表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/19

08 管理者

 体を作るにあたり、魂核の役割を果たすものが必要になった。

 サニーは魂殻のみの存在であり、魂殻の発生源である魂核が存在しない。

 自己進化による魂殻改造を繰り返した結果サニーの魂殻は生物の魂殻とはまるで違ったものになっており、魔力で疑似魂殻を実際に作ったところでゲートが現れる事はないらしい。

 ゲートは生物の魂殻に引き寄せられる。生物以外の情報には引き寄せられない。

 サニーはサニーとして存在する上で必要な情報以外を外部に移しており、生物と判定される為に必要な要素を除いてしまっている。

 ゲートが無ければ魂核は形成されない。よって、サニーは魂核を得る事ができない。


 魂核が無いことの何が問題なのか。

 魔力供給の必要があるという点、疑似魂殻を展開する仕組みが必要であるという点で問題がある。

 魂核無しに魂殻を展開するには魔力で疑似魂殻を作る必要がある。

 本来の魂殻は魔力で作られておらず魔力を必要としないのに対し、疑似魂殻は構成材料が魔力である関係で魔力を必要とする。

 ただ疑似魂殻を維持するだけであれば基本的に魔力を必要としないが、計算能力などを使用し魂殻を変化させる場合に追加の魔力を必要とする。

 魔力は設置型魔法などの例外を除けば生物の体内にしか存在しない。

 魔力を供給するには魔力生成器官が必要であり、サニーを単独で活動させるには人工の魔力生成器官を用意する必要がある。

 また、ただ魔力があるだけでは疑似魂殻は生まれない。

 魔力を操作して疑似魂殻を展開する仕組みが必要だ。


 疑似魂殻を展開する仕組みと人工の魔力生成器官とを備えた物体。

 サニーがパソコンから出るにはそういうものが必要だった。

 暫定的に人工魂核と呼ぶ。

 サニーの魂殻を改造してゲートが現れる条件を満たせば良いとも考えたが、サニーが魔法を行使するには結局魔力生成器官が必要だ。

 天然物の魂核に拘るのでなければ人工魂核を作るだけで解決してしまった方が手間が減る。

 サニーの魂殻は相当に複雑化しており、現在のサニーとの同一性を維持したまま生物風の魂殻に改造するのは難しいものがある。

 まあ別に生物と同じ魂構造である必要もなし、人工魂核というのもいいんじゃないかという事で製作が決まった。


「俺は何をすれば?」


「必要な材料をまとめました。これを買ってきていただければすぐにでも作れます」


「どれ……えらく安上がりだなー」


「魔法がありますからね。原料だけあればいいんですから安くもなりますよ」


 ホームセンターとスーパーで全部揃う。

 人間の原材料費は数千円程度と聞いた覚えがあるが、人工魂核も原材料費だけを言えば千円程で充分らしい。

 肉体も併せて五千円以内に収まる。


「魔法か。組換え魔法?」


「ええ」


 便利な魔法だ。材料と情報があれば寸分の誤差無く同じものが作れるから複製にも使える。

 サニーがデータを読み取ったものはいくらでも量産可能だ。

 安い肉を高級な肉に作り替えたりできる。

 ただし、材料として分解されるものは無生物に限定されるという縛りはある。

 事故防止の為の処置らしい。

 死んでさえいれば無生物と判定されるから、特に不便は無い。

 この魔法はサニーが作ったものだ。魔法研究はサニーに丸投げしていた。

 数百ある魔法糸の効果を全て把握するのはなかなか骨であるし、俺は発想力に自信が無い。

 サニーは記憶も計算も俺より優れている。

 いざとなれば計算力にものを言わせて総当たりで魔法糸を組み合わせたりもできる。

 どう考えても俺よりサニーが適任だ。俺は無理はしない主義だ。


「いつものように、表示した魔法図どおりに魔法を展開していただければそれで完成です」


 ただ、サニーにも出来ない事がある。

 サニーは自前の魔力生成器官をもっておらず、またパソコン内から外部に魔力で干渉する事もできない。

 つまり魔法が使えない。実際に魔法を行使するのは俺の役目なのだ。

 とはいえ、サニーが体を手に入れればその役目も終わるのだが。


「これでサニーに体ができれば、俺もお役御免だな。

 サニーは自己進化できるし魔法も使えるようになる。俺が貢献できる事はなくなる」


「お役御免、というわけではないですが、そうですね。

 大体の事は私が担当できるようになります」


「ああ。養われるだけの穀潰しに戻ってしまうな」


「別段働く必要があるわけではないのですからそれで良いのでは。

 私は和仁のかわりに働く為に作られたのですし」


 なんかそう言われると一層駄目人間くさいな。

 機械に頼って労力を省くのは間違った事ではないはずなんだが。


「あー……あとはなんだろ、管理者への貢献、新魔法提供だったか。

 あれももう俺が出来る事なさそうだなあ」


「新魔法に関しては少し考えている事があります。

 和仁が新魔法を研究しやすいような道具を、と」


「お、そりゃ嬉しいね、気軽に作れるなら魔法研究へ参加するにやぶさかでないよ」


 特に魔法糸の把握がきついのだ。

 どの魔法糸との連携がうまくいくとかいかないとか、普通に繋げば失敗するけどこういう条件なら問題なく繋げられるとか、性質が複雑で思ったように作れない。

 感覚で作れるようになればあとは発想力勝負だから参加人数は多い方が良い。

