ゲームの中では最強の仲間たちが、全員女子だと知らなかった
「ゲームの中では最強の仲間たちが、全員女子だと知らなかった」
1期 第1〜12話
第1話「伝説のパーティー、全員女子!?」
「クロノスオンライン」——世界同時ログイン人口五千万人を超えるVRMMO。ゲーム内での時間体験は現実の二倍速で進み、プレイヤーは自分だけの英雄譚を紡ぐ。
真宮零(まみや れい、二十歳)は大学一年生にして、このゲームの世界ランキング第一位「シャドウ・ゼロ」として知られる伝説のプレイヤーだ。漆黒のローブに顔を隠した性別不詳のアバターを使い、その正体を知る者は誰もいない。
零が率いるパーティー「アルファ」は、世界ランキング上位六枠を独占する怪物集団だった。クールな剣士「フロスト」、陽気な弓使い「サンシャイン」、寡黙な重装戦士「アイアンウォール」、癒しのヒーラー「リリー」、奇才の魔法使い「ナイトスカイ」——そして最近加入した謎の新人「ドーン」。
全員がアバターで完全に性別を隠しているため、パーティー内では互いのリアルを一切知らないまま、それでも最強のチームとして数百時間を共に戦ってきた。
「ゼロ、そろそろリアルでも会ってみたくない?」
ある日、サンシャインからチャットでそんなメッセージが届いた。他のメンバーも次々と賛同し、六人初のオフ会が決まる。場所は東京・渋谷のカフェ。当日の目印は「アルファ」と書いたカードを持つこと。
当日、零は緊張しながらカフェに向かった。まあ、ゲーマー六人が集まるのだ。むさくるしい男たちの集会になるだろうと半ば覚悟していた。
扉を開けた瞬間、零は固まった。
テーブルには五人の少女が座っていた。全員が「アルファ」と書いたカードを持ち、互いに顔を見合わせてぽかんとしている。それも、どこか見覚えのある——大学のキャンパスで何度かすれ違ったことのある顔ばかり。
「え……もしかして、みんな同じ大学?」
その瞬間、全員の顔に驚愕と爆笑が混じった表情が広がった。伝説のパーティー「アルファ」の正体は、同じ大学に通う二十歳から二十二歳の女子六人——そして唯一の男子、真宮零だったのだ。
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第2話「フロストの正体は霜月先輩!?」
翌日から零の日常は一変した。「アルファ」のメンバーが全員同じ大学にいると判明した以上、キャンパス内で顔を合わせないわけにはいかない。
「フロスト」——ゲーム内では冷静沈着な戦略家として知られるそのプレイヤーの正体は、霜月雪(しもつき ゆき、二十二歳)。法学部三年の先輩で、キャンパスでは「氷の女王」と呼ばれる美人だった。腰まで届く銀髪に近い淡いグレーの髪と、常に涼やかな表情。
「真宮零……。ゲームの中では格下と思っていたが、リアルで会うとずいぶん普通の顔をしているのね」
零が渡り廊下を歩いていると、いきなり霜月に声をかけられた。彼女は零を上から下まで観察し、「まあ、及第点」とだけ言い残して歩き去った。零は呆然とその後姿を見送った。
事件はその直後に起きた。霜月が階段を上ろうとした瞬間、ヒールが段差に引っかかってバランスを崩した。反射的に手を伸ばした零が霜月を支えたのはいいが、弾みで二人は壁際に倒れ込み——零の顔が霜月のスカートに突っ込む格好になった。
「……っ」
零が顔を上げると、霜月の耳まで真っ赤になっていた。氷の女王が、見事に溶けている。
「こ、この痴漢! 次やったら訴えるわよ!」
「僕も望んでないです!!」
その夜のゲームログイン後、フロストから短いメッセージが届いた。「……今日のこと、口外したら即キルする」。零は苦笑いしながら「了解です先輩」と返信した。少しだけ、フロストとして話す彼女の声が普段より低い気がした。
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第3話「サンシャインは橘さんだった件」
橘陽向(たちばな ひなた、二十歳)は文学部の同学年で、キャンパスでも有名な「スポーツ万能の活発美女」だった。ゲーム内では「サンシャイン」として最高機動力を誇る弓使い。天真爛漫な笑顔とずばずば物を言う性格は、リアルもゲームも変わらない。
「零くん! ゲームでは同期なのに、リアルでは全然話したことなかったね〜。これからよろしく!」
オフ会の翌日、陽向は零を名前で呼び始めた。その馴れ馴れしさにクラスメートたちが「真宮と橘が急に仲良くなってる?」とざわめいている。
