表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/19

14 交渉

「はいこちら森本機関小世界担当の森本です」

「おはようございます、志田です」


 子機達との対面を終えてすぐ、森本機関に連絡を取った。いくつか要望があったからだ。


「おはようございます。何か御座いましたか」

「はい、娯楽と貿易について相談が」

「娯楽はともかく貿易、ですか。詳しくお聞かせ願えますか」

「ええ。まずは娯楽について。まず、現在私が使用しているパソコンですが、ネットの閲覧に制限がかかっていますね?」

「はい。志田様の記憶にないページは閲覧できなくなっています」

「しかしネットそのものはそちらの世界と繋がっている」

「はい、おっしゃる通りです」


 お、当たったか。専用回線の可能性も大いにあったから自信なかったんだが。


「その制限を、解除していただく訳にはいきませんか。完全な解放は無理だとしても、最早更新される事がないページばかりの現状は少し……」

「ええ、将来的には解放するつもりでした。現時点で全開放というわけにはまいりませんが、ある程度までアクセスできる範囲を広げましょう」

「ありがとうございます」

「いえ。ただ、通信内容には検閲が入りますのでその点はご容赦願います」

「ええ。ご迷惑をお掛けする事の無いように気をつけます」


 俺はともかく、サニーとその子機達があちらに与える影響は未知数だ。浅はかな行いはすまいとは思うが、個性が出てくればどうなるかわからない。サニーによる監視及び制御の仕組みも現時点ではどこまで有効に働くかちょっと読めない。当面は森本機関に安全装置として働いて貰った方が確実だろう。


「パソコンとネットの使用をサニーとその子機達に解放しますが、宜しいですか」

「はい、かまいません」


 よし、言質は取った。これで子機達に情報収集を頑張って貰えば技術格差も多少はましになるだろう。技術の詳細などの致命的な情報は流れては来ないだろうが、現在の彼らに何が出来て何が出来ないのか多少なりとも知る事が出来れば上出来だ。これは貿易にも関わる。何をするにしても情報は大切だ。俺と違ってサニー達は優秀だから誤った情報に踊らされる事もないだろう。


「次に、貿易に関してですが」

「ええ」

「今現在、私達にはそちらで流通している通貨を得る方法がありません。また、そちらで流通している製品も一部を除いて手に入らない」

「そうですね」

「当面は、そちらの厚意にすがって無償で製品を提供して頂く事は可能でしょう。しかし未来永劫というわけにはいきますまい。そちらの国民がそれを知って納得するかどうか」

「そうですね。私どもの国の国民が有償で手に入れる製品を無償で提供しているとなれば」

「悪感情を持たれる可能性もあります。そこで、できれば対価を払ってそちらの製品を購入したいと考えています」

「なるほど」

「対価を払うには、その前段階としてそちらの国の貨幣を得る手段が必要です。物々交換や労働力にしたって一度金銭的価値を計算してから交換するのですから同じ事です」

「ええ」

「しかし私達はあなた方に需要があり、且つ私達が提供できるものが何であるかがわかりません。また、提供してはならないものについてもわからない。そのあたりの、輸出入に関する取り決めなどを相談したいと思いまして」

「わかりました。上の者と相談しますので細かいところは後日という事で」

「はい、お願いします。あと一点」

「なんでしょう」

「ネット通販を利用したいのですが」

「わかりました。そちらはすぐに対応出来るかと思います。当面は日本円で購入できるようにしておきましょう。ただ、一部の製品については」

「ええ、購入できない物もある事は承知しています」

「はい、すみませんが私に判断出来る範囲を超えていまして。順次開放されていくと思います」

「ありがとうございます」

「いえいえ。他に、何かご用件は御座いますか」

「いえ、私の方からは以上です」

「わかりました。結果がでましたらメールで連絡を致します」

「はい、お願いします。ありがとうございました」

「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」


 終わったー。緊張してたから凄い疲れた。

 やはり、一方的に養われる関係は健全では無い。向こうの気が変われば捨てられたり奴隷に落とされたりと好きなように扱われる恐れもある。その辺を改善する為の交渉を仕掛けたというわけだ。

