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チュートリアル

何度も申しますが、この物語はフィクションですw

登場人物、組織などは作者の頭の中で考えただけの、架空の存在です。

『チュートリアルへようこそ!』


 いきなり賢一の前にスクール水着を着た小学生くらいの女の子が現われた。

 彼女の名前は確かエミンちゃんというスクエニの看板キャラクターだったはず。ドラゴンファンタジー1の初代ヒロインであり、三つ編みおさげでメガネっ娘のドジっ子委員長という設定だったはず。

 何を隠そう親父が作ったキャラで、今でもコアなファンたちの間で人気があるらしい。

 

『何が知りたいのかな? エミンが優しく教えてあげるよ☆』


 メニュー画面の中のロリっ娘が可愛らしく小首をかしげる。音声は売れっ子声優である釘美夜さんの萌えボイスだ。

 えらい力の入りようだな、糞親父……。

 エミンちゃんがクルクル回って魔法少女のステッキで魔法を唱える。すると画面がまた反転し、『教えて欲しい内容をクリックしてね☆』という声とともに、妙に目がチカチカするエフェクトで選択肢が多数出てきた。


『①まずは装備を確認しよう! アイテム欄をチェックしてね! 役に立つものが入ってるかもよ。

 ②スキルは大事! コマンドアビリティースキルを装備セットしてないと、何もできないよ~(;_;)

 ③魔法の使い方。エミンちゃんのパーフェクトマジック講座♪

 ④武器の種類によってレベルアップした時のステータスの伸びに差が出るよ。自分で能力値を振り分けよう!

 ⑤コモンスキルを鍛えて、自分だけのオリジナルスキルを開発しよう! 

 ⑥戦闘講座

 ⑦この世界について

 ⑧モンスターについて

 ⑨武器について

 ⑩防具について

 ⑪スキルの個人差

 ………………

 ETC』


「長っ! どんだけ複雑なシステム組んでやがるんだよ」


 賢一はリビングの隅の床に座り込みながら、逐一メニュー画面に目を通す。 

 まだ全然信じがたいが、この世界が半分ゲームだとしたら、最初に説明書に目を通すか通さないかで全然違う結果になるだろう。プレイヤーの中にはゲームを実際にプレイしながら覚えるという人たちも多い。

 だが、説明書には製作者側の細やかな指示や冒険についての心構えなど親切に教示してくれているものもある。こんなわけのわからん世界で何の説明もないままに日々を過ごすのは考えられなかった。

 それに自分がどんな現状におかれているのか。あのモンスタ―たちや棺は何なのか。このゲームの世界観はどんなものなのか。そしてこの世界でもしも自分がプレイヤーだとしたなら、いったい何をしなくてはならないのか。

 まるでわからないことだらけだった。

 賢一はチュートリアル①②などをすっ飛ばして、⑦の世界観説明から見始めた。


『インストール・ザ・リアルインベーダーの世界へようこそ。

 このゲームはファンタジーの現実世界への侵食をテーマにしており、半分幻想なのに半分現実に身をおけるというリアル体感アクションRPGです。

 この世界では地球上にいる全ての人類がプレイヤーとして登録されます。申し訳ありませんが拒否権はありません。どうしてもお嫌な場合はさっさと殺されてゲームクリアまで棺になっていてください』


「エミンちゃん、可愛い顔して非道いことを言うな……」


『ご安心ください。この世界では例え殺されて棺になったとしても、本当に死ぬわけではありません。

 他プレイヤーからの蘇生魔法や教会神社お寺などの特殊施設で有料ですが復活することもできます。

 ですが自殺や病死、老衰などの特殊死亡ケースはいかなる手段を用いても復活できません。また棺になっている時に寿命が切れた場合も死亡と見なしこの世界から消滅することになってしまいますので、悪しからず……』


「ああっ、良かった。あの棺の人達はまだ死んでないのか」


 賢一が安堵のため息をついた。

 でも老人には結構キツいゲームシステムだ。この高齢化社会、年老いた人なんて若い人よりも大勢いる。その人達が棺の中で誰にも看とってもらえず死んでいくなんて可哀想だろう。なんとか全員復活させてあげたいが、有料って金とるのかよ! 

