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第十話 ゲームで熱くなってしまい、気が付いたら彼女がいなくなっていた

 舞台は休日のゲームセンター。俺は、アリスを含む女子三人と遊びに来ている。とはいっても、うち二人とは、この間知り合ったばかりだ。


 こっちは彼女連れだというのに、ゆりはアカリと良い雰囲気にさせようと躍起になっている。でも、俺がつれない態度を取り続けるので諦めたのか、代わりにアリスと親しくするようになっていた。


 クレーンゲームで、アリスが好きそうな猫のぬいぐるみを取ると、惜しげもなくプレゼント。本当なら、俺がプレゼントしてやりたかったのに。


「それでね。ここのボタンを押すと……」


 明らかに声優さんが入れたと思われる、間の抜けた猫の鳴き声が漏れ聞こえてきた。


「可愛い!」


 今の音声を可愛いとは絶対に思わないが、アリスのツボに入ったのは間違いない。Xのせいで、最近すっかり鳴りを潜めていた満面の笑みを見せていた。……出来れば、俺があの笑顔を引き出してあげたかったのに。


「こ、これは……」


 ゆりがアリスと良い雰囲気になっている。もう親友と言ってもいいくらいだ。俺は自分の彼女が盗られてしまったような感覚に陥って、不愉快な気分になってきた。というより、だんだん俺の中でジェラシーが燃え上がってきた。女子同士なので、嫉妬するのは筋違いなのだが、悔しいものは悔しいのだ。


「アリス! 次は俺が景品を取ってやるよ」


「え? 悪いよ。私は良いから、安曇さんに取ってあげて……」


「いいから!」


 ちょっと強引かとは思ったけど、ゆりに後れを取る訳にはいかない。俺はクレーンゲームで、カビバラのぬいぐるみを取ると、アリスにプレゼントしたのだ。これも、猫と同じようにアリスの好きな動物なのだ。


「あ、ありがとう」


 ちょっと呆れ気味な部分も観られたけど、好きな動物のぬいぐるみをプレゼントされたということで、顔がはにかんでいたのを、俺は見逃さなかった。


「さすが彼氏。アリスちゃんの好みを知り尽くしているわね」


「当然だ! まだまだお前には後れを取る訳にはいかない!」


 話が妙な方向にずれてきている気もするが、アリスがかかっているのだ。この勝負、負ける訳にはいかない。それは向こうも同じらしい。


「ふふふ! こういう雰囲気は、結構好きよ。アリスちゃんをかけて、クレーンゲームを続けるというのはどうかしら?」


「望むところだ!」


「え? いいよ、もう。これ以上プレゼントをされても、持ちきれないし」


「心配するな。店にビニールをもらえばいい。もちろん、景品は全部俺が持ってやる」


 売られた喧嘩は買わねばなるまい。アリスの制止を振り切って、しばしゆりと景品の取り合いに興じる。お互い、クレーンゲームの腕前はかなりのものなので、取りこぼすということはなく、決着がつかないまま、景品の山が積もり続けた。


 それから一時間くらい熱戦が続いただろうか。ようやく勝負の不毛さを理解した俺とゆりは、「停戦」の二文字が頭に浮かんだ。


「はあ、はあ……。こ、この勝負、引き分けかな?」


「決着はお預けだな」


 もうアリスが好きそうな景品は残っていないし、何よりも、お互いクタクタだ。少しは目を外し過ぎたようだ。決着は後日、改めてつけさせてもらおう。それにしても、俺が持つと強がったものの、結構な量になったな。これは俺でもしんどいぞ。


 あ~、久々に運動したせいか、喉が渇いた。どこかに自販機はないかなと……。あ……。


 自販機を探していたら、別の物を見つけてしまった。俺たちから少し離れたところで、一人突っ立っているアカリだ。


 まずい……。アリスの取り合いに熱中するあまり、アカリの存在を完全に忘れていた。


「ご、ごめんね。今まで放っておいて。アカリも一緒に楽しもうよ」


 気まずい思いを抱えながら、わざとらしい笑顔で歩み寄る。


「いえ……。いいんです。みなさんが楽しんでいただければ……」


 そう話すアカリの目は潤んでいた。一人だけ放っておかれたので、無理もない。いっそ罵倒してくれれば、どれだけ気が楽になるだろう。


 でも、性格がかなり良い子なんだろうね。寂しそうな笑顔で、気にしなくていいと言ってくれる。いくら頭に血が上っていたからといって、こんな良い子を一人だけ除け者にしてしまうなんて、とんだ失態だ。


「な、なあ! アカリの分も景品を取ってやるよ。どれがいい? リクエストしなよ」


 アカリの気を引きたい訳ではないが、贖罪のつもりで、ついこんなことを提案してしまう。アカリは気を遣わなくていいと言ってくれたが、それでは申し訳ないと、意地を張って、景品を取ってしまう。


「これ! このボタンを押すと、おじさんみたいな声で鳴くんだよ。うけるよね!」


 途中から、どうして俺はこんなに必死なのか分からなくなりながら、アカリに景品の良さをアピールしていた。これでは、まるでアカリのご機嫌を取ろうと、血眼になっているようではないか。


 何か後ろで誰かがすごくニヤリとしたような気がした。振り返って確認してみたけど、アリスも、ゆりも、不思議な顔をして、首を捻っている。おかしいな。確かに、何者かがほくそ笑むのを感じ取ったんだけど。


