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冒険

ヒロイン登場。

おっぱい大きいっていいですね。

すみません、下品で。

もう黙ります。

 冒険を初めて二週間、まだ棺になった者以外の人間を見ていなかった。

 

「…………ふぅ」


 賢一は頭を抱え、コンビニの駐車場に腰を下ろした。足元には今さっき殺したばかりのモンスターの死骸が並んでおり、徐々に光の粒子となって消えていこうとしていた。

 彼らは倒されると経験値とお金(なぜか円だった)、そしてたまに宝箱を残していく。

 その中に入っているものはランダムで、ただの回復薬の時もあれば、貴重な防具などであったり、プレイヤーの運が高いほど良いものが出る。

 今回スライムの腹から出てきたのはただの雑草。これでアイテム欄には雑草×10と表示されているはずだ。正直自分は運があまりないらしい。

 自分の家から隣町に行く数キロの旅だったが、行く先々でモンスターの群れに出くわし、そのたびに刀を振るうはめになってしまっていた。  

 レベルがあれから10も上がっている。

 ステータスの伸びにばらつきがあるのは、おそらく職業と武器のせいだろう。レベルとはまた別に職業やスキルにもこのゲームはレベルが存在していて、職業が剣士ならば力や体力が優先的に上がっていき、僧侶ならば精神や信仰心が上がっていく。

 さらにスキルを上げていくごとに、ステータスも変動するようで、賢一は刀ばかり使っていたので、剣戟や防御の技術が伸びたかわりに、術師系の値が全く上がっていなかった。

 恐らく今強い魔法とか浴びたら即死だろうな。早く装備を杖とかに変えて、少しは魔法も覚えたい。特に回復系の魔法が欲しかった。

 賢一はアイテム欄から緑色の瓶を取り出して、ゴクリと勢いよく飲み干した。すると傷がみるみる塞がっていき、疲労が消し飛んだ。半分にまで減っていたHPゲージが一気に満タンを示すグリーンに変わる。

 ぷはーとオヤジのような声を出して、一息つく。今ではもうおなじみになってしまったこの回復薬、なぜかすごく美味しい炭酸飲料なのだ。回復魔法を習得していない賢一は必然的にこのアイテムに頼るしかなく、今では命の源として貴重品のように扱っている。

 最初すごく苦味を想像していたが、飲んでみると絶品で、今では[アイテム]スキルを上げまくって[調合]という上位スキルを出現させ、自分オリジナルの上回復薬を作り出せるまでになっていた。

 賢一の作った回復薬は複雑な調合の結果、なんとメロンソーダ味になっている。

 飲めば体力が中くらい回復し、ステータス異常も治してくれる優れものだ。 

 よーし、今日もスキル上げて、また新しい回復薬を調合してやる! っと、勢いづいたところでふと気づく。

 

 ―――ああ、なんだかんだでこの世界に慣れてきているなって。

 

 一週間も異常事態にいれば、それが日常になるのだろうか。人間の適応能力というものは素晴らしい。

 賢一はすっかり見飽きてしまった『町』の風景をぼうっと見つめた。

 古野島町市街地、平日の午後三時、いつもなら営業中のサラリーマンやら学生でいっぱいの学研都市のはず。ちなみに賢一の通っていた高校もここにあったのだが……。

 しかし、ゲームが開始してからというもの、がらりとその様相を変化させていた。

 大通りの交差点は棺で埋め尽くされ、ただむなしく信号機だけが点灯し続けている。それと動植物の生態系が変化したのか、異常に大きな鴉がモンスターとして出てきたり、街路樹がいきなり襲ってきたりして危険極まりない場所に変身していた。

 コンクリートを突き破って木がどんどん生い茂っており、まるで世界樹のような巨木が町をすっぽりと包み込んでいる。北のオフィスビル群はびっしり赤緑色した蔦で覆われ、西には川が氾濫でもしたのか見たことのないような大河が自然に出来ていた。

 都会なんてもう言えない。

 これじゃあジャングルだ。

 

