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2009年初春

現実⇒ファンタジーはよくありますが、ファンタジー⇒現実はあまりありません。ならば私が書こうと思って書いた作品です。

楽しんで頂ければすごく嬉しいです。

 スーパーファミコムのソフト。

 それを見たまんま表現するとその一言で尽きる。

 今時XバックスやWIYやプレイングステイツ3なこの時代、なぜにこのような旧時代の遺物が送られてきたのか。『今西賢一』が頬を引きつらせながら、それを眺めていると……。


「あの……すみません。ここに印鑑か、サインをお願いしたいのですが」


「おっと、すんません」


 郵便配達のおっちゃんを待たせていることをすっかり忘れていた。

 配達依頼人の名は『MASAAKI IMANISHI(今西政秋)』と筆記体の英語で表記されている。

 

「はい、どうも。ありがとうございます。随分懐かしいものですね、スーファミなんて。ドラゴンファンタジーとか私も若いころよく遊びましたよ」


「え、ええ。実は俺の親父は某スクエニ(スク水絵日記の略)の社員なんで……。たまにこういった試作品やボツ作品を送ってくるんですよ」


 愛想笑いで何とかごまかす。

 『ドラゴンファンタジー』―――それは1990年代一番売れたゲームソフトであり、親父が演出監督などをつとめた名作RPGであった。

 賢一が今郵便配達員に言ったことに何ら嘘はないが、微妙な部分ははしょって説明していた。

 今日は十八歳の誕生日。

 まさかそのプレゼントがこんな時代遅れのショボイものだなんて恥ずかしくて言えなかったのだ。


 宅配便のおっちゃんが帰り、改めて賢一は玄関に置かれた怪しいソフトを見る。

 

 ゲームのロゴは……『インストール・ザ・リアルインベーダー』と書かれていた。

 何だこれ? 

 またくだらないもの作ったんだろう、あの糞親父が!


「ほんと、いい加減にしてほしいぜ。毎年毎年海外から‘変なもん‘ ばっか送ってきやがって……」


 あれでよくスクエニで働けるものだ。しかも今では役員。VIPとして年収ウン億円と稼ぐんだから世の中何が起きるかわからないものだ。

 ちなみに今親父はアメリカで働いている。

 ニューヨークの市街地で出張と称して、海外ゲームを遊びあさり気ままに生活しているのだろう。

 全くいいご身分だぜ。

 賢一はゲームソフトを正面からしげしげと眺める。

 

「どうせまたバグばっかの糞ゲーなんだろうな」


 大事なのはそのレベルだ。

 文字バケなど可愛いほう、CGやシステム面が完全に狂っていた時もある。あまりにひどくて遊べないようなら賢一自らがデータをイジッて直してやっていた。

 蛙の子は蛙なのか。それとも幼い頃からゲームに囲まれて生活してきたせいだろうか。

 賢一はコンピュータなどのプログラミング技術を小学校の頃から独学し、十七歳でありながらゲーゲル(超世界的検索サイト)の社長からスカウトされているくらいだった。

 別に賢一自身はそれを自慢にも思っていないし、自作のゲームを作る上でそんなに重要だとも思っていない。

 プログラミングとはコンピュータにあれしろこれしろという『指示』を出すことである。

 確かに最初は複雑に見えるかもしれないが、法則を覚えてしまえば誰でもできるようになるし、最近はインドなんかでもITが盛んで、プログラミング技術を持った人間なんて数え切れないくらい増えている。

 思うにコンピュータに指示を出すことはそう難しくない。

 大事なのは、どのような『内容』の指示を出すかなのだ。

 

 ゲームを作る上で一番大事なもの。

 

 それは演出脚本といった『骨髄』であり、そのゲームの筋書きである『内容』だと賢一は思っていた。


『親父が最近作っているゲームはCG技術ばかり優先的に金をかけて、世界観に余裕がなく物語が陳腐になっている! あんた達は映画が作りたいのか、ゲームが作りたいのかどっちだ! これじゃドットだった頃の方がマシだ!』


 そう言って、父と大喧嘩したのはいつの頃だったか。この懐古主義者めって怒鳴られたっけかな。確かにこういう議論には賛否両論がつきまとうが、親父の会社が改革を迫られているという現状には変わりあるまい。

 賢一は今もその考えを貫いており、ここ数年父親とゲームについて会話したことは一切なくなっていた。 

 賢一は階段を上り、自分の部屋にその怪しいソフトを持っていく。

 家には自分一人だけしかいない。

 お袋も父と一緒にアメリカへ行ってしまったので、悠々と一人暮らしを堪能している。 

 賢一は押入れの中から埃のかぶったスーパーファミコムの本体を引きずりだした。

 そしてベッドの下から隠れていた座布団を無理矢理引き出して、すっかりタコ足配線になってしまったコンセントを差し込む。

 電源を入れる前に、もう一度ソフトの様子を見てみた。

 