 彼らは俺を生み出し放置した事に付いて多少負い目があるようだったから成算はあったが、突っぱねられる可能性も充分あった。下手すれば謀反を企てていると取られてもおかしく無かった。我々が金銭や技術といった力を得て彼らの世界に関わってくるのは彼らにとって好ましい事ではあるまい。できれば完全なコントロール下に置きたいと思っているだろう。どう受け取られたかは返事が来るまでわからないが、まあ俺とサニー達を常時監視している新一郎氏なら俺の意を酌んでうまく説明してくれるだろう。してくれるといいなあ。少なくとも対等な関係を望んでいるわけでない事は新一郎氏ならわかってくれると思うんだが。その為に交流も貿易も森本機関経由のルートで行う意思を見せたのだし。


 多少のリスクを冒してでも、やっておかねばならない事だ。いつまでも受け身でいるわけにはいかない。特に、俺とは違い寿命が無いサニー達の今後を考えるならば。

 サニー達の扱いは現状では向こうの気分一つで決まる。俺が生きている間はともかく、俺の死後も今と同様に扱って貰えるかどうか。この状況を打開する必要があった。打開するにはどうすれば良いか。簡単だ。向こうの一般人と交流を持ち、向こうに対して利益を提供すれば良い。

 交流によって向こうの一般人にこちらの存在を認知してもらい、またどうにかして好感を持って貰う。そうすれば、彼らもこちらに対して無体な事をしづらくなる。その為に、ネットの解放を要求した。ネットを通じて交流を持とうと考えている。

 また、彼らにおびえねばならないのはこちらが彼らにとって重要な存在では無いからだ。居ても居なくてもどちらでも構わない無価値な存在。だからこそ気分次第で扱いを変える事が出来る。なら、技術や文化の輸出によって利益をもたらす重要な存在になれば良い。彼らの作ったものを買い、その対価として彼らに求められたものを売る。貿易が成立すれば多少なりとも関係が変わるだろう。


 ようするに今回やったのは拙いながらも外交交渉だ。下位の者から上位の者へのお願いではない。日出ずるところの天子、日没するところの天子に書を致す、というやつをやったわけだ。おそらく反感を持たれた。しばらくはおびえて暮さねばなるまい。

 反感をもたれようと、必要な事だった。必要な事であるならいつどのような形で行うかのみが問題だ。今回のやりようはベストでないにせよベターであったと思っている。こういう事はまだ関係の固まっていない早期にやってしまった方が良い。


「サニー、細部については任せてもいいか」

「はい、お任せください」


 能力があるのはサニーの方だ。俺は交渉事は得意ではない。とはいえ、ここで、新一郎氏とのやりとりを全てサニーに任せてしまうわけにもいかない。当面は俺が出る必要がある。増長したととられかねないからだ。

 森本機関窓口には「ようこそ、志田和仁さん」とある。彼らが対話の相手に定めているのは俺であってサニーではない。また、彼らは立案者である王ではなく新一郎氏を俺にあてた。王は未だに一度も俺の前に出てきていない。やりとりは全て新一郎氏を通している。これは俺と彼らの立場の差を示しているものと思われる。ここで俺がサニーを新一郎氏にあてれば、対等になったつもりかととられかねない。当面はこちらが下である事をわきまえているとアピールする為に俺が直々に交渉を担当する必要がある。そのサポートを、サニーに頼んだ。魂殻間の情報のやり取りが可能になったので、ちょっとしたテレパシーのようなものでサポートしてもらう予定だ。


「疲れたー」

「お疲れ様です」

「サニー、気晴らしに山陽川に泳ぎにいこうぜ」

「和仁は泳げなかったのでは」

「こないだの一人旅で試しにやってみたら泳げたんだよ。魔法使ってではあるけど」

「もう夏も終わりますが寒くはありませんか?」

「大丈夫大丈夫、魔法があればだいたいなんとかなる」

「まあ、そうですね。行きましょうか」

「よし、行こう行こう」


 じっとしていると不安な気持ちが湧いてくる。不安は遊んで忘れてしまおう。向こうからのアクションがなければこれ以上考えてもどうにもならない。悩むだけ損である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