その日の体育の授業。ちょうど零と陽向は同じ自由選択コマで水泳の授業を取っていた。
「零くん、飛び込みの練習しよ!」と陽向が嬉々として飛び込み台に向かう。零は内心うんざりしながらも隣のコースで待機した。陽向がダイナミックに飛び込んだ瞬間、着水の衝撃でビキニトップのホックが外れ、彼女が浮上すると同時に零の目の前に流れてきた。
「え? あれ?」と陽向が自分の状態に気づいて慌てて水中に身を沈める。零は素早くホックを水から拾い上げ、背中を向けて差し出した。
「は、はいこれ。見てないから」
「…………零くん、意外と紳士じゃん」
陽向の声がいつもより三オクターブ低かった。更衣室に消えるまで一言も話さなかった陽向は、その夜ゲームで「今日のこと絶対に根に持つから! でも……ありがとね」とだけメッセージを送ってきた。零はため息をついた。「普通に流れてきただけです」。
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第4話「アイアンウォールは無口な碧さん」
鉄壁の碧(てっぺき あおい、二十一歳)。工学部の先輩で、長身・長髪の青みがかった黒髪。ゲーム内では「アイアンウォール」として知られ、どんな攻撃も受け切る最強の重戦士。リアルでは柔道部の主将であり、キャンパスで一番背が高い女子として知られていた。
口数が極端に少なく、「うん」「そう」「わかった」の三語で大体の会話をこなす。しかしゲーム内での碧は意外にもチームの要で、パーティーチャットに的確な指示を打ち込む。
零が図書館で資料を探していると、碧が同じ棚の前に立っていた。どちらからともなく同じ本に手を伸ばし、指先がぶつかる。
「……」「……」
無言の時間が三秒続いた。碧が先に手を引いて零に本を差し出す。
「ありがとうございます」「……うん」
また沈黙。しかし不思議と居心地が悪くなかった。零が「碧さんも法律系の勉強を?」と聞くと、碧はコクリとうなずいた。「……柔道のルール改正、調べてる」。
以来、二人は図書館で定期的に「無言で本を借りる仲」になった。たまにゲームの話を小声でする。碧はゲーム内では雄弁なのにリアルでは寡黙という落差が激しく、零はそのギャップに少し笑ってしまう。碧は「……なに」と眉をひそめるが、その耳が微妙に赤くなっているのを零は気づいていた。
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第5話「リリーは白百合さんという名前だった」
白百合鈴(しらゆり りん、二十歳)。看護学部の同学年で、常にふんわりした笑顔を持つ癒し系の美女。栗色のゆるふわな巻き髪と穏やかな目元が特徴で、「聖母」とキャンパスでは呼ばれている。ゲームでは「リリー」として回復魔法の達人。どんな絶望的な状況でも冷静に仲間を生かし続けてきた。
オフ会から数日後、零は体調を崩して大学の保健室を訪ねた。すると扉を開けた先に鈴がいた。実は彼女、看護実習の一環で週に二日保健室のボランティアをしていたのだ。
「零くん、顔が赤いよ。ちょっと体温測って」
三十八度四分。鈴はてきぱきと保冷剤を用意し、額に当ててくれた。その手がひんやりとして気持ちよく、零はぼんやりと「ゲームの中のリリーと全然変わらないな」と思った。
「鈴さんって、なんでヒーラー選んだんですか?ゲームで」
少しの間があった。鈴は保冷剤を押さえながら、静かに答えた。
「小学生のとき、すごく長い入院があって。そのとき看護師さんがいてくれたから、今があると思ってる。だからゲームでも、誰かを守れるポジションがよかったんだ」
零は何も言えなかった。看護を学んでいること、回復魔法を選んだこと——全部繋がっていた。「ゲームで何百回も命を救ってもらいました」と零が言うと、鈴はくすっと笑った。「零くんって、素直に言えるんだね。好き」。何気ない一言に、零は熱が上がった気がした。
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第6話「ナイトスカイは夜空さんという変人だった」
夜空こと(よぞら こと、二十一歳)。理学部数学科の先輩で、キャンパスの「生ける伝説」と呼ばれる天才。ただし天才の方向性がいびつで、「魔法陣の数式解析で卒論を書く」という前代未聞の研究をしている。ゲーム内では「ナイトスカイ」として奇想天外な戦略で敵を混乱させる最上位魔法使い。
