は、すっかり勝利を確信しているような顔をしているが、俺はというと、それどころではない。


 このままでは、本当に別れ話が始まってしまう。


 焦りを感じた俺は、座談会を中止に出来ないかと、虹塚先輩に掛け合ってみたが、いつもの調子でのらりくらりと交わされてしまった。


 そうこうしている内に、アリスがやって来てしまった。つまり、俺にとって、死刑宣告に等しい時間が始まったことを意味していた。




「急に呼び出したりして悪かったわね」


「……いえ」


 虹塚先輩が話しかけるなり、アリスの表情がにわかに険しくなる。というか、この二人は、やはり知り合いだったようだ。お互いの名前を知っている程度だと思っていただけに、意外な気がした。


「アリス……」


 声をかけてみたが、返ってきたのは、鋭い視線だった。明らかに、俺のことを非難している目だ。日頃から、アリスに強い言葉をかけられることが多い俺も、思わず太持論でしまう迫力があった。


「爽太君……。どうしてこいつと一緒にいるの? 知り合いなのは知っているわ。海に行った時も同じグループだったものね。でも、二人で徒党を組んで、私を呼び出す意味が分からないわ!」


 いきなり先輩をこいつ呼ばわりだ。アリスと虹塚先輩の不仲なのは、これで確定した。


 決してアリスを陥れるつもりで呼び出したのではないと否定しようとしたが、よく考えてみれば、それで間違いないんだよな。悪意を持って、こんなことをしている訳ではないが、そんなことを言ったところで、何の意味もない。結局、陥れることになってしまうのだから。なので、黙り込むしかなかった。


「まあまあ。痴話喧嘩はそこまでにして、本題に移りましょうよ。アリスちゃんも、私と長い間、話したくはないでしょ?」


「そうですね。一刻も早く、こんなしょうもない場所から抜け出して、爽太君と二人きりで過ごしたいです」


 俺と二人きりで過ごしたい……。本当なら、胸の躍る言葉も、今はひたすら心を締め付けられる思いだ。こんな彼女に、これから別れ話を切り出さなきゃいけないなんて……。


 やっぱり駄目だ……。卑怯者呼ばわりされてもいいから、虹塚先輩に謝ろう……。そう心に決めかけた時だった。


 俺の内心を呼んだかのように、虹塚先輩が前に出た。別れ話を切り出せそうにない俺の代わりに話をする気なのだ。


「アリスちゃん。唐突なんだけど、爽太君と別れてくれないかしら」


「……」


「……虹塚先輩」


 本当に唐突だ。というか、ストレートだ。アリスは、一瞬呆けていたが、すぐに真顔に戻り、はっきりと拒否した。


「お断りします。どうして、私と爽太君が別れなきゃいけないんですか?」


 お決まりの返しだ。それに対して、俺と虹塚先輩が交わした約束のことを切り出すのだろう。そう思って、唇を噛みしめたが、先輩の口から発せられたのは、全く違うものだった。


「私と爽太君で、ちょっとした賭けをしたのよ。それに私が勝ったら、爽太君は、あなたと別れて、私と付き合うことになっているの。結果は、想像がつくでしょ?」


 俺がどう説明したものか悩んでいたというのに、虹塚先輩は、あっさりと言い切ってくれたものだ。


「賭け?」


 アリスが、値踏みするような目を俺に向けてくるが、それで虹塚先輩の嘘は、途端に見抜かれてしまった。


「アハハハハハ!!」


 嘘を見抜くと、突然甲高い声で、アリスが高笑いしだした。よほどおかしいのか、それとも怒りのあまり、気が触れてしまったのか、アリスはしばらく笑い続けた。


「気は済んだ? 私には理解出来ないけど、爽太君と別れさせられるのが、そんなに楽しいの?」


「そんな訳……、ないじゃない……」


 笑い過ぎたせいで、荒くなってしまった呼吸を整えながら、アリスは虹塚先輩を馬鹿にしたように言い放った。


「何が賭けよ! 早い話が、汚い手を使って、別れ話を強制的に勧めようとしているだけでしょ? それで私が大人しく聞き入れるとでも思ったの!」


「ひどい言い様ね。まあ、これまでの私の行いを考えれば、仕方のないことかもしれないけど」


 アリスから口汚く罵られても、虹塚先輩の心は揺るがない。何故なら、彼女には、絶対的有利な立場にいるという確信があるのだから。


「でも、残念……。今回は、ちゃんとルールに乗っ取って、決めたことなのよ。汚い手も一切使われていないのよ。なんなら、もっと細かく噛み砕いて説明してあげようかしら」


 虹塚先輩が、俺に笑いかけてくる。同意を求めているのだろう。自分に非があることなので、ハッキリと否定できない自分自身が恨めしい。


「あんまり……、訳の分からないことを言わないでもらえるかしら。あなたのことは、元々大嫌いなのよ。これ以上、からかわれたら、私にも考えがあるわよ」


 アリスが懐からスタンガンを取り出していた。目が笑っていない。不味い。彼女は本気だ。


「止せ! アリス! 早まった真似をするな!」


「あら、爽太君。そんなに慌てなくても、喧嘩になったりなんかしないわよ。私たちは、話し合いをしているんですから……。ね、アリスちゃん?」


 言葉だけ聞くと、冷静にアリスを宥めているように聞こえるが、実際はそんな優しい状態ではない。


 虹塚先輩も、表面上こそ無抵抗を通しているが、アリスから死角になるように注射器を構えているのが、俺の側からはよく見えた。アリスが仕掛けてくるようなら、受けて立つ気なのだ。


「や、止めろ! 止めてくれ!」


 俺は二人の間に割り込んだが、睨み合いは収まりそうにない。危惧していたように、やっぱりこういう展開になってしまうのか……!


2日中に投稿するみたいなことを、前回の後書きに書きましたが、

間に合いませんでした。すいません。

また、話の方も、思ったより長引いてしまい、今回後編になる予定が、

中編になってしまいました……。

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