『ザザザ……ザ……ろう……です。今日早朝国会ではこの異常事態に特別枠の予算を編成。これは棺になってしまった国民を元に戻すための費用であり……ガガ、都道府県知事らも議会へ出席し、生き残った人達を集めて、この異常な世界についての現状把握と、解決策を話し合い……』


 腰に備え付けた小型のラジオからたまに電波が入り、近況を伝えてくれる。


 国や地方行政はまだうだうだ話し合いをやっているらしい。

 今になってまだ現状把握を行っているとか無能すぎるだろう。

 もう十数年も前になるのか阪神淡路大震災の時も発生から三日遅れでやっと機動隊が現地に到着したくらいであり、日本政府のイレギュラーに対する反応の悪さは相変わらずのようだった。


『……現在把握されて……るのは、オークなど獣人系のモンスター……であり、たまに強力な……がいるので、付近にお住まいの方々は、今すぐ指定された避難場所へ移動してください。以上、ガガガ……ースを終わります』


 無人のスーパーで取ってきたラジオからは結局何の問題解決策ももたらされなかった。それどころか、麻生首相が車で移動中、巨人系モンスターに襲われ棺になってしまったらしく、国会は大混乱中らしい。

 自衛隊も救助に乗り出してくれているらしいが、モンスター相手に戦うマニュアルなどなく、各地で苦戦を強いられているとか。

 一番の問題はシステムに慣れていないことと、このゲームにおける武器の攻撃力判定の不確定さだった。

 自衛隊は当然最初に銃やミサイルなどの近代兵器で戦ったらしいが全然効かず、仕方なくナイフやら近接戦闘武器で戦ったらしい。

 それでもアビリティーのセットし忘れとかゲームルールについていけない頭の固い現実主義者がまず死に、モンスターの数の多さに戦列が崩壊してしまったと聞く。

 どこから大量に湧いてきたのか、モンスターたちは人間の町を襲撃し、この一週間で世界中の人間のほぼ3分の2が命を落としたという予想が報じられていた。

 テレビ局がモンスターに襲撃された今の状況で、ラジオだけがただ一つの情報取得手段になっているのに、入ってくるのは聞く者を不安にさせるような内容のニュースばかりだった。

 賢一はとりあえず行く先々のコンビニの食糧や水を頼りに、東京を目指していた。

 ラジオでまだ棺になる前の麻生首相が東京や大阪、名古屋などの大都市では、生き残った人達を集めて避難させているシェルターがあるらしいから来てくれと訴えていたのだ。そこに行けば生きて動く人間に会える。その一心で賢一は足を動かす。 

 ……知っているだろうか。

 人間誰ともコミュニケーションをとらずに生きていると、精神的に不調をきたすのだ。賢一はここずっとモンスターの相手ばかりしてげっそりしていた。まず独り言が増えた。ぶつぶつ言いながら一人佇むその姿はかなり怪しい。

 早く棺じゃない人間に会いたい。話がしたい。都会に来たばかりのひとり暮らしの人間が、よくペットを欲しがる心境がやっと理解できたのかもしれない。

 この滅茶苦茶な非日常世界を一緒に嘆いてくれる同士が欲しかったのだ。

 賢一はまた刀をベルトに差して腰を上げる。こんなところにじっとしていてはまた魔物に襲われてしまう。

 電車が止まっているため、また歩きだ。

 アイテム欄に日持する食糧と水を×99個詰め込んできた。リュックなどに詰める必要がなく、ただ物を触って所持したいと思ったらアイテムとして登録されるのだから便利だ。ちなみに最高所持数は99個。それ以上は画面に表示されない仕組みになっていた。

 店員が棺になっていたから、お金も払っていない。実質盗んだことになるのだろうが、この非常時だ。きっと緊急避難ってことで無罪になるだろう。

 木々の合間をくぐり抜けて、ただ一人さ迷い歩く。

 元々線路があった場所に森の小道が出来上がって、踏切に雑草が生い茂り、梢の隙間から差し込む光で丸く円を描いていた。初春の寒さはどこへいったのか、3月でも暖かく、花の密を吸いに蜂がたくさん飛んでいた。