 ……いくらだろう? 

 レベルに応じて金額が加算されるらしいけど。


『このゲームの目的は突如太平洋上に現われた六つ目の大陸であるレイスヴェリアに住む魔王を倒すことです』


「はぁ? 六つ目の大陸だって?」


 賢一のメニュー画面が別ウィンドウで世界地図を表示する。

 いつも地理、世界史の授業で習った通りの図だ。北極を大陸に含めずにユーラシアなど全て数えても五つしかない。

 今いる現在地である日本に赤マークがついており、指でクリックすると拡大縮小もできるらしい。

 しばらくじっと見ていたが、何も変わったところはない。

 そう思っていたが、よく見るとニュージーランドの北東に、どでかい見知らぬ大陸ができているではないか。

 大きさはオーストラリアくらいだろうか。航空写真になっており、緑が生い茂った綺麗な土地のようだった。

 って、元々そこにあったハワイ諸島とかはどうした! 

 と、思ったら、どういった地殻変動が起こったらこうなるのかってくらいアメリカ大陸のすぐ横に移動していた。

 ありえない……。なんでもありだな、この世界。


『ちなみにモンスターたちはその大陸で繁殖して各地へ散らばっておりますので、レイスヴェリアを攻略することによってモンスターの出現数も抑えられる仕組みとなっております』


「……つまりは世界をより平和にしたかったら、さっさとこの大陸へ冒険しにこいってことか。なになに、モンスターの巣が何十箇所かあってそこを潰せばいいのか。くあー、広いなこれは」


『このゲームは人類が全て棺となり全滅するか、単純に十年経過した時点であなたたちの負けとなります。ですのでアクションRPGの苦手な方やモンスターと戦う勇気のない方はバックアップキャラとしてクリアに貢献する方が無難なのかもしれませんね。

 ですがそこらへんの詳細な作戦はあなたたちプレイヤーに一任します。自由にお楽しみください』


「……これで世界観の説明は終わりか。くそっ、なんてことだ。俺があんなゲーム起動したばっかりに……」


 賢一の頭に後悔と父親への罵りが浮かんでは消える。

 明らかに事態は深刻な方向へと進んでおり、この世界の混乱は全て自分の手で引き起こされたものみたいだった。

 ぎりっと奥歯を噛み締める。

 

(―――こんなのっ、俺が責任とるしかねぇじゃねぇか!)


 自分に全ての責任があるとは思わない。

 攻められるべきは糞親父だろう。だが、あいつの息子として。この事態を引き起こした者の家族として。当事者として。

 このままこの世界を放って、家に閉じこもってなんていられなかった。


(―――魔王を俺が倒すなんて言えないまでも、倒す手伝いくらいはしないと……)


『モンスターの生態は未だ何一つ解明されておりません。

 中には食べたらすごく美味しいものや、万病に効く薬になるものをドロップすることもあります。システムメニュー[設定]の中にはモンスター記録帳なるものがあるので、一度倒したモンスターはそこにデータがセーブされます。弱点なども記載されておりますので、クリアが楽になりますよ』


 賢一がぼうっとしている間にエミンちゃんがもう次のタブである、『モンスターについて』を説明していた。

 キャンセルしないとどんどん説明し続けるシステムになっているらしい。 

 

『次に武器と防具についてですが……。あらかじめ言っておきますが、ミサイルや核兵器でレイスヴェリアを攻撃しても意味がありませんよ。

 この世界に存在する全ての物にはステータスがあります。マシンガンなら弾丸一発につき攻撃力1など。極端にゲームバランスを破壊するような武器は攻撃力を落としてあります。

