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06 パソコン

 あれから一週間ほどかけて二冊目も読破した。

 筆者は飛行魔法に並々ならぬこだわりがあるらしく、二冊目はただひたすら飛行魔法について書かれていた。

 大気組成や気圧の違い、変身魔法による肉体の変化といった条件の違いをあげ、それぞれの場合に最も適した魔法の組み方使い方が詳細に書かれている。

 半分以上は軽く文字を追うに留め、理解と記憶を半ば放棄した。

 現実世界の科学や航空力学等の高度な知識が要求される内容が多く理解が難しいのもあったが、俺は空には然程興味が無いので気力がもたなかったという部分が大きい。

 一週間もかかったのはその為だ。

 ただひたすら飛行魔法について書かれた本を読むのは少々気が滅入るものがあり、休み休み読んでいたものだから読み終わる頃には一週間が過ぎていた。

 それでも読み飛ばす事をしなかったのは、所々に魔法全般に応用の効く小技や、新しい魔法開発に役立ちそうなこぼれ話が盛り込まれていたからだ。

 どうにかして全編読ませてやろうという執念染みたものを感じる。


 そのこぼれ話の中に、AIについて触れている部分があった。

 魔法によって作られた疑似的な魂殻、それを利用して装備品の管理や操作を行わせるというものだ。

 魔法学入門は飽く迄入門書らしく、高度な魔法を扱っていない。

 こういう魔法が存在しますよ、と紹介するに留め、構造を公開しない。

 飛行魔法だけが例外扱いで微に入り細に入り解説されているが、それ以外は多少のヒントがあるばかりだ。

 AIについても具体的な作り方や設定の解説は省かれていた。

 飛行そのものに欠かせない魔法ではないかららしい。


 AI。いいじゃないか。最初の研究はこれにしよう。

 話し相手が全く居ないものだから、最近はまともに舌がまわらなくなってきて困っていた所だ。

 作業を丸投げできるのもいい。

 息抜きにいくつか魔法を作って試してみたが、高度な魔法は使用中に気がぬけない。

 状況の変化に合わせて適切な選択をし続ける必要がある。

 飛行魔法などはその最たるもので、できれば自動運転モードが欲しいところだ。

 魂核内部の記憶領域から任意の知識をいつでも引き出せる魔法の存在も示唆されていたから、それもまとめて研究しよう。

 そうすれば暗記の必要が薄れるし、AIにも応用が効きそうな気がする。

 そうと決まれば研究だ。

 三冊目は夜眠れない時にでも少しずつ読み進めればいいだろう。読書漬けの日々で少し疲れた。


 その前に、ちょっと買い物でもしてこようか、飛行魔法の練習にもなるし。

 金は財布にお札がぎっちり入っている。管理者が俺の意を汲んで無料化を諦めたらしい。

 その代わりに収入の無い俺の為に金銭を支給する形に切り替えたようだ。

 寝て起きると財布に金がぎっちり詰まっていた。

 なんというか、扶養されているように思えて気が引ける。

 思えて、も何も食料から住居から金銭から、何から何まで与えられるばかりで俺は完全に養われる立場の人間なのではあるが。

 ヒモ、というのはこういう気分なのだろうか。

 俺を招き入れたのも扶養すると決めたのも全て向こうなのだが、なんとなく肩身の狭い思いがある。

 早く利益を与える側にまわってこの状態を脱出したいところだ。

 心理的な貸し借りが無い状態になんとか持ち込んでのびのびと暮らしたい。




 飛行魔法超怖い。

 人間に三次元機動はちょっと無理があるんじゃないか。

 レーダーに鳥を捉える度に進路を変え高度を上げて充分な距離をとり、それなりの時間をかけて山陽町に到着。

 低空低速飛行を容易にする魔法があったのでそれに切り替え滑るように道路上を飛ぶ。

 今後は主にこっちを使う事にしよう。人間は地面の上で暮らすのが一番だ。


 山陽町のホームセンターに到着した。金が無くて前回買えなかった物を揃えようと思う。

 レジが様変わりしている。

 どうやら所定の位置に買い物かごを置くと液晶に金額が表示され、運賃箱に似た投入口に金を入れる事で支払いをする、という手順に変わったらしい。

 おつりは下方にある釣銭の排出口から出てくる。小物を一つ買って仕組みは確認した。