 レールを覆う下草を踏みしめて、賢一はまっすぐに東京を目指す。


「―――だ! 誰が……そう……いるんだ!」

 

 と―――、そこで東の方から声が聞こえたような気がした。

 

 すぐ近く、よく見なければわからないほどの細く暗い獣道の先に一筋の閃光が走る。あれは……戦闘の光だ。よくモンスターの攻撃を武器で弾き返したりすると、ああいった黄色の閃光エフェクトが発生する。

 

 ではこの森の奥で誰かが戦闘を行っているのだろうか。

 

 賢一の茂みを走ると一緒に、何度か怒鳴り声が聞こえてきた。

 恐らく女の声だろうか。

 ぶつかり合うような金属音と同時に、今度は男の怒鳴り声が轟いた。

 このゲームにはNPCがいない。人間の声がしたとしたら、それは間違いなくCPコンピューターではなく、生身の人間のものだ。

 賢一は喜び勇んで、その声の方向へと走っていった。

 途中向こう岸まで5メートルはあるであろう崖があるが、そんなもの気にしない。

 賢一はステータスの[早さ]はもう50を突破している。

 現実では1メートル少しが限界だったジャンプ力はだんだんと人間離れしていき、今では7メートルは飛べるようになっていた。もう少し鍛えたらオリンピックに出れるだろう。

 現実とゲームが半ば混じった世界。

 ここではステータスが全てだ。初期能力は全て自分の特徴や身体能力を加味して作られているようだが、レベルが上がると今までガリガリだった男もマッチョに負けない力持ちになれる。

 見た目ほどあてにならないものはなかった。

 崖から少し走った先に、オークたちが集まっているのが見えた。奴らとはこれまで何度も戦ってきたが、クリティカルに気をつければそれほど怖い相手ではない。動きは鈍重で頭も悪い。こんな奴らに苦戦するなんて、襲われている人たちはまだこの世界に慣れていないのかもしれないな。

 

「……?」


 しかし、何か様子が変だ。

 オーク三匹は草の茂みに座り込み、「ごふごふっ」と意味の分からない会話を交わしているだけで、彼らの近くには人間の姿が見られなかった。彼らはなぜか近づいてくる賢一には気付かず、別のことに夢中になっているようだった。「ゴッホゴッホ」と手を叩いて、興奮している。

 接近して背後からオークの頭に振り下ろそうと、鞘から静かに刀身を引き抜く。すらり、とした金属音に気づいたのか、オークたちが飛び上がって驚き、アワアワとバタつき始める。見た目醜い豚人間だが、そうしているとどこか愛嬌があった。

 同じモンスターだからと言って、全てのモンスターが交戦的とは限らない。

 このオークたちは気が弱いらしく、賢一が戦闘態勢に入るとすぐさま逃げ出そうとした。ため息をつき、追撃はかけず見逃してやる。

 それよりも今はこの近くで今もモンスターと戦闘しているであろう同じプレイヤーのことが心配だった。

 せっかく会えたのに、すぐ棺になられてはかなわん。

 まだ蘇生アイテムは一つも持っていないのだ。

 

「……あれ?」

 

 オークたちがそれまでいた茂み。その眼下は険しい谷になっていて、ごつごつとした灰色の岩肌に苔がびっしり生えている。

 賢一はそっとその谷底を覗いてみた。

 すると、そこにはオークたちが我を忘れて興奮するほどの光景があった。

 

 

 


 一人の少女が、一本の棒を片手に戦っていた。

 今時珍しい染めていない漆黒の長い髪。それを頭の高いところでポニーテイルにして、背後に流している。小さな顔を桜色に染めて、汗を細い腕でぬぐう仕草はどこかぶっきらぼうだった。