夜空は常に星座の法則を呟きながら歩き、食堂でも一人で数式のノートを広げ、突然「公式ですね!」と叫ぶ。クラスメートからは「近寄ると頭痛がする」と避けられているが、本人は全く気にしていない。
零がキャンパスの芝生でランチをとっていると、夜空が「ここは天頂角が最適なので」と宣言して隣に座ってきた。
「ゼロさん、ゲームのあの第七魔法陣の構造、実は非ユークリッド幾何学で解釈するとですね」と話し始め、気がついたら二時間経っていた。
「……あの、夜空さん、授業は」「今日は全部サボりました。星の動きを観察してたので」「堂々と言うことじゃ……」
弁当を食べ終えた夜空が「ゼロさん、あなたの戦術パターンをAIで解析したら面白い結果が出ました」とノートを見せてきた。確かにゲーム内での零の動きが数式で表されていて、零は戦慄した。「趣味なんですか?」「愛ですね」。零は深く追及するのをやめた。
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第7話「謎の新人ドーンの正体・暁月姫」
「ドーン」——アルファに最後に加入した謎の新人。加入してまだ三ヶ月だが、その戦闘センスはパーティー内でも抜きん出ている。ゲームログイン時間が不規則で、オフ会では六人のうち最後に現れた。
正体は暁月姫(あかつき ひめ、二十歳)。芸術学部の同学年で、長い黒髪と和風の整った顔立ちが特徴。普段は物静かで謎めいた雰囲気を持つ。実は彼女、老舗旅館の一人娘で、将来のことで悩んでいてゲームにのめり込んでいた。
正体が判明した後も姫は零に対してだけ特別に距離が近く、「真宮くんはゼロさんなんですね」と初めて会ったとき呟いた。
事件はオフ会の帰り道に起きた。雨が降り出し、零が姫に傘を差し出した瞬間、強風で傘が裏返り、二人は反射的に身を寄せ合った。零の腕が姫の肩に回り、姫の顔が零の胸元に埋まる。
「……真宮くん、心臓、すごくドキドキしてますよ」
「それはどっちのセリフですか」と零が言うと、姫は顔を埋めたまま小さく笑った。「私のですね」。
雨の中、二人はしばらくそのまま立っていた。零はその日から、暁月姫というプレイヤーのことが少し気になり始めた。
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第8話「学園祭前夜、六人の秘密会議」
学園祭が来週に迫り、アルファの面々はゲーム内で「現実でも何かやろう」という話になった。夜空の提案で「全員で学園祭の模擬店に出る」ことが決まり、その打ち合わせとして零のアパートに六人が集まることになった。
部屋に入るなり陽向が「男の子の部屋って興味ある!」と言いながら本棚を漁り始め、鈴が「せまーい、でもきれい」とほっこり言い、夜空が数式のフセンを発見して「研究素材ですね」と剥がしそうになった。
打ち合わせはスタートから紛糾した。霜月は「効率的にカフェ形式で」と言い、陽向は「射的とかゲームコーナーがいい!」と言い張り、碧は「……カレー」とだけ言う。姫は「お茶の提供ができます」と静かに手を上げた。
もめにもめる中、零が飲み物を取ろうと立ち上がった瞬間、床に散らばった陽向のバッグの中身を踏んでしまい、バランスを崩した。手をついた先が——鈴のひざの上。
「きゃっ」
「す、すみませんっ!」
鈴の顔が真っ赤になり、霜月が「この部屋は事故が多いわね」と呆れたように言った。陽向は「零くんて意外とアクティブ」とにやにやし、碧は「……気をつけろ」と静かにフォローした。
その夜、学園祭の出し物は「ゲームテーマのカフェ」に決まった。零はメイド服を着ろという案を全力で断り続けたが、全員一致で却下された。
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第9話「学園祭、アルファカフェ開店!」
学園祭当日。「ALPHA CAFÉ」は開店前から長蛇の列ができていた。五人の美女スタッフが話題になり、SNSで拡散された結果だ。零だけがウェイター衣装(もちろん無理やり着せられた)で慌ただしくホールを走り回っていた。
霜月は完璧な接客で客を捌き、陽向は元気よくオーダーを取り、鈴は笑顔で飲み物を提供し、夜空は謎のゲーム解説パネルを展示し、姫は姫で「姫のお点前コーナー」を設けてひっそり人気を集めていた。碧はなぜか店の外でビラを配っており、その圧に負けた通行人が次々入ってきた。