 手で撫でてみると冷たいプラスチックの感触。別段何か新しい部品が加わっているようなこともない。底を見てみてもチップらしきものしか見当たらなかった。


「まあ、いいや。とりあえずやってみよっと」


 賢一はその『インストール・ザ・リアルインベーダー』をファミコムのハードへ突っ込む。

 そして満を持して電源のつまみをオンにした。


 ♪ター、タタタっタっター♪


『インストール・ザ・リアルインベーダー』とかっこよく画面に表示される。


「オープニング曲はドラゴンファンタジーと同じなんだな」


 しかし


 ♪ダーランダ―ラン、ダ、ダララン♪


『冒険の書がすべて消えました。ざまあw』


「なんでいきなりデータ消えるの!? まだやってもいないのに!」


 ドラゴンファンタジーをやったことのある者ならトラウマになっているであろう暗い曲が流れた。

 大切に育ててきたキャラたちのデータが一瞬で消えてしまうあの絶望が蘇ってくる。

 まあ、自分で進めてもいないゲームのデータがどうなっても別にいいか。

 どうせ糞ゲーだろうしね。


「ったく。……冒険の書①を作るか」


 順調にボタンを押していくと、主人公の名前入力のところまできた。

 えっと、俺の名前は……。


「『ケンイチ』っと」


 最後にステレオ、モノラルを決めて、出来上がりだ。


「おお。オープニングが………………始まらない。しかも音も出ない」


 画面は砂嵐が舞っている。ザザザザと不快な音がスピーカーから漏れるばかり。

 

「やっぱり糞ゲーか」


 そう言って賢一は電源を切って、寝てしまった。

 電気を消して布団へもぐる。

 

 ったく、最低の誕生日プレゼントだったな。という不満をひとつ漏らして。


 しかしここで賢一は気づくべきだった。


『ようこそ、息子よ。お前を最初のプレイヤーととして登録しよう』


 電源を消してもテレビ画面の表示が消えていなかったことを。

 そして、次の瞬間。


『おお、死んでしまうとは情けないおお、死んでしまうとは情けないおお、死んでしまうとは情けないおお、死んでしまうとは情けないおお、死んでしまうとは情けないおお、死んでしまうとは情けないおお、死んでしまうとは情けないおお、死んでしまうとは情けないおお、死んでしまうとは情けないおお、死んでしまうとは情けないおお、死んでしまうとは情けない……………………』


 勇者が全滅した時の王様の台詞がなぜか何度も画面に現れた。


『……か。お……、まあ、…………だがな』


 そして次に、謎のメッセージが浮かび上がり、徐々にテレビが点滅する。 

 その光はやがてぼやっと薄紫色に変色し、部屋に立体として人の顔が浮かび上がった。

 髭がもじゃもじゃの、白髪まじりの痩せた男。

 この男こそ今西政秋。賢一の父親であった。


『おい、聞こえてるか? お前のことだから寝てんじゃねぇだろうな。まぁ、いいや。俺は好きに話させてもらうから。えっと、あー、いきなりなんだがな。……このゲームをお前がやっている頃、父さんと母さんはもうこの世にはいないだろう。

 えっと、なんつーのか、そうだな。ニューヨーク地下鉄の落盤事故だ。そう、お前の両親はもう死んでる。もうすぐお前にも知らせが入ると思うが……、いや、このゲームをしてるんだ。知らせなんて入らないか。ああ、これは父さんの遺言になると思うから、心して見るように。

 ……父さんな、死後の世界で神様に出会ったんだ。

 あ、お前今絶対嘘だと思っているだろう。

 でも、これが本当なんだな。なんでも神様が間違って俺のこと殺しちまったみたいでな。なんでも三つだけ願い事を叶えてくれるって言うんだ。

 それで俺はなんて願ったと思う? 

 格好良く最強状態で異世界へ転生? いや、そんなもんに父さんは興味ない。お前も知っているように俺はゲームの虫だ。もうどうやったら面白い最高のゲームができるか毎日毎時間毎分毎秒考えている。だからよ、俺は神様にこう言ってやったんだ。


 願い事① この今生きてる現実を俺が願うファンタジーに変えろ。魔物とか魔王とか作って、現実の奴らが勇者のプレイヤーになって本当に戦ったら面白そうだろう。

 願い事② 一番にクリアした奴は一回だけ何でも願い事が叶う権利を手に入れられるようにしろ。これはまあ、俺からのプレイヤーへのご褒美だな。どうだ。やる気が出てきただろう。

 願い事③ ……んー、これは秘密だ。知りたきゃクリアするんだな。


 んー、死んでから言うのもなんだけど、お前は小さい頃から俺とはゲームに対しての価値観が違っていたな。本当に小憎らしかったぜ。なにより一番ムカついたのが、顔が母さんそっくりで俺に似ずにイケメンに育ちやがって。これが一番腹たったところだな。かっぺむかつく! 

 アー、ごほん。だが安心しろ。お前もこのゲームはきっと気に入ってくれると思うぞ。なんせ現実を侵食するゲームだ。きひひ。絶対に、絶対に面白い。はまるぞー。これぞ究極のリアルRPGだからな。

 あ、それとだ。ふふん、この父に泣いて感謝しろよ。お前みたいな自作ゲームばっか作ってる貧弱ボーイは俺の世界じゃすぐ死んでしまうからな。ステータスとオリジナルスキルにちょっとおまけをつけてやろう。レベル10くらいの敵までは簡単に倒せるだろうよ。あとはてめぇで鍛えろ。これだけアドバンテージもらっといて死んだら情けねぇぞ、おい。いいか、俺はな―――。

 え? もう時間がない。神様、もうちょっとだけ頼むわ。ええっ、あと一分!?

 ………………。

 アー、まあ、そういうこった。

 大事なことは伝えきったぞ、これで。

 元気でな、賢一。母さんは最後までお前が元気で楽しくやってくれることだけを願っていたぞ。

 俺たちの分までこのゲーム楽しんでくれ。

 ああ、できれば……感想聞きたかったけどな……。

 じゃ、あ、な……』


 このメッセージはデータの中に入っていて、賢一がこのことを知るのはずっと後のことになる。


まだ見ぬヒロインのことを考えると、……ムラムラします。

いやワクワクします!

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