 強い武器や防具は上位スキル《錬金》や《盗む》などで手に入れられる可能性があります。スキルレベルを上げて是非とも最強の武器防具を開発してください』


「……核か。まあ、アメリカとかロシアならやりかねんけどな。どっちにしろ使えないのか。くそっ、使える武器や防具は自分で探せってか」


『なお初期ステータスはあなた自身の反射神経や能力に合わせて設定してあります。

 これによって個人差がかなり現れてしまうでしょう。しかしこれからのレベルアップ次第では誰でも超人になれます。戦闘はあなた自身のアクションゲームの能力にかかっています。頑張ってください』


「アクションは……少し苦手だ。いや、落ち着け。これは半分ゲームだ。怖くない。怖くないぞ!」


 賢一はまた外の魔物たちに目を向けた。

 スライムもリザードマンもオークも、自分よりも体が大きくて、普通に戦っても勝てそうに思えなかった。ゲーム画面だとあんなに小さいのに……。

 自分が元凶で始まったこのゲーム。こんな世界を生み出した自分自身で責任をとりたい。

 だが……だんだんと気持ちが萎えてくる。


「ぐ……、諦めるのはまだ早い。ふむ……、まずは装備確認だ。もしかしたらチートアイテムが入ってるかも……」


 賢一はチュートリアル通りにまずは自分の装備を変更することに決めた。

 メニュー画面の[装備]と[アイテム]に指で触れてみる。

 すると目の前に青白い別メニューのウィンドウが二つ出現して、武器防具アイテムなどの種類に別れたシステムアイコンがずらっと整列する。

 しかし、自分の所持品欄はまったくのゼロ。所持金もゼロ。

 装備確認しろって言うけど、装備できるものが何もないよエミンちゃん……。

 いや、アイテムの中に一つだけ何かある。[???]と書かれており、これは取り出してみないとわからないらしい。

 賢一はそれを人差し指でクリックして取り出してみた。メニュー画面から光の粒子が漏れ出して、どんどんと何かが具現化してくる。これはすごい。なんとも不思議だが神秘的な光景だった。

 そして出てきたものは……ただのポケットティッシュの使いさしだった。

 何一つ使えねぇ!

 賢一はさっそくティッシュを地面に投げ捨てた。


「いや、待てよ……」


 賢一は急いで立ち上がり、台所の棚へ向かう。

 ちらりと外を見るが、モンスターたちは未だ何もせずボーっと通りを歩いている。こちらに気づく様子もなかった。

 行動しているうちに、少し落ち着いてきた。どうやらゲームルール上、モンスターたちは家の中には入ってきたりしないようだった。そもそも町の中にモンスターがいる事自体がおかしいのだが。

 賢一は洗面台の下にある引き出しから、錆びかけで刃先のギザギザしたやたら切られたら痛そうな包丁を取り出した。

 それを右手でつかんで、またメニュー画面を開ける。

 

 ―――すると。


「おっ、装備できてる!」


 自分の武器装備の欄に、『刃こぼれした包丁』がセットされているではないか。軽く振ってみると緑色の閃光と共に、空を斬ったということを表す『ミス』のエフェクト。

 マジでゲーム世界だな。たまにあるネットゲームもこんな感じだっけ。

 賢一は改めてマジマジと包丁を眺めた。あまり強そうに見えなかったからだ。もう一度メニューを表示して武器ステータスを確かめる。

 ……攻撃力たったの3。

 どういう基準で攻撃力定めてるのかわかんねー!

 どう考えても冒険へ行く前の初期装備以下のようだった。贅沢は考えないが、少しでも襲われた時に勝率を上げたい。ってかひのきの棒より弱いんじゃないか、これ。

 じゃ、じゃああれならどうだろう?

