オレはまだ本気出してないだけ
「誰のおかげで飯食わせて貰ってると思ってるんだ。この会社にすくう寄生虫めっ」
朝方、オレはいきなりなんの理由もなく、大タコ課長に怒鳴りつけられ辟易していた。
日頃の鬱憤をここぞとばかり晴らすかのようにねちねちと叱ってくる。長引いてもイヤなので適当に謝っていたが、それも気にくわないらしく延々と同じことを繰り返していた。
いい加減付き合ってられないと感じていた所に、砂かけ婆さんと妖狐ちゃんが、
「ちょっと、あんた言い過ぎじゃあないの」
「そうですよ、先輩がかわいそう」
婆さんに言われ、課長はその赤い頬を青ざめさせた。彼女は社歴は長いため顔と口がきく。何かにつけてどこそこの部長や課長は自分が面倒みてやったと吹聴しており、かなりの情報通である。
他部所からは、お局様と呼ばれたりしていて、時折こうして誰かに砂をかけてくる。
砂をかけられた妖怪はたまったものではないが、なにせ言い返せない。彼女に弱味を握られている場合が多いからだ。
そう彼女は社内で敵にまわすと地獄を見るが、味方になってもらえばとても心強い存在なのだ。
「先輩は普段はぐうたらでも、これでいいところは一杯あるんですから」
かばってくれるのは嬉しいんだけど、オレにいいところなんて何かあったかなぁ。それを自分であげることができないのが悔しい。でも、怠けちゃう。
思わぬ擁護(砂かけ)に、課長も少し押し黙った。罰が悪そうにして、もういいと悪態をつく、こうして場は治まった。
ふい~と肩の力を抜く、ああ朝から無駄に疲れてしまった。
助け船を出してくれた二人にお礼をいいながら、ふと気がつく。
「あれ? 妖狐ちゃん、どうしてここにいるの。研修生じゃあなかったっけ」
そう。確か彼女はウチの部署ではなかったはずだ。
彼女はよくぞ聞いてくれましたとばかりに、頬を緩めて、
「えへへ、今日からここで配属されました。ご面倒をかけますがよろしくお願いしますね」
新人特有の謙虚さと愛嬌を持ちながら、
「ああ、こちらこそ。でもオレらの班リーダーは雪姐さんだから、仕事のことは姐さんに聞いたらいいよ」
彼女は機嫌を損ねたように頬を膨らませた。