 切れ長の瞳が西日を浴びて焦げ茶に染まり、純白の肌がまぶしいほどの光を放つ。

 スラリと引き締まった体を黒と白の道着で包み、手に持っているのは彼女の身長ほどはありそうな長い棍だ。

 棒術でもやっていたのか、かなり堂に入った構えを見せる。

 格好もあいまってか侍のような雰囲気の純和風美少女だった。

 しかし、賢一が驚いたのはそのことだけではない。彼女が戦っているであろう相手―――それはモンスタ―であろうと必然的に判断していたのだが、それは間違いだった。


「へっへっへ。いい加減もうHPねぇだろう? 棺になりたくなかったらいい加減言う事聞きな」


「そうだぜ。俺っちたちはお前をモンスタ―から守ってやるって言ってるだけなんだからよ」


 彼女の敵は人間だった。

 男の二人組が禍々しい形状のナイフを持って、女の子一人を囲んでいた。

 どちらも腕に刺青をしたり、頭を派手な色に染めた不良学生みたいな輩だ。ネット用語で言うDQN。こんな状況でナンパか……いや、雰囲気からして強姦まがいの様相を見せている。

 世界がゲーム化して、この混乱に乗じて盗みや放火などに走る人間もたくさんいる。敵は魔物だというのに、同じプレイヤ―を殺して金と経験値を得るネトゲでも一時期問題視された種類の人間たちだ。

 法律などない混沌としたこの世界では、強い者こそが正義であるなどという考えの奴らがいてもおかしくない。

 こいつらもそのたちなのだろう。

 二人でパーティーを組んで、良い装備をして、その力で女を好きにしようとしているのだ。

 

 正直言って、吐き気がした。

 

 この世界が半分が現実なんだとまざまざと見せつけられる。

 本当のゲームならこんな奴らは絶対に現れないはずなのに……。


「お断りする。お前たちはモンスター以下のクズだ。わたしの身はわたしで守る。さっさと消えろ!」


 少女が棍を振り回し、男たちを威嚇する。

 しかしどこか動きが鈍く、その行動モーションにきれがなかった。見れば少女のHPゲージが黄色に変化して点滅している。あれは麻痺というバッドステータスのマークで、攻撃モーション中に動きが阻害され強い痛みを感じる。そして終いには完全に動けなくなるのだ。

 

「へへへ。その強がりがいつまで持つかな」


 一人の男がナイフを構える。

 柄のあたりが蛇の頭のようなデザインで、その刀身には緑色の汁が滴っていた。恐らくこれが少女を麻痺させている原因なのだろう。

 そしてもう一人の小太りの方がタックルの姿勢を見せ、体が雷に撃たれたかのように光を放つ。

 これはスキル[捕獲]だ。本来ならこれはある特定のモンスターを味方にする為に行うものである。それを少女目掛けて使おうというのだ。


「くっ、《……天は怒り、血を欲す。絶えて贄は久しく、神々の戦止める術なし―――雷初期呪文サンダークロー》」


 おおっ、魔法だ。

 初めて見た。

 

 彼女の周りを幾何学的な文様が円形に幾筋も囲み、漢字やら英字、しまいには古代くさび形文字らしきものまで現れて、上空へ真っ直ぐに向かい消えていく。

 するとなんということだろう。

 あれだけ晴れていた空が突然暗くなり、パリパリと空気が帯電する音が聞こえる。すると彼女が腕を振ると同時に、雷鳴が轟き、その直後爆発音が鳴り響いた。

 初級とは言え、この初期段階でもう既に雷魔法を習得しているのはすごい。

 男たちも戦闘不能にはなっていないようだが、まだ吃驚して腰を抜かしていた。彼女はその隙に逃げ出そうと駆け出していた。

 しかし、それにいち早く気づいた毒ナイフ持ちの男が、追撃をかける。

 戦闘の逃げ判定は防御スキルの高さや運、早さのステータスで決まるのだ。彼女のレベルは男たちよりも上で、早さも結構なものだった。が、麻痺毒を食らっている今は、思うように走れない。

