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火炎と戦士

ペルシャは、巨大なレッドキャップ二匹と対峙していた。

いつも通りシャムシールを抜刀しているが、構えを取るわけでもなく、だらりと両手を下げている。

ペルシャは、深く息を吐いた。

巨大レッドキャップは正面と、わずかに右。挟撃の位置だ。

(……やっぱり、そう来ましたか)

一体目が踏み込む。

地面が沈み、石麦の穂が一斉に跳ね上がった。

棍棒が横薙ぎに振るわれる。

ペルシャは半歩だけ前に出て、剣を立てた。

――ドンッ。

衝撃が、腕から肩、背骨へと突き抜ける。

足が地面を削り、後方へと滑った。

「重い……!」

二体目が、その隙を逃さない。

背後からの振り下ろし。

ペルシャは跳んだ。

頭上をかすめ、地面が砕け散る。

着地と同時に、剣を振る。

ガキン、と乾いた音。

刃は、硬い肉に阻まれた。

「……っ」

浅い。

このサイズでは、骨まで届かせるには、もっと踏み込む必要がある。

だが、踏み込めば――

もう一体が来る。

巨大レッドキャップは唸り声を上げ、二体で距離を詰めてくる。

まるで、考えているかのような動きだった。

(連携してくる怪物とか……やってくれましたね)

棍棒が交互に振るわれる。

防ぎ、受け、躱し、また受ける。

一撃一撃が、重い。

確実に、体力を削ってくる。

ペルシャは歯を食いしばり、剣を構え直した。

(ここで倒せなきゃ、前が崩れる)

炎の熱が、背中にじわりと迫ってくる。

時間は、こちらに味方しない。

巨大レッドキャップが、同時に踏み込んだ。

「――来なさい」

ペルシャは、真正面から迎え撃つことにした。

シャムシールを納刀する。

そして、素手の両手を棍棒に翳した。

同時に、二つの棍棒が頭上に迫る。

「“竜血特性”って、ご存知ですか?」

とぼけたようなペルシャの声。

瞬間、二つの棍棒がぐにゃりと歪んだ。

“竜血特性”とは、竜血を持つ者が、術式を介さずに発現できる固有の能力である。

ペルシャの場合は――

「私の触れた物は、柔らかくなります」

棍棒が何度も叩きつけられる。

だが、ペルシャに一切のダメージはない。

ペルシャは、曲剣シャムシールに触れると腕を振るった。

曲剣はしなり、リーチのある直剣へと姿を変える。

烏男との一騎打ちにも使った戦法である。

棍棒をガードする必要がなくなったペルシャは、悠々と歩み寄り、直剣を一閃した。

まず、一体目。

巨大レッドキャップの脚が切断され、地面に倒れ伏す。

二体目は棍棒を投げ捨て、拳を振り翳してきた。

一閃。

今度は、巨大レッドキャップの手首から先が宙を舞う。

そのまま潜り込み、心臓を貫いた。

巨大レッドキャップは、仰向けにドシンという音を立てて斃れる。

そして、残る一体。

うつ伏せに倒れている巨大レッドキャップの背に乗り、背中側から心臓を一突きにした。

一瞬の硬直。

そして、弛緩。

こうして、勝敗は決したのだった。



モノとクロスケ、そして蝋燭男の戦場は膠着していた。

だが、時間が経つにつれ、モノたちの不利に傾いていると言ってよかった。

『近づけないことには、どうにもならないでござる!』

クロスケが苦々しげに言う。

『いや、まだだ! 一つだけ手がある!』

モノの狙いはただ一つ。

猫魔法“雷”であった。

尾から放たれるその電撃は、相手を怯ませるには十分なはずだ。

だが、蝋燭男までの間には、小レッドキャップの群れが立ちはだかっている。

このままでは、猫魔法といえど当たりそうにない。

「いいのか? 炎はますます勢いを増していくぞ」

蝋燭男がさらに炎を操る。

四方八方から、火の手が襲いかかってきた。

『チッ! 回避で手一杯かよ!』

モノは舌打ちしながらも、炎と小レッドキャップの攻撃を躱していく。

『拙者が、レッドキャップを惹きつけるでござる!』

瞬間、一帯の空気が張り詰めた。

バリッ!

雷鳴のような破裂音。

地面が抉れ、跳躍したクロスケはドロップキックの体勢。

バキバキという骨の砕ける音が響く。

レッドキャップ数体を巻き込み、後方へと吹き飛んでいった。

レッドキャップの壁が捌け、蝋燭男までの道ができる。

『よしっ! くらえ!』

その隙を逃さず、モノは猫魔法“雷”を放った。

バチバチと、電撃が駆ける音。

雷は蝋燭男に直撃する。

蝋燭男は体から白煙を立ち上らせ、その場に膝から崩れ落ちた。

火の勢いが、わずかに弱まる。

モノは追撃をかけようと、蝋燭男に向かって駆け出した。

跳躍し、猫魔法“弾き”を繰り出そうと肉球を向けた、その時だった。

後ろ足を引っ張られる。

レッドキャップだ。

そのまま地面に叩きつけられる。

『ぐっ!』

呻き声が漏れた。

続けざまに、レッドキャップの容赦ない追撃。

鎌、小刀、あるいは爪で、モノを切り裂いていく。

モノは体を丸め、ガードするしかなかった。

「よし。そのまま押さえておけ」

蝋燭男の声。

かつてないほど、頭の蝋燭が燃え盛り、周囲の炎と一体化していく。

手をかざすと、それは大きな火炎の塊となった。

蝋燭男は、躊躇なくそれを放つ。

火炎は、レッドキャップごとモノを飲み込んだ。

とてつもない光と熱。

『モノ!』

クロスケは迷わず炎に飛び込み、レッドキャップを蹴散らしてモノを救出した。

『大丈夫でござるか?』

『ああ……なんとか……』

だが、モノは傷だらけで、ところどころに火傷も見られる。

クロスケ自身も、体のあちこちがプスプスと燻っていた。

『……思い出したでござる』

クロスケが、覚悟を決めたように呟く。

「何をだ? どちらにせよ、炎がある限り俺には近づけん。先ほどは惜しかったが、もう二度とチャンスはやらん」

蝋燭男は口元を歪めて笑った。

その瞬間――

バリッ、という破裂音。

クロスケの棒が、蝋燭男の顔面にめり込んだ。

後方へ吹き飛ばされる蝋燭男。

だが、クロスケの体には引火し、ところどころから小さな火の手が上がっている。

『火を恐れては、戦士は務まらん。拙者は戦士でござる!』

「それで、自分が燃え尽きてもか! 行け、レッドキャップ!」

蝋燭男は狼狽し、レッドキャップに一斉攻撃を命じた。

『燃え尽きてもかまわぬ。それが戦士でござる』

バリッ!

バリッ!

バリッ!

連続する雷鳴のような破裂音。

レッドキャップたちは、あちこちへ吹き飛ばされ、四散する。

「“雷鳴のクロスケ”……! この愚か者が!」

蝋燭男は苦し紛れに火炎を放つ。

だが、クロスケは避けようとすらしない。

ただ、ひたすら真っ直ぐ突っ込み、蝋燭男を殴打し続けた。

バキッ!

バキッ!

バキッ!

「ぐっ……おのれ! なぜ止まらん!」

バキッ!

バキッ!

バキッ!

バキッ!

バキッ!

止むことのない連打。

『戦士だからでござるよ』

気づけば、蝋燭男は地面に仰向けに倒れ伏していた。


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