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結局なにしても負けかなっておもう

 益がないと見れば即座に撤退と判断するだろう。

 この場はそれで十分だ。

「ダメですよぉ、先輩。こういうのは後腐れなく処分しないと」

 とてもにこやかに、それでいて愛嬌を持った声音。そういう妖狐ちゃんの指先には燐光のような青白い炎が灯っていた。それは魂が燃えて放つ火のようでもある。フランケンの残骸にそっと放たれたそれはマッチ棒の火。それは風に吹かれて消えそうなくらいのちょろっとしたものだったが、対象に触れるや否や火柱となって、ガラクタとなったフランケンを火葬し焼け尽くした。

 妖怪バーなので火災報知器やスプリンクラーなんて気の利いたものは設置されていない。

 指先に灯された火がその普段は愛くるしい顔に陰影をつけ、怪しく瞬いている。

「知ってますか狐火って一度憑いたら、対象を燃やし尽くすまで消えないんです。だから、ドラキュラさんごとき土に還すくらいのことも簡単なんですよぉ」

 普段穏やかな妖狐ちゃんだが、今回ばかりは内心穏やかでないらしい。何に怒っているかはわからないが。

 サイクロプスはその鉄面皮のまま報告する。

「解析しました。妖狐:古代妖怪。能力は多種多様 エリート属に位置する妖怪です。現状の彼我勢力差ではエリート二体を相手にするリスクは避けるべきだと忠告します」

 えっ、オレは敵の数に含まれてないの。少し残念。

 ガキンチョは冷や汗を垂らしながらも、腰に手を当て、

「あっははははは、やぁねぇ、アタシが本気で相手してあげてると思ってたの。余興よ、余興。今日の所は一旦帰ってあげる。でも、アナタを諦めたわけじゃあないからね」

 姐さんを指さす。ドラキュラは部下達ごと煙へと姿を変え、ドロンと黒い煙となって店の外へと逃げていった。

「お、覚えてなさいよー」

 月並みな台詞だった。せめて覚えておいて下さいとか、名刺を渡すような台詞を残して欲しいものだ。

 でも、ま。今日のところはこれでいいだろう。


 駅まで三人揃って歩く。

 日は沈み、夜空に星々が現れはじめていた。

「ところでどうしてあなた達、あのバーにいたの?」

 まさか尾けていたとも言えず、オレは誤魔化す感じで頭をかいた。

「いや、あの。会社帰りに二人でたまたま」

「はい、そうなんですよ。たまたま」

 妖狐ちゃんもオレに合わせてくれる。

「ふ~ん、仲がいいのね」

 どうでもよさげに言われる。あら、ちょっと残念。嫉妬とかそういう展開を少なからず期待してたのに。

「あの、それじゃあ私はこれで」

 妖狐ちゃんが腰を折り別れのおじぎをした。

 彼女はオフィス近くに家を持っていると聞いたことがある。わざわざオレ達と駅まで付き合ってくるとは、ホントにいい娘だ。

 姐さんは、いつもどおりの無表情で、彼女の背中を指さして。

「送っていかなくていいの、彼女」

「えっ、なんで?」

「バカね」

 しれっと叱られてしまった。意味がわからん。

 それから、帰りの電車と降りる駅も共にする、オレと姐さんの帰る場所は一緒だ。会社の社宅、妖怪アパート「水木荘」

 そこへと街頭に照らされた暗い夜道を二人して向かう。

 共通の話題がないので、あれから終始無言で過ごしてしまった。

「ねぇ、さっきの平気なの」

 まるで、そのことを先ほどから気にしていたかのような、神妙な呟き。

「えっ、何がです。オレ、なんかヤバイことしましたっけ」

 元気をアピールするように、上腕二頭筋をみせつけるボディービルダーのポーズを見せつける。

 トスッ、

 軽くポンと姐さんの拳が、オレの腹に裏拳気味に放られた。

 普段ならなんともないのだが、今回ばかりは違う。思わず声を殺し、腹を抱えてアスファルトの路上にうずくまってしまう。

「グゥツ」

 アイタタタタ。先ほどフランケンから受けたダメージ。やはり妖怪臓器のいくつかが損傷したらしい。妖怪だから死にはしないが血尿がでるな、これは。

「ホント、バカね。わざわざ一発もらう必要なんてなかったでしょう。あの子、余裕で避けられたわよ」

 バレていたらしい。あの時、オレの近くには妖狐ちゃんがいた。確かに彼女はオレより遙かに優秀だ。避けられないわけがない。でも、それはオレが避けていい理由にはならない。万が一彼女にあたっていたらと考えると、今でも正しい判断だったと思う。

 痛みに耐えて、くちびるの端をつり上げた。

「避けてたら負けかなっておもう」

 意地を張って傷ついたほうがマシなことだってある。

 姐さんは微笑んだ。気のせいかいつもの冷笑よりも、すこしだけ温度を増して。

「まっ、ちょっとは見直したかな、部屋に寄って行きなさい。手当くらいはしてあげるわ」

 後ろ手にカバンを持ち、伸びをしながら夜空を見上げた雪姐さんはいつものクールビューティーな姿とはちょっと違って、より魅力的に見えた。

 かつて妖怪達はこの星空の下、人間達を驚かしその不安やストレスを食べては集団で歩き回り、人はそれを百鬼夜行と恐れた。

「私、いまの環境好きよ」

 その人間達もいまや夜を安らぎとし、昼間の職場を恐れるようになった。妖怪達も手をかえ場所をかえ、どこかのオフィスに棲んで人間達の負の感情を食うようになった。

 もう現代の夜に妖怪達の棲み場はないのかもしれない。

 それでも妖怪にはやはり夜空が似合う。目の前の同僚を見つめながら、そんなことを考えた。

 いやぁ、書きやすいですねぇ。妖怪もの。

 彼らはすでにキャラがたっているあたりが特に素晴らしい。

 日本に昔ながらいついていた妖怪達、彼らはとてもユニークでとても身近に感じられる存在です。子供の頃はそれを野山に感じていたのですが。

 今の職場で働きながら、あれ? この人? 滅茶苦茶イチゲーとかに秀でてるけど、妖怪か何かか? 仕事早すぎるぞ!?

 そういう想いから、もしかしたら妖怪達も現代に適応しようと、負の感情を吸い取るため、手を変え場所を変えてるのでは。そこから思いついたのが今回のシリーズ。

 得てしてスゴイ執念や情熱をもたれる方というのは、他者の目からは良い意味で妖怪じみて見えるものなのかもしれませんね。日本の妖怪にはそういうある種の尊敬が込められているようで、そういう所が魅力なのだと考えられます。

 

 それとボクはキャラクターの名前を考えるのが苦手でして、それを考えると1キャラにつき、大体1時間位から1週間ほど手が止まってしまうのです。妖怪なら種族を言えば皆さんにもある程度は通じますのでだいぶ楽ですね。

 でもいつまでも種族名だとかわいそうなので、どなたかネーミングセンスのあるかたが、名付けてくださると嬉しいですね(←無責任だな、オイ)。

 では、では、シーユー。失礼しま~す。

 よろしければ次回の「ブラック企業:ジュボッコ」もぜひ、お楽しみください。お待ちしております。

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