 途中、背後からナイフで腕を切られ、さらに麻痺毒が体中に回ってしまう。ダメージはそれほどでもないが、かなり強力な効き目で、もう動けなくなったのか、彼女はその場にうずくまってしまった。


「……ぐ……はぁ」


 意識が朦朧として舌も回らないのか、彼女はただ男たちを睨みつけるが、それは何の抵抗にもなってなかった。

 男たちの頬が好色に歪む。

 

「へ、へへへ。[パラライズナイフ]様々だぜ。どんな強い奴もこれさえあれば、動けなくなってこっちのもんよ」


「おいおい、滅多に見れねぇくらいのいい女だ。さっそく頂いちまおうぜ」


 小太りの男が鼻の下を伸ばしながら、女の道着に手をかけた。

 しかし、彼らの狼藉は、ある一本の刀が邪魔をする。

 

「そっから先は18禁だ。多分これは一般向けのはずだぜ。CEROの代わりに俺が検閲してやるよ」


 賢一が飛びかかろうとしている男たちの間に割って入ったのだ。

 もう何十という戦いを駆け抜けたにも関わらず刃こぼれ一つしていない刃が、小太りの方の首筋にピタリと押し付けられる。

 これで賢一が軽く手を動かせばそれだけで《CRITICAL》+《急所攻撃》の当たり判定が出るだろう。

 ちなみにほとんどのプレイヤーの急所は頭、首、心臓などの普通ここを斬られたら死ぬだろうって場所だから、ゲームになったからって特別変わったところはない。

 急所は防御力に関係なく、大ダメージを負ってしまう。

 少女の魔法によってHPが半分以下になってるこいつらなら楽に倒せるだろう。

 できれば人間は殺したくなかったが、いざとなれば仕方ない。


「て、てめぇ、いつの間に……」


「やべぇ、こいつのレベル半端ねぇぜ。くそっ」


 サーチ系のアイテムを装備しているのか、賢一の情報が男たちにばれているらしい。

 やはりこのゲームシステムをよく学んでいるらしい。装備も初級とは言え一級品らしく、レベルもそれなりにあって、スキルも平均的に育てているみたいだった。


「ここで退くって言うなら、俺は何もしないよ。でも、あくまでこの女の子にちょっかい出す気なら、残念だけどあんたたちには棺になってもらう」

 

「横取りする気かよ、てめぇ!」


 男たちは悔しさに顔を歪め、こちらを睨みつけた。

 せっかく手に入れた上質な獲物を奪われると勘違いしているようだ。なんだかかなり荒んでいるな。どこの野蛮人だよ、こいつら。


「俺をあんたらと一緒にするな。この女の子はちゃんと保護するつもりだ」

 

「けっ、世界がこんなになってまで良い子ぶりやがって。……ふんっ、いいぜ。ここは俺たちの負けだ。そこの女はてめぇにくれてやるよ」


「……それはありがとう」


 賢一は油断なく相手の行動を見て、戦意がないのを確認してから、刀を引いた。

 小太りの男の方はさすがに棺にされる恐怖があったのか、素早く賢一の間合いから逃げ出す。

 そして振り返りざま。


「殺さないでくれたかわりにいいこと教えてやるよ。

 お前は俺たちみたいなくず、この世界のほんの一部だと思ってるようだけどそれは考え違いだぜ。俺たちは東京から逃げ出してきたんだ。

 元から大都会にはヤバい奴も大勢いたからな。そいつらがグループ作ってやりたい放題暴れまわってやがるのよ。お前も東京へ行くつもりなら覚悟しろよ。

 油断してるとあっという間に棺になってるぜ」


「…………」


 話を聞くかぎり、この世界に生き残った人達の中で、どうやら派閥みたいなものができているようだった。

 まず一つが既存の日本政府を頼り、ただひたすらシェルターにこもり、事態が改善されるのを待つ《傍観者》グループ。

 しかし当たり前だが全くレベルが上がらず、何時まで経っても外を歩けない。いくら備蓄が豊富だとしても、数百万人近い人間が閉じこもったままではいつか餓死してしまうだろう。