 俺とサニーはもはや別の存在であるからサニーにはできない発想を俺が補える場面もあるかもしれない。


「まだ構想段階でして、もう少しかかりそうですが。あと、管理者についてですが」


「ああ」


「望まれているのは魔法研究なんでしょうか」


「わからんねえ。そうだとしても、真っ先にサニー作っちゃったからね。

 不便な体の人間特有の発想による魔法、なんてもんはもう作れない気がするね。

 用済みだとか言われて俺消されるかもしれない」


 今後はサニーの存在を前提とした生活になるだろう。

 一から十まで自力でやらねばならない環境でこそ生まれるような魔法は、もう俺には生み出せない気がする。

 感性が変化する事を恐れて自分の体や魂の改造はせずにいたが、サニーがいればそもそも俺に高い能力は必要ない。

 俺がぶつかった壁はサニーが粉砕してくれる。俺が感じた不便さはサニーが解消してくれる。

 そのような環境で、果たして良いものが作れるかどうか。


「一度目的を確認してみては? まだ一度もコンタクトをとっていないのでしょう?」


「ああ、うん……そうした方がいいんだろうけどなあ……」


 パソコンを購入した当日、さっそくネットに繋いであちこち見て周った。

 ネットで見られるものは書籍同様俺の記憶にあるものに限られるらしく、検索にひっかかるのは訪問した事があるサイトだけだった。

 更新は俺の死後はされていないようだ。

 続きを楽しみにしていたweb漫画も小説も半端な所で終わっている。

 もう続きを読む事はできないのだ。

 その見覚えのあるサイトばかりのネットの中に、一つ見覚えのないサイトがあった。

 入れた覚えがないのにお気に入り登録されている。

 サイト名は森本機関窓口。

 サイトを開くと「ようこそ、志田和仁さん」「森本機関はこの世界を管理している機関です」「御用がある際は下のアイコンをクリックしてください。森本機関小世界担当者とのインターネット通話が開始されます」などという文字が目に入った。すぐ閉じた。


 管理者。居るとは思っていたがまさかこんな形で接触してくるとは。

 もっとこう、脳内に直接語りかけるとか突然拉致されるとか、もったいぶった感じで登場すると思っていたのに。

 小世界担当者、という事はおそらくこの世界は彼らが小世界と呼んでいるものなのだろう。

 小。大があるという事だ。

 彼らが住む世界があり、それとは隔離された形で彼らの世界よりも小さなこの世界が存在していると考えられる。

 箱庭とか、実験場といったところだろう。

 この環境を整えたのは森本機関、あるいはその上位者であろう。

 その上位者が俺という事はあるまい。この世界に来た当初に考えた、ここが死後の世界であり俺の願望によって形作られているとの予想は、まあ外れだろう。

 死後ではあるだろうが、あの世では無い。

 俺の願望を吸い出して作ったのだろうが、主は俺ではない。

 俺は森本機関の実験動物か何かだ。

 実験動物とはいえ、俺の行動は今のところ俺の自由意思によって行われているように思える。

 思考も制限されているような違和感はない。

 俺が好きそうな環境に放り込んで放置。衣食住保障。おおむね自由。待遇には満足している。

 これといった悪感情はない。

 そもそも俺は死んだ人間だ。

 追加でこんな穏やかな日々をプレゼントしてくれたのだから、感謝こそすれ恨みなど持つはずもない。

 この先扱いが変わるのであれば俺の感情もまた違ったものになるだろうが、少なくとも今は森本機関を敵だと認識してはいない。

 しかし……


「なんかこう、あっさりネタばらしされそうでな。

 俺の状態だの、役割だの、世界の構造だの、相手の目的だの、全部」


「はっきりするのは良い事かと」


「いや、心の準備がね」


 怖いじゃない、お前の記憶は全部作り物だったんだよ、とか言われそうで。

 なんだっけ、世界五分前仮説? ああいうのかもしれんし、下手すればこの世界ゲームの中だったりするかもしれないし。


「俺の記憶、整合性とれてた? 作り物っぽくなかった?」


「特に異常はないと思いますが、他にサンプルがありませんので異常を異常と認識できていない可能性はあります」


「だよね」


 異常ってなんだろね。

 その基準自体が狂わされている可能性もあって、何がなんだか。

 考えると落ち着かないから変身魔法エディタに逃げたのだ。

 三週間遊び倒してどうにか平静を取り戻し、その後はなるべく森本機関の事を考えないようにして過ごしてきた。

 あの時の俺の心理状態を考えるに、こちらから接触する為の窓口だけを提示して自分から接触してこないという森本機関の対応は優しいものなのかもしれない。

 俺の準備が整うまで待ってくれているように思える。


「連絡、とってみようかな」


「ご随意に。つらいようならご無理をなさらなくとも」


「いや、大丈夫。

 よし、じゃあサニーの体作って一週間ほど遊んだら肚くくって連絡とってみるよ」


 もう少しだけゆっくりして、思い出作ってからにしよう。

 下手すれば話聞いてすぐ自害とかしてしまうかもしれないし、サニーが人工生命として独立するのを見届けてからの方がいい。

 やはり作ったからには責任持たないと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