繁忙期の昼下がり、零がトレイに飲み物を乗せて急ぎ足で移動していると、陽向が振り返りざまに衝突。トレイが傾き、零は反射的に陽向を抱きとめたが、自分はずぶ濡れになった。
「ご、ごめん零くん! でも……ふふ、ウェイター服が透けてる」
「言わないでください!!」
霜月が無言でおしぼりを渡してきた。その目がわずかに笑っている気がした。鈴が「お着替えしてきて」と背中を押し、夜空が「ゼロさんの濡れた状態もデータになりますね」と余計なことを言った。
夕方、カフェが盛況のまま終わった後、六人で片付けをしながら零は「なんだかんだ楽しかった」と思った。ゲームとリアルが繋がる瞬間は、想像以上に温かかった。
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第10話「深夜のボス討伐、涙の感動回」
「クロノスオンライン」に三年以上未踏のダンジョン最終ボス「永久の竜王クロノス」。世界中のプレイヤーが挑み続け、全員が全滅させられてきた伝説の存在。アルファは長期作戦計画のうえ、いよいよ挑戦の夜を迎えた。
深夜二時。六人全員がログイン。霜月が戦略を最終確認し、陽向が「絶対行けます!」と気合を入れ、碧が無言でうなずく。鈴が「絶対全員生かして帰す」と静かに宣言し、夜空が「数学的には勝率六七・三パーセント」と計算を出す。姫が「みんながいれば、大丈夫です」と言った。
戦闘は壮絶だった。三時間に及ぶ攻防。何度もパーティーが壊滅寸前まで追い込まれ、その度に鈴の回復魔法と霜月の指示が繋ぎとめた。零は死力を尽くして前衛を張り続けた。
クロノスが最後の一撃を放った瞬間、碧が全員の前に飛び出して受け切った。彼女のHPがゼロに。「アイアンウォール、討伐!!」の文字が浮かぶ直前——鈴の復活魔法が間に合った。
「リリー……ありがとう」と碧が小さく打ち込んだとき、チャットに全員の「ありがとう」が溢れた。クロノスが砕け散り、世界初攻略の赤い文字がゲーム中に流れた。
「やった……やったよ!!」と陽向が叫び、全員の声がボイスチャットで重なった。零はヘッドセットを外してしばらく天井を見た。目の奥が熱かった。これが本当のチームだと思った。
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第11話「霜月先輩の意外な弱点」
世界初攻略でアルファの名は一躍ゲーム界の伝説になった。同時にリアルでもキャンパスで「アルファのメンバーはあの子たちでは」という噂が広がり始め、零はじわじわ目立つようになってきた。
霜月雪はそんな状況でも颯爽としていた。「噂されるくらいなら、堂々としていれば問題ない」というのが彼女の持論だ。
ある日の放課後、零は法学部棟の前で霜月に呼び止められた。「ノートを貸しなさい。民法の講義、出席できなかったの」。他人に頭を下げない人種だ、と思いながら零はノートを渡した。
受け取ろうとした霜月の手が、零の手の甲に重なった。その瞬間、霜月がびくっと手を引き、ノートが落ちた。二人が同時にしゃがみ込み、額がゴチン。
「いっ……!」
「す、すみません先輩……!」
起き上がった霜月の顔が赤い。零が「もしかして、人と触れるのが苦手なんですか?」とおそるおそる聞くと、霜月は「……余計なお世話」と言って顔を背けた。
だが後ろ姿の耳が真っ赤だった。零は気づいてしまった——ゲームのフロストが近距離攻撃より遠距離指示を好む理由を。
その夜、霜月から「ノート、字が綺麗だった。参考になった」とだけメッセージが届いた。零は長い間そのメッセージを眺め、返信に「ありがとうございます、先輩」とだけ打った。
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第12話「姫の秘密と、零の選択」
姫がゲームにログインしない日が続いた。一週間、二週間——珍しいことに、彼女からの連絡も途絶えた。零はLINEを送ったが既読もつかない。他のメンバーも心配し始め、碧が「……会いに行くか?」と提案した。
零一人でキャンパスを探しても姫の姿がなく、芸術学部棟に向かうと廊下の端で姫がひとり座っていた。目が赤い。
「暁月さん」
姫は驚いたように顔を上げ、「……真宮くん」とだけ言った。話を聞くと、実家の旅館が経営難で、姫は大学を辞めて家業を継ぐよう家族から言われていた。芸術の道も、ゲームも、この大学の友人たちも——全部諦める話が進んでいた。
「だからゲームにも入れなくて。みんなに心配かけたくなかった」