 そして世界改変一週間後、この引篭もり状態から危険を顧みず外から生活物資をシェルター内に運び込む《アタッカー》グループが自ずと生まれた。

 この連中が東京の中では警察代わりの役割もこなし、自衛隊や警察官の生き残りや一般人も合わせてだいたい10万人くらいの勢力になっていて、今でも続々と志願者が増えているらしい。彼らが率先してシェルターに近づくモンスターなどを狩って、戦えない者を守護しているという。

 さらになんとシェルター内に神社や武器防具商店などを建てて、《ギルド》グループを作り、そこで外敵に備えているようだ。

 

 まさにRPGで言う町や村が誕生しつつあるのだ。

 

 さすが日本。ずっと培われてきた穏健な民族性がここで役にたった。


 皆が一纏まりになって、与えられた役割ごとに一丸になって立ち向かったのだ。

 1食糧供給班 2守備班 3アイテム作成班など。これで東京の秩序は保たれたように思われた。


 しかし、ここでアウトローな第三の勢力が生まれた。


 シェルター内の集団生活に馴染めないはみ出し者、また自分の腕に自信を持つ者などから、続々とグループを離脱していった。

 彼らの中で人間を殺す方がモンスターを殺すより楽に経験値やアイテムを稼げると考えた者が《犯罪者》グループを作る。彼らはシェルターにまで攻撃をしかけ食糧を奪ったり、無法の限りを尽くす厄介者だ。

 そういった奴らは各地から続々と集まってきており、《日本政府》に対抗して新しく《反乱軍》を組織して、暴れまわっているらしい。どこの世紀末思想だよ、全く……。

 

 そして次に享楽者―――この世界の《ゲーム》を楽しもうという命知らずの変わり者が各々《冒険者》グループを作る。彼らはいち早くこの世界の異変に気づき、自分の身を守るため、ゲームシステムを学習した。

 人よりも良い装備を集め、効率良く経験値を集めた者たちだ。彼らは第六の大陸攻略に燃えており、日本政府に対して、船を出すように要求しているらしい。

 賢一も恐らくこの中では《冒険者》グループにあたるのだろう。

 

「お前みたいな甘ちゃんが生き残れるなんて思うなよ! 勝手に行って勝手に死んじまえ、クソガキ!」


 そう言い残して男たちは去っていった。

 かなり詳細な情報を無料でくれたし、根はいい奴らだったのかもしれない。東京で恐ろしい目にあって、人を信じられなくなったか。彼らの賢一を見る目はいつも警戒していて余裕が全く見られなかった。


 …………東京怖ぇぇぇぇ。


 基本日常ゲームしてるか、ゲーム作ってるかのどっちかだったから、荒事は嫌いな方だ。 

 東京は今、北斗の○状態らしい←(賢一の想像)。

 肩に棘のついた鎧を着て、頭がモヒカンみたいな奴らがバイクに乗って、喧嘩吹っかけてくるのだろうか。

 超怖いな、それ。 

 

「…………」


 少女が考えこむ賢一を不審に見つめている。

 おっと、そういえば麻痺状態だったな。メニュー画面から上回復薬を取り出す。取り出すと言っても、アイコンをクリックしたら画面から一瞬で出てくるのだ。それはまるで無から有を作り出すような光景だ。何度見ても不思議に感じる。

 ああ、あと三個しかないな。もうそろそろきれてしまう。早く素材見つけて調合しないと……。

 

「はい飲んで。大丈夫、毒じゃないから。これで麻痺も治るし、体力も回復するよ」


「……に……を、……ている? ……ど……んぞ」


「ん?」


 まだ全然喋れないのか。

 というか、あんまり信用されていないみたいだ。ちょっとでも触れたら殺す、というような威圧感が伝わってくる。まあ、男に不信感を持つのは仕方ない。あんなことがあった後だからな。