 ホームセンター、とは言ったが、この近辺唯一といっても良い大型店という事もあってか家電製品の品ぞろえが豊富だ。

 パソコン売り場もある。

 生前の記憶では流石にパソコンは扱っていなかったように思うのだが、まあどうせ管理者が売り物を変えたのだろう。

 今日ここに来たのはパソコンの入手が目的だ。

 片づけの際、部屋のゴミ箱の裏にLANポートが見つかった。

 おそらく、インターネットが使える。


 先程から管理者と呼んでいるのは文字通りこの世界の管理者の事だ。

 どういった素性のものかはわからないが、なんにせよこの世界を管理している何かが居る。

 ひとまず、それを管理者と呼ぶ事にした。

 俺が無意識に荒らしてしまった環境を補修したり、生物の活動や自然現象による無生物の変化を巻戻したり、財布に金を追加したり。

 魔法線を視認できるように意識を切り替えると町中至る所に設置された魔法を確認できるのだが、その魔法の内容が時折変更されていたりする。

 俺の行動に合わせて微調整しているようだ。購入方法の変更が良い例だろう。

 ルールに則った機械的な反応だけではなく、所々に人間的な判断を感じる。

 管理者と呼ぶのはそのためだ。

 LANポートもおそらくは管理者による改変であろう。

 どう考えても生前のあの家にはLANポートなど無い。

 来た初日に軽く片付けをしたのに、あそこにLANポートがある事に気付かないはずもない。

 俺が気付きそうな位置に新しく作ったと見た方が良いだろう。

 つまりは、パソコンを手に入れてネットをしろという事だ。

 本屋で魔法学入門を手に入れた時と同じだ。管理者はそれを望んでいる。

 俺がその意図に気付く事を承知の上で、俺に働きかけている。

 養われている身としては、受け入れる他あるまい。


 パソコン売り場でパソコンのスペックを確認するが、生前の知識がまるで役にたたない。

 いや、まるで、という程の事もないか、メモリやCPUやGPU等といった部品の名称は共通だ。

 だが、性能を判断するのが難しい。消費電力が消費魔力になってたり、CPUのコア数が書いてなかったり。

 メモリとHDDも単位がよくわからない。MBやGBとあるべきところに見たことのない文字が一文字あるだけだ。

 まあ、いいや。気に入ったデザインのやつを買おう。

 取りあえず高い方買っておけばスペック不足は起こるまい。

 いくら悩んでもわからないものはわからない。

 金は湯水のように使ってもまた湧いてくるんだから気にしないでおこう。

 いずれ返す予定だから返済額が増えてしまうが、まあ必要な出費だ。どーんといこう。


 他の商品も見て周るが、これといって妙なものは売っていないようだ。

 パソコンにも魔法技術が使われているようであるし、何か便利な魔法道具があってもよさそうなものだが。

 まあ、自分で作れという事なんだろうな。

 これまでに入手するように誘導されたものは二つ。魔法学入門と、パソコンだ。

 その二つを使って何かをするよう求められているのだろう。

 おそらく、求められているのは魔法研究だ。

 魔法の無い文化で育った人間に基礎のみを学ばせ放置する。

 新しい発想・発見を期待しているのだと思われる。

 パソコンは動かしてみないことにはわからないが、恐らく魔法研究に役立つ機能が付いているのだろう。


 変わった品は無いが、電化製品のうちいくつかは電の文字が魔に置き換えられている。

 差し込みプラグの形状も特殊だ。その特殊な形状に合う形の延長コードも売られている。

 魔法端子用延長コード……家にそんな端子は無かった気がするが、多分買って帰れば物陰に隠れていたものが見つかったりするんだろうな。

 あるいは、前からあったかのような様子でコンセントあたりに端子が増えているか。

 パソコンにも消費魔力の字があったから延長コードも買っていこう。


 帰ったら数日はパソコンいじりに使う事になるだろう。

 それがひと段落したらAI研究、あと記憶領域研究か。

 スーパーで冷凍食品買い溜めしとこう。長く籠る事になりそうだ。

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