零はしばらく考えて、言った。「ドーンがパーティーを抜けたら、アルファは終わりです」。
姫が目を細める。「……それは言いすぎ」
「言いすぎじゃないです。あなたの戦い方は、俺たち全員を変えました。現実でも、ゲームでも」
帰り道、零は姫と並んで黙って歩いた。何も解決はしていない。でも姫は「一緒に考えてくれる人が、いるんだな」と思った。翌日、姫はログインした。パーティーチャットに「……戻りました。ご迷惑をおかけしました」と一言。全員から「おかえり!!」の嵐が届いた。
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「ゲームの中では最強の仲間たちが、全員女子だと知らなかった」
1期 第13〜24話
第13話「温泉旅行、六人の修羅場!」
世界初攻略の打ち上げとして、夜空が「温泉旅館を予約しました。予算は数学的に最適化済みです」と報告してきた。全員が反論する暇もなく、翌週末に箱根の旅館が確定していた。
到着後、姫が「旅館の雰囲気、うちに似てます」としみじみ言い、碧が荷物を全員分さっさと運び込み、陽向が「混浴あったら零くんと入れたのに」と言って霜月に冷たい一瞥をくらった。
男湯と女湯が隣接する構造の旅館で、零が露天風呂に入っていたとき、仕切りの竹垣が古くて一部が倒れていた。丁度そのとき女湯から「きゃっ」と声がして、竹垣が零の方向に倒れてきた。
咄嗟に零が竹垣を支えたが、顔を上げると霜月と目が合った。お互い固まる。霜月は胸元まで湯に浸かった状態で、零は竹垣を両手で支えたまま動けない。
「……見た?」「……見てないです!!」「本当に?」「本当です先輩どうか信じてください!!」
竹垣を戻すと同時に旅館スタッフが飛んできて修繕してくれた。その夜の夕食の席で、霜月だけが零と視線を合わせなかった。しかし食後に廊下ですれ違いざま、「……さっきは、まあ、仕方がなかったとは思う」とだけ言い残して部屋に戻った。零は廊下でしばらく動けなかった。
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第14話「夜空さんの研究発表を救え!」
夜空が青い顔で零の前に現れた。「大変です、ゼロさん。研究発表が来週です。しかしスライドを作る時間を、星の観測に充てすぎました」。要するに、何も準備できていない。
「夜空さんの研究って、ゲームの魔法陣を数学で解析するやつですよね」「そうです。タイトルは『VRMMOにおける魔法陣の位相幾何学的考察』です」「……それ、面白そうですね」。
零は一週間、毎日夜空と学部の準備室に籠もった。夜空は解説はできるがスライドを作る気がなく、零が代わりにまとめていった。話を聞くうちに、夜空の研究が本当に独創的だと分かった。ゲームの設計者も考えていなかったような数学的構造が、魔法陣の裏側に潜んでいた。
発表当日、夜空は壇上で淡々と発表した。最初はざわめいていた聴衆が、中盤から静まり返った。「この魔法陣の展開図は、クラインの壺と同位相です」と言った瞬間、数学科の教授が前のめりになった。
発表後、指導教官が「これは学会発表レベルだ」と言った。夜空は「……そうですか。ではゼロさんも共著に入れます」「え、僕スライド作っただけですよ?」「スライドは論文の形式です。あなたなしでは発表できませんでした」。
帰り道、夜空が珍しく「……ありがとうございました、ゼロさん」と言った。零はその言葉が思いのほか嬉しかった。
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第15話「橘さんの試合と、零の応援」
陽向が弓道部の大学対抗試合に出場することが判明した。「みんな応援来てよ!」と声をかけ、アルファ全員が試合会場に集まった。
陽向は弓道でも全国レベルの実力者だった。射場に立った彼女はゲームの中のサンシャインとは違うが、同じ集中力を持つ顔をしていた。最初の五射は完璧。しかし六射目、突然陽向の手が止まった。
試合後に聞くと、手首の古傷が痛んでいたらしい。「でも最後まで引けたから大丈夫! 二位だったけど」と明るく言う陽向を、零は「無理するなよ」と言いながら荷物を持ってあげた。
帰り際、更衣室から出てきた陽向がスポーツバッグの口を閉めそこねており、中身が廊下に散らばった。零が拾うのを手伝うと、バッグの底から下着が転がり出てきた。陽向の顔が瞬時に真っ赤になる。