 しかし、だからといってここで放っておくわけにはいかない。ここは新縦浜市のあたりだろうか。本来なら東京にも近い交通の便の発達した近代都市のはずだろうに、今では森林ダンジョンだ。いつ凶暴なモンスターがやってきてもおかしくなかった。


「……仕方ない。自分で飲まないなら俺が無理矢理飲ませるよ」


 と、賢一は少女の鼻をつまんで、薬の瓶の蓋を開ける。

 

「!?」


 半ば冗談のつもりだったが、少女の方は吃驚したように目を見開き、嫌々と首を横に振った。

 半目になりこちらを非難するようにして睨む。しばらくこうして見つめていると、なぜか少女は恥ずかしそうに目を伏せて、最終的には観念したように頷いた。

 そして賢一の差し出した瓶を、麻痺が残るプルプルと震える手で慎重に掴むと、覚悟したように目をつむって一気に飲み干す。

 すると―――。

 

「……あ。おいしい」


「よかった。治ったようだね」


「そうだ。わたし、声が!」


 予想外に美味しい回復薬に驚いたのか、それとも本当に治ったのに驚いたのか、彼女は自分の喉をおさえて不思議そうな顔をしていた。

 手も足も自由に動き、半分まで減っていたHPバーもぐぐっとその長さを増していく。細かな切り傷だらけだった体もまるで風呂にでも入ったように埃まで落ちてピカピカになった。

 いつも不自然に思うのが、この『回復』の効果だった。 

 RPGでも回復すると傷が治るのは理解していたが、この世界では汚れまで落ちるようにできている。さらに驚いたのが、一度オークに左腕を斬り落とされたことがあるのだが、回復薬を飲むとなんとニョキニョキと新しい腕が生えてきたことだ。

 まるで自分が吸血鬼かゾンビの化物のようになってしまったかのような錯覚すら覚えた。


「あ、ありがとう。疑ってすまなかった」


「いや、気にしなくていいよ。俺が好きでやったことだし」


「そうはいかない。受けた義はまた義によって返すのが人の道だ。何かお礼をさせてくれないか?」


 少女が礼儀正しく、きっちり45度頭を下げて、賢一に礼を言う。

 今時珍しいほどの真面目な女の子だった。


「上杉謙信みたいなことを言うんだな。……それより、一度ここを離れよう。今の騒ぎでモンスターたちが興奮してる」


「ああわかった。それならわたしの家に来てくれ。ここからすぐ近くにあるんだ」


 少女は凛々しく頷いて、落とした棍を拾いあげた。

 なにやら上等そうな金属の棒で、先端に玉を咥えた竜がデザインされている。なにやら神々しいオーラも感じるし、かなり攻撃力が高そうな武器だった。


「君の家?」


「そうだ。うちの家は神社でな。なぜか周囲に魔物が寄りつかないんだ。このあたりの生き残った住民も皆そこに避難している」

 

 そう言えばチュートリアルで『困った時は教会か神社仏閣へ逃げ込もう』みたいなことが書かれていたな。お賽銭か寄付を払えば戦闘不能も回復してくれるし、この世界でも宗教法人ってお得だな。

 少女は賢一の横に並んで、木々が生い茂る山道を軽々と歩いていく。

 着ている道着からして、何か武道をやっていることがわかっていたが、身のこなしがすごく軽い。自分の身長以上はある棍を軽々と持ち上げ回転させる。棒術か何かでもやっていたのかもしれない。

 

「……ああ、言うのを忘れていた」


 森を抜けるため急いでいると、彼女はふと何か大事なことに気づいたようにこちらを見た。


「何を?」


「わたしの名前は柿崎刀華だ。よろしく」


 にこりと微笑む。白い肌と歯がまぶしかった。

 和風な格好と相まって、余計侍みたいだなっと印象を受けた。



またまた言っておきますが、この小説はフィクションですw

出てくる登場人物は架空の人物ですからねw

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