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仮面の男と案山子の戦士

石麦畑を抜けると、麦の擦れる音が消え、乾いた砂と岩の音だけが残った。

案山子戦士とミイナは、荒地を駆け抜けていた。

『……止まれ。足跡だ』

案山子戦士が跳ねるのをやめる。

「え? 足跡?」

『拙者、一日中麦を数えておりますゆえ、観察力には自信がある。これぞ』

案山子戦士はぴょんと跳ね、足代わりの棒で地面を指し示した。

風で消えかけている薄い足跡が、複数そこに残っている。

人のものではない。子供ほどの大きさだが、妙に細長