零は素早く拾ってバッグに押し込み「見てないっ」と即座に言った。「……見たじゃん」「見てないです!!」「じゃあなんでそんな顔してんの」「……何も聞かないでください」。
二人の後ろで霜月が「これが青春ね」と呟き、碧が「……うん」とうなずいた。帰りの電車、陽向は零の隣に座って「ありがとね、今日来てくれて。うれしかったよ」と素直に言った。零は窓の外を向きながら「また出るなら来ます」と答えた。
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第16話「碧さんの柔道、涙の引退試合」
碧が大学柔道部の主将として迎える最後の大会がやってきた。三年間、部を引っ張り続けた彼女の集大成。アルファ全員が会場に駆けつけた。
碧の試合は息を呑む展開だった。準決勝、強豪校の相手に対し碧は防御一辺倒で五分間凌ぎ続けた。「……なぜ攻めない」と零が隣の霜月に囁くと、霜月が静かに答えた。「足を痛めているの。さっきの試合で」。
それでも碧は動じなかった。相手の一瞬の隙をついた一本背負いが決まり、場内が沸いた。決勝も同じ戦法で制し、碧は優勝した。
表彰式後、控え室の外で碧がひとりベンチに座っていた。足首にテーピングを巻きながら、その目が赤い。零が「碧さん、泣いてるんですか」と聞くと、碧はしばらく黙ってから「……終わった、と思ったら」とだけ言った。
零はそれ以上何も言わなかった。隣に座って黙って待った。やがて他のメンバーが合流し、陽向が「碧さーん!!優勝おめでとう!!」と飛びついて、碧は慌てて目元を拭いた。
「……みんな来てたのか」「当たり前じゃないですか」と零が言うと、碧はまた少し目を赤くして、「……ありがとう」と小さく言った。その夜のゲームで、碧の動きがいつもより軽やかだった。
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第17話「鈴さんの夜、病院の廊下で」
深夜、零のスマホに鈴からLINEが届いた。「ちょっと実習で遅くなりました。病院の最終バス逃しちゃって……」。零は即座に「迎えに行きます」と返信して自転車を漕いだ。
病院の正面玄関で待っていた鈴は、白衣の上にコートを羽織り、疲れた顔をしていたが、零の姿を見て笑顔になった。「来てくれたの? ごめんね、急に」「全然。自転車ですけど大丈夫ですか」「乗せてもらえる?」。
鈴を後ろに乗せて夜の道を走った。冷たい空気の中、鈴が零の背中にそっと手を置いた。「零くんって、いつも来てくれるね」「……そうですか?」「そうだよ。姫ちゃんのときも、今日も」。
「看護の実習、きついですか?」「うん、きつい。でも、患者さんの顔が変わるのが分かるから、続けられる」。鈴の言葉は静かで真剣だった。零はただ自転車を漕ぎながら聞いた。
鈴のアパートの前で降りたとき、鈴がぺこりとお辞儀をして「ありがとう、零くん。また無理言うかもしれないけど……いい?」と言った。零は迷わず「いつでも」と答えた。
鈴が玄関に入る前に振り返って「零くんて、やっぱりリリーじゃなくて零くんのそばにいたいな、って思う」と言って、そのまま扉を閉めた。零は自転車を止めたまま、夜空を見上げた。星が出ていた。
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第18話「図書館の落とし物はブラだった」
期末試験の季節。図書館は混み合い、アルファのメンバーもそれぞれ試験勉強に追われていた。零は参考書を探しつつ、ふと足元に何かが落ちているのに気づいた。
拾い上げた瞬間、それが何かを理解して硬直した。レース地の白いブラジャー——どう見ても落とし物だ。周囲を見渡すと、ちょうど通路を歩いていた霜月が立ち止まり、自分のバッグの口を見下ろして、顔色が変わった。
二人の視線が交差した。零の手に、霜月の顔に。完全な無音の三秒間。
「……それ、貸しなさい」「は、はい」「今すぐ」「もう渡してます!」
霜月は素早く奪い取ってバッグに押し込み、前後を確認し、そのまま図書館を出ていった。返却もせずに。
その夜、霜月から短いメッセージが届いた。「バッグのファスナーが壊れていた。今日のことは死ぬまで黙りなさい」。零は「もちろんです」と返し、「でも先輩、図書館の本は返しに行った方がいいですよ」と追加した。数分後に「……うるさい」という返信が来た。
翌朝、図書館のカウンターには霜月から返却済みの本と、何故か零への「感謝品」として高級チョコレートが置かれていた。受付の人に「霜月さんから」と手渡された零は、しばらくその意味を考えた。
