両方だとしたら一番まけかなとおもう
見下すように、頬に手を添えて高笑う。
「お客さん、もめ事は困りやすぜ他の客が迷惑しまさぁ」
険悪なムードを察したバー「路地裏」のマスター酒呑童子が首を突っ込んでくる。
「うっさい、他の客を帰らせればいいだけでしょ」
サイクロプスは無言で札束をとりだすと、マスターにそれを握らせる。
賄賂で穏便に図るというわけだ。
マスターはそれをさっと懐に入れると、他の客を、お代は結構ですからと追い出してしまった。
あとはご自由にどうぞ、というわけだ。
「そちらの雪女さんとあたしはエリートクラスの妖怪ってわけ、でもアンタみたいなザコは力任せのコイツで十分、行きなさいッ。フランケン」
ドラキュラの脇にそなえていたもう一人の部下、巨大な体躯と頭にネジをぶっさした頭の悪そうな大男。そいつがのそりと俺の前に立つ。
背中の妖狐ちゃんの腰に腕を回し、離れるよう促す。
「フランケン、とっとそいつらをのしちゃって」
「マッ」
命じられるままに振り上げられた鉄塊を思わすような腕。その先につけれらた巨拳が振り下ろされる。
ただ立ち尽くすオレを嘲笑うかのように放たれたそれは、猛烈な威力となって
その一撃にぶっとばされ錐揉みになりながら、カウンター席へとぶち当たる。割れた酒瓶とグラスがオレを惨めに濡らす。
まるでクレーン車の先につけられた振り子の鉄球を喰らった気分だった。
「アッハハハ。やっぱザコね」
サイクロプスが追加の札束をマスターに放る。
ああ、惨めだ。やっぱ外よりも家の中のが安心するわ。外は危険が一杯だわ。
ネットの住民達よ、ほんのすこしでいいオレに力を分けてくれ。
ニート妖怪であるオレは、全国に居るニート達から少しづつ、意味のない力を分けてもらうことができる。これまで数多くのニート達が壁殴りをしてきた無駄な力、無意味な憤り、それを集めて自分の拳に集約させる。
オレは濡れネズミな状態で立ち上がると、真っ直ぐデカブツへと向かっていった。
「警告します、無職妖怪の手にかなりの妖力反応があります。まともに喰らうのは得策ではありません」
「なんですって、フランケン。避けなさいっ」
時既に遅し、繰り出したオレの拳はもう回避不能な所まで来ている。
「ぶっ飛べ、デカブツ」
フランケンはとっさに両腕を胸の前に固めてガードをとった。恨む知恵があるなら、上司の指示に間に合わない己の無能さを呪うがいい。
オレの拳が相手へと突き刺さる。その数秒後、一点に集められたその力が明確な意味ある破壊となって顕現する。
「修理代は給料から天引きして出してもらうんだなッ」
その破壊力はフランケンのガードを突き破り、腕もろともに分厚い腹の筋肉に大穴をあけた。ドーナツのようにぽっかりと大口を空けたそこから、そいつを構築していたネジやバネの部品をまき散らす。そして、ゆっくりと背中から倒れ込むように座席を押しのけながら床へと沈んだ。
ドラキュラ達はそれを唖然とした調子で見つめていた。
眼前の光景が信じられないとばかりに。
「嘘、一撃ッ。こんなに強いなんて、そんなのデータにないわよ、サイクロプス」
ドラキュラは焦ったように助言を求めるが、当の部下からは返事がない。
隻眼の女性はただ黙って無表情に両手を挙げていた。
「残念だけど、あなた達。隙だらけだわ」
姐さんの指先には造られた氷の刃が鋭く光っていた。それを後ろから羽交い締めする体勢で、サイクロプスの首スジにそっとあてている。
形勢はこちらの勝利を確たるものへとかわっていた。半ば逆上気味に少女が吠える。
「ちょっとアンタ、そんだけ強いんだったら、なんか実績とか残しときなさいよねッ」
相手の正統な言い分。こんな時、オレの返す言葉はいつも決まっている。
「働いたら負けかなって思う」
「い、意味わかんねぇ」
彼女は崩れた顔で、オレをまるで未知の妖怪でもみるかのようにした。
「おままごと人形を持ってとっと帰るんだな。お嬢ちゃん」
挑発を受けて、グヌヌと顔を歪ませるヴァンパイアだったが、そこは彼女も管理職、冷静な判断力を失いはしない。