「ねえ。ずっとはしゃいでいたせいか、喉が渇いてこない?」


 ゆりの言う通り、喉がカラカラだった。そろそろ冷たいものを流し込みたいところだ。


「あ、それなら飲み物を買ってくるわね」


「いいって。俺が買ってくるよ!」


 アリスが勝ってこようとするけど、それは唯一の男である俺の役目だ。張り切り過ぎて、柄にもなく大声で名乗り出てしまった。こんな必死にアピールするなんて、俺のキャラじゃないのに。


「そ、そう? じゃあ、晴島君、お願い」


「私も、アカリも、レモンティーでいいから」


「おう!」


 何故かテンション高めで、自販機で頼まれたジュースを買っていると、メールが届いた。追加の注文でもあるのかと思って確認してみると、見知らぬメルアドからだった。


『自分からお遣いに走っている爽太君って面白い! 何か全力出している感じが可愛いよ❤』


 この人をおちょくった感じ……。Xからだ。あいつ、休日までストーカーしてやがるのかよ。しかも、俺に連絡する度に違うメルアドを使っている。証拠隠滅のつもりか? どれだけ暇なんだよ。もういっそのこと、姿を現して、最終対決にもつれこんじまえよ。


『でも、急いで戻った方が良いわよ。早くしないと……』


 メールはそこで終わっていた。結論を言わないあたりが実に嫌らしい。こっちが気になるような終わり方を敢えてしている方が気に入らない。


 Xに踊らされているようで腹立たしいけど、メールの件も気になるので、心なしか急ぎ足で戻ってみると、アカリだけがポツンと取り残されていた。


「あれ、アカリだけ? 他の二人は?」


 やや呆気にとられて聞いてみると、アリスとゆりは二人きりで、別の場所に向かったとのこと。今日はやたらとぼっちになるな、この子は。そんなに存在感が希薄という訳でもないのに。むしろ、胸に至っては、必要以上の存在感なのに。


 置いてけぼりにされたのに、アカリは気にしていないようだった。いや、むしろ嬉しそうにすら見える。


 何故?


 俺が戻って来なかったら、一人ぼっちだったんだぞ。……! 待て。この状況、俺とアカリの二人っきりではないか。


 そこまで考えたところで、ゆりの意図にようやく気付いた。


 妙にアリスに馴れ馴れしく接していたのは、全てアリスを連れ出すための布石だったのだ。そして、俺とアカリを二人っきりにして、良い感じにするのが目的。親友に素っ気なく振る舞っていたのも、全てはこの瞬間のためだったのか。


 ただ口うるさいだけのお守りと思っていたら、なかなか悪知恵が働くじゃないか。すっかり油断していたぜ。


 俺はまんまと、アリスと分断させられてしまったのだ。


「あの二人がどこに向かったのか知らない?」


「さあ……。でも、そんなに大きなゲームセンターじゃないから、その内見つかるよ。それまで二人で遊んでいようよ」


 もちろん、本当はどこにいるのか知っているのだろう。決して合流しないように、すれ違いを意図的に続けて、俺との仲を深める作戦なのだ。敵もいよいよ本領を発揮するつもりらしい。


「そんなことを言わずに……、ね❤」


 アリスたちを探しに行こうとする俺の右腕に、そっと身を寄せてくる。同時に、柔らかな感触が伝わってくる。


 この感覚は……、あれだな。あれを押し付けてきているということで、間違いあるまい。いくらアリスの前で興味ないと言ったところで、俺も一人の男子高校生だ。それなりの性欲はあるので、この攻撃は効く。


 さっきまでの儚い様子は、すっかり消えて鳴りを潜めている。成る程……。今にして思えば、あれも演技。二人で申し合わせて、俺を落としにかかっている訳だ。大したコンビネーションだよ、全く。


 しかし、悪いことというのは、連鎖するものらしい。ていうか、今日は厄日か?


 甘い誘惑に苦戦していると、後ろから声をかけられた。


「あれあれ? そこで歩いているイケメンさんはもしかして……」


 後ろから騒がしい声が接近してくる。俺の記憶が確かなら、知り合いの中で、一・二を争う厄介な人間だ。


 声の主は、俺の顔を覗き込むと、右手の人差し指を立てて、犯人を見つけた刑事のように、してやったりの顔で声を張り上げた。


「やっぱりお義兄さんだ! どうしたの、こんなところで? ていうか、横にいる女子はお姉ちゃんじゃない人だねえ。 もしや、これは浮気ってやつですかい?」


「そういうことを大声で言うな! 変な目で見られるだろ!」


 現に、アキのせいで、周囲からは奇異の目で見られてしまった。これでは、俺は浮気のばれた間抜けな男ではないか。


 くそ! 面倒なやつに知られてしまった。穏便に済ませたいから、今日遊びに行くことも黙っていたのに、こんなところで鉢合わせるなんてついていない。


「浮気じゃない。アリスだって一緒だ。今は訳があって、離れ離れになっているけど……」


「何だ、つまんないの」


 あ、こいつ。本気でガッカリしてやがる。昼ドラみたいな、どろどろの展開の方を期待しているな。相変わらず不謹慎な脳みそだ。


だんだん投稿時間が遅くなりつつありますね。本当はもっと早めに投稿したいんですけど……。

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