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第19話「試験前夜、全員集合の勉強会」
試験前日、陽向の「うちで勉強会しよ!」の一声で全員が陽向のアパートに集まった。六人が床に広がり、それぞれ教材を広げる。
霜月は民法の問題集を粛々と解き、碧は教科書を読んでいるようで半分眠りかけており、夜空は突然「試験に関係ない計算」を始めていた。鈴は食べながら暗記し、姫は静かにノートを清書し、陽向は五分に一回「ねむい」と叫んでいた。
零が飲み物を注ぎに立ったとき、猫型クッションに足を取られてバランスを崩した。咄嗟に掴んだのが陽向のパジャマの首元で、二人でそのままカーペットに倒れ込んだ。陽向の胸元に顔が埋まる。
「……零くん、わりとこういうの多くない?」「僕は毎回望んでないんですが!!」
霜月が「これは事故ね」と素早く認定し、碧が「……うん、事故」と支持し、鈴が「大丈夫?」と二人を助け起こし、夜空が「平均して二・三回に一度こういう事象が起きている」とデータを提示した。姫だけが静かに笑っていた。
結局、勉強会は深夜一時まで続いた。帰り際、姫が玄関でそっと「零くん、今日楽しかったです」と言って微笑んだ。零は「俺もです」と答えて外に出た。夜空の見送りが「ゼロさん、帰りの経路は最短で二十二分です」というものだったのが、唯一余韻を削いだ。
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第20話「クロノス第二層、姫の覚醒」
世界初攻略の後、ゲームの運営が「第二層」を開放した。更に高難度のダンジョンで、世界中のプレイヤーが新たな挑戦に沸いた。アルファは当然、最初に挑む権利を持っていた。
第二層第一ボスとの戦闘で、パーティーは苦戦した。これまでと違う攻撃パターンに翻弄され、零が複数回のデスバックを繰り返した。霜月の指示も後手に回る。
そのとき、ドーン——姫のアバターが前に出た。「……少し、やらせてください」。誰も見たことのない動き。ドーンが敵のパターンを一人で引きつけ、残りメンバーの攻撃タイミングを切り開いた。完璧なアシスト役——しかしそれはゲームを教えるまでもなく姫が自分で編み出した戦術だった。
ボス撃破後、霜月が「ドーン、あの動きはどこで覚えた?」と聞いた。少しの間があって、姫が答えた。「旅館で、お客様の動線を誘導することを、子供の頃からずっとやっていたので。人の動きを読むのは……好きです」。
誰も言葉を返せなかった。零は画面の向こうで姫がどんな顔をしているか想像して、「姫さんが加入してくれて良かった」とチャットに打った。少しして「……私も、です」という返信が来た。
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第21話「霜月先輩の本音、月明かりの屋上で」
学期末。零がひとりで大学の屋上に出ると、霜月が手すりにもたれて空を見上げていた。珍しい。霜月が人目のない場所にいるのを見たのは初めてだ。
「邪魔なら帰ります」「……別に。いなさい」。霜月らしい許可の与え方だった。零は少し離れて手すりにもたれた。
しばらく無言が続いた後、霜月が「私が弁護士を目指しているのは知っているわね」と言い出した。「聞いたことあります」「……父が、そうじゃなかったから」。零は黙って聞いた。「冤罪で長く苦しんだの。幸い無実が証明されたけど、そのときもう、自分がやるしかないと思った」。
霜月が零の方を見た。「なぜゲームをしているか、聞かれたことがなかったから言わなかったけれど……ゲームの中だけ、フロストでいられた。正しい判断が必ず評価される世界で、策略家でいられた」。
零は何も言えなかった。しばらくして「……フロストは、本当に強かったです。今も」と言うと、霜月は短く笑った。「褒めても何も出ないわよ」「褒めてます、普通に」。
霜月が顔を背けたとき、その横顔がひどく柔らかかった。零はそれを見て、この人の本当のことが、少しだけ分かった気がした。
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第22話「クリスマス、六人バラバラの夜」
クリスマスイブ。陽向が「全員で過ごそう」と提案したが、それぞれの都合が合わず、最終的に零と「最初に予定が空いていた人」一人ずつ別に会う、という奇妙な状況になった。