 賢一は一階の渡り廊下を走って、親父の部屋の押し入れへと頭を突っ込む。長年掃除してないツンとしたカビ臭さが頭を刺激した。

 日本人形やら百科事典、今はもう使われていないガラクタとなったものたちがたくさんあった。

 そして、その中で……。


「あった! 日本刀!」


 RPGを作る上で親父が武器を制作する参考にしていた刃物だ。

 ちゃんと国にも登録してあり、別に銃刀法違反の犯罪行為ってわけではない。たまにしか抜かないし、芸術鑑賞目的に買ったもので、やましいことは何もなかった。

 武器を装備して自分のステータスを確かめる。

 おっ、[装備]武器アイコンが中級を表す青色だ。ちなみに初級が緑。上級が赤。最上級が黒らしい。

 しかし、この世界のモノ全てにはステータスがあるって言ってたが、攻撃力や防御力といった数値はランダムで設定されているのだろうか。

 どれだけの武器や防具がどれだけの性能を発揮するのか、まるで見当がつかない状況になっていた。

 

「この刀は、攻撃力……30!? うおっ、スゲー。これは当たりだな」


 賢一はスキル装備に剣戦闘を追加して、『攻撃LV3』改め『剣戟LV2』をアビリティーセットする。

 アビリティーとは戦闘中使える行動で、日本語訳すると能力って意味。なぜか装備している武器に応じた能力に変化するみたいで、刀を装備した瞬間コモンスキルががらっと変わってしまった。

 今持っているスキルは剣戟・防御・剣技・アイテム・捕獲の五つだった。両手剣だからか魔法が使えなくなってしまったらしい。かわりに剣技なるスキルがセットされている。成長すれば居合とか連続斬りとか覚えられるそうだ。

 基本アビリティーは六個しか装備できなくて、それ以上装備したかったらレベルを上げてアビリティーをセットするスロットを増やすしかないようだ。

 賢一は刀装備のアビリティーを全部スロットにセットした。そして、残り一つのスロットに、なぜか最初からあった自分のオリジナルスキル『インベード』をセットした。

 オリジナルスキル―――それは自分の特性と鍛えたスキルによって、新たに生まれる特別なスキルらしい。説明はなし。レベルを上げてから、使って確かめるしかなさそうだった。

 おっ、なんかメニュー画面に《ATTENTION》マークが出てきた。

 それはシステムからのメッセージで、クリックすると『戦闘ができるようになりました。チュートリアルでバトルの練習ができます』という意味の英文が現われた。

 どうでもいいが、英語の文が多いな。

 まあ、世界の公用語が英語だからしょうがないんだけど、日本語に変換とかできないものか。そう思ったら、オプション欄で変更できるみたいだった。

 便利だな……。

 

「よし、さっそく練習してみるか。このバトルで死んでも棺にはならないみたいだし」


 攻撃を食らっても痛みがフィードバックされないし、死んでも何のペナルティもない練習戦だ。その代わり経験値も金ももらえないらしいが、一度やっておいて損はないだろう。

 賢一はさっそく刀を鞘から抜いて、身構えた。

『…………ローディング終了。…………レベル10オーク。―――BATTLE START!!』

 ゲーム内でコンピュータが演算処理に最初戸惑ったかのように、少しメニュー画面がぶれた。そう思った瞬間、賢一の目の前の空間が歪んで、その亀裂の中から毛むくじゃらの豚人間が姿を現す。

 目が血走っていて、口から涎がだらだらこぼれ落ちている。相手の装備は大斧。頭上に表示されているHPゲージは500で、満タンの緑色だった。

 

「っ!?」


 ひぃっ、怖い怖い怖い!

 あっ、しまった。モンスターのレベル設定するの忘れてた。

 レベル1の賢一がレベル10のモンスター相手に戦えるわけがない。同じLV1に合わせておくべきだったのだ。

 そして何より、モンスターの威圧感が現実そのもので、明確な命の危険を感じ、体が麻痺してしまっていた。

 真っ黒な毛皮に覆われた2メートルは超える化物が、大きな斧を持って目の前に立っている。

 筋骨隆々な両腕を振り上げて、天井向けて雄叫びをあげる。

 

 まずいっ、もう戦闘が始まっているのか。

 

 ごつごつした死の塊が自分の頭に振り下ろされる。


「う、うわぁぁぁぁ!」


 視界一杯に斧の刃が映った。一瞬で遠い間合いから懐に飛び込んでくる。

 体重200kgを超える巨体が突っ込んでくるのは凄まじい迫力だった。相手の踏み鳴らす足音がメキメキとリアルな音を鳴らす。風がすっと頬をよぎり、実際の死の香りを味わった。

 相手の武器に赤い閃光がまとわりつく。《CRITICAL》クリティカルのサインだ!

 LV1の賢一がこんな攻撃防げるはずがない、……はずだった。

 しかし、賢一はぎりぎりで首を捻って、斧を紙一重で避ける。そしてすれ違いざまに刀で相手の胴をなぎ払った。


《COUNTER!! ダメージ200》


 その感触はリアルな肉を引き裂くズシリと重いものだった。これはゲームであって、リアルでもある。そのことを直に経験した。

 ひるんだ敵に続けて第二撃をお見舞いする。上段から体重を乗せて振り下ろす強攻撃だ。

 日本刀の刃が残像を滑らせて、白銀の閃光となってオークに襲いかかる。

 なぜか体が軽い。反射神経も以前とはまるで違っていたのだ。 


『ぎゃおおお!!』


 ダメージ180!

 

 オークが痛みに喚き声上げた。 まだ死なない! さすがにしぶといな。

 そして怒りに我を忘れ、がむしゃらに攻撃してくる。しかしそれが賢一にはまるで遅く感じた。

 なぜか目が冴えるのだ。さらにいつもより体が軽い。万年運動不足の自分とは全然動きが違っていた。ステータスのおかげだろうか。なぜあんなに最初から数値が高かったのだろう?


「っ、はぁ!」


 オークの斧を軽々と身を捻って避け、反対に右手に持った刀を深々とオークの腹にねじ込んだ。

 そして、突き刺した刃に思いっきり力を込めて、さらに心臓めがけて斬り上げた。

 最高の二連撃。《CRITICAL・HIT!!》と赤い文字が現われた。


『グぎゃああああああ!!』


 おおっ、筋骨隆々の肉体がまるで豆腐のように裂けた。

 貧弱な賢一の体は通常では考えられないほどの速度を発揮していた。先の攻撃は刀専用剣技で突きから相手の体を切り上げる二段攻撃だ。

 やはりこの世界の戦闘力は単なる筋力だけで決まるものではなく、ステータスによって全て決められているのだ。

 敵のHPゲージが一瞬でなくなり、《DEAD》という髑髏ドクロマークに変わる。

 血が部屋一面に飛びちり、オークの巨体が崩れ落ちて床板がつぶれる。そして長い断末魔とともに、一瞬の閃光が爆散する。すると次の瞬間には飛び散った血液やオークの肉塊すら毛一本残らず消滅していたのだ。

 経験値0、獲得金0、まあ、チュートリアルだから当然か。だが、なぜかおまけでアイテム『傷薬』を手に入れた。

 緑色の薬瓶で、賢一が手にとると吸収されるように消えてしまった。おそらくメニューのアイテム欄に送られたのだろう。使いたい時はまたメニューから取り出すことになる。

 ってか、部屋がボロボロだ。壁には斧が突き刺さった痕が残り、床は穴だらけ。

 おいおい、修理代だしてくれるんだろうな。


「…………ふぅ」

 

 賢一はズルズルと床に腰を落とした。

 刀が手からポロリと落ちて、がらんがらんと転がった。

  

 モンスターとは言え、何かを殺した。心が動揺で冷たくなっていく。

 背中は嫌な汗で一杯だ。

 最悪な気分。

 今でも膝が震える。

 さっきのは模擬戦闘であり、ただのCPUを消滅させたに過ぎない。

 それでも賢一は動物を自分の手で葬ったことは今まで一度もなかったのだ。

 

 ―――リアルを侵食するゲーム。

 

 何が現実で何がファンタジーなのかもう何もわからなくなってきてしまった。

 今のような戦闘がこれからずっと続いていく。

 このままずっと家の中にいても食糧が尽きていずれ棺になってしまうだろうから、絶対に外でのモンスター戦は避けられない。

 幸いなぜか自分の能力値には最初から少し+何ポイントかが加算されているらしい。レベル1の自分がレベル10のモンスターを瞬殺することができるくらいには。

 それでもいずれこのアドバンテージは消えてしまうのだろう。なぜなら恐らく先ほどのオークは若干弱めに作られていたからだ。だいたいチュートリアルバトルの敵は手加減してくれている場合が多い。

 外のモンスターがどんな仕組で、プログラム処理されているのか? それとも本当に生きているのか? コンピュータで動いているとしても、きっと奴らもAI学習機能なるものがついていることだろう。どちらにせよモンスターたちも戦闘によってレベルアップする。放っておいたら手におえなくなるだろう。 

 

「くそっ、説明聞いてもまだわからないことだらけだ……」

 

 これからどうすればいいのだろうか?

 この町はどうなっているのか。まずは確認しに行った方がいいのかもしれない。

 っていうか、日本政府……自衛隊は活動しているのだろうか?

 ひとまず情報集めをしながら東京を目指した方がいいのかもしれない。


 賢一は刀を拾い鞘におさめて立ち上がる。それを腰のベルトに締めて、少しでも防御力を上げる為に制服の上に灰色の外套を羽織った。

 リビングから所持金60000円を鍵付きの棚から取り出した。何をするにも先立つものが必要だからだ。そして玄関におりて、扉に手をかける。

 これから未知の危険がいっぱいの外へ歩き出すのだ。

 心臓がばくばく音を鳴らしている。

 

『賢一……、俺が作った最高のゲームだ。楽しめよ』


「…………」


 親父の声がなぜか聞こえた気がした。

 振り向いて見たが、背後には誰もいない。

 賢一は口角をつりあげて、かすかに自嘲した。

 

 扉を開けて外に出る。

 すると、その音に気づいたのか、人間の匂いに気づいたのか。モンスターたちが一斉にこちらを向いた。

 通りに棺が増えていた。恐らくまた何名か殺されたのであろう。

 スライムがネバネバと体を這わせて近づいてくる。

 まずはこいつで力試しといくか。

 賢一は刀を抜いて腰を落とした。

 町の家々には明かりがない。しかし中から叫び声らしきものが聞こえてきた。恐らく皆震えているのであろう。

 それが普通の判断だ。

 

(俺がこのイカれた世界の元凶だからな……。待ってろ糞親父。こんな世界、俺が全部ぶっ壊してやる!)


「うおおおおおおお!!」


 今西賢一、十八歳になったばかり。

 

 2009年 3月 中旬のこと。

 

 この日、少年は自分の責任をとるために。


 世界を元に戻すため旅に出た。






今西賢一

性別 男

称号 志すもの(能力値+)

職業 剣士LV1(剣戦闘)

レベル 1

EXP 0

所持金 60000円

HP 320

MP 40

力 43(この値+武器性能で攻撃力が決まる) 

体力 34(この値+防具性能で守備力が決まる)

早さ 35(回避率と命中率に関わる)

かしこさ 195(LVUPにかかる経験値が下がる。スキルレベルが上がりやすい)

精神 38(魔法の威力が決まる)

信仰心 50(神回復聖魔法の効き目や即死耐性、ステータス異常に対する免疫などを決める)

士気 100(この値が高いほどクリティカルが出やすい)

運 54(この値が高いほど、何か良いことがおこるかも?)

コモンスキル 剣戟LV2 防御LV2 剣技LV2 捕獲LV2 アイテムLV3

オリジナルスキル インベード(能力不明。使用可能LV50) 

装備武器 日本刀(攻撃力+30)

装備防具 制服・外套(守備+10)

装飾品 携帯電話(お守りがわり、精神+3)


賢一はセンター試験一位の猛者。

かなり賢さは高い。

筋力などは平均以下だったが、親父による能力値向上操作によってレベル11、12くらいの実力。

アクションゲームはあまりやっておらず、これからどうなるかわからない不安定な才能の持ち主。

ファイナルファンタジー……。

やっぱり昔の方が好きです。

私は懐古主義者なのでしょうか。

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