午後二時、まず鈴と待ち合わせ。「クリスマスに一緒にいてくれる人、いないって言ったら驚く?」と鈴が笑った。ショッピングモールで並んでクレープを食べ、ぶつかったふりしながら鈴が零に寄りかかり「あったかい」と言ったとき、零の心拍数が上がった。
夕方、姫と入れ替わり。「旅館の手伝いを断って来ました」と姫が静かに言った。夜の街を二人で歩き、神社に寄り、姫が「来年も、みんなでゲームできますよね」と祈っていた。零は隣で「できます」と答えた。
夜、碧から「……来れそう」と連絡が来て合流。無言で並んでコンビニのホットコーヒーを飲みながら歩くだけだったが、碧が帰り際「……良かった」と言ったのが全てだった。
深夜、陽向から「私だけ会えてない!」と抗議が来た。「明日でいいじゃないですか」「クリスマス終わっちゃう!」。押し切られて近所の公園で会い、陽向が「プレゼント!」と差し出した袋の中に手を入れると、ふわふわした感触——「え、これ……」「マフラー! 零くん首元いつも寒そうだから」。
その夜、零は六通りの温かさの中で眠った。
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第23話「零の過去と、ゲームを始めた理由」
年が明けてすぐ、零がゲームにログインしないまま三日が過ぎた。珍しいことに、アルファのメンバーが全員LINEで「どうした?」と聞いてきた。
父親が倒れたのだ。大事には至らなかったが、しばらく実家に帰っており、その間は何もする気が起きなかった。
戻ってきた零に、姫が「何があったか、話せる?」と声をかけてきた。六人で集まった夜、零は初めて話した。父が単身赴任で不在がちだった幼少期、友人も少なく、オンラインゲームだけが自分の居場所だったこと。初めて「仲間」と思えた場所がクロノスオンラインだったこと。
「だから正体を隠し続けたのかも。リアルの自分がどんなに頼りなくても、シャドウ・ゼロでいれば最強でいられたから」。
霜月が「頼りないかどうか、こちらが判断する」と言い、陽向が「頼りないとは思ったことないよ」と言い、碧が「……うん」とうなずき、鈴が「みんなそうじゃないかな。ゲームで居場所を作ってた」と言った。夜空が「私の研究の動機もそれです」と静かに認めた。姫が「私も、です」と微笑んだ。
六人全員が、同じ理由でゲームにいた。それを知った瞬間、零はこのパーティーのことが、ゲームの外でも本当の仲間だと確信した。
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第24話「アルファは、ここにある」
春。新学期の始まりの日、零はキャンパスのゲートをくぐった。一年前と同じ場所に立っているのに、何もかも違う。
あの日、カフェで扉を開けて「全員女子?!」と固まった瞬間から、零の世界は変わっていた。霜月の横顔に強さを見て、陽向の笑顔に太陽を見て、碧の背中に誠実さを見て、鈴の手に温かさを感じて、夜空の瞳に宇宙を見て、姫の微笑みに静かな炎を見た。
昼休み、六人はいつもの食堂に集まった。ゲームの最新攻略について夜空が熱弁を振るい、陽向がトレーを持ったまま身を乗り出し、霜月がそれを静かに押し戻し、碧がパンをかじりながら聞き、鈴が全員に飲み物を配り、姫が零の隣にそっと座った。
「ゼロ、今夜ログインできる?」と霜月が聞いた。「できます」「第二層第三ボス、今夜挑む」「全員揃いますか?」「全員揃う」。
陽向が「よーし! 今夜も最強チームで行くよ!」と叫んで周囲から「うるさい」という苦情が来た。碧が「……静かに」と言い、鈴がそっと謝り、夜空が「食堂の音響特性的に問題ないです」と余計なことを言った。姫が小さく笑った。
零もつられて笑った。ゲームの中で出会い、現実で続いている——このパーティーはもう、どちらの世界でも本物だ。
夕方、大学を出た六人が夕陽の中を歩く。誰が言うでもなく、ごく自然に横並びになった。零は思った。シャドウ・ゼロとして最強でいることより、真宮零としてここにいることの方が、ずっと強い気がした。
「また今夜、ログインしてね」と姫が振り返って言った。零はうなずいた。「もちろん。アルファは全員揃ってなんぼですから」。
六人の笑い声が夕暮れの空に溶けていった。ゲームと現実が交差する青春は、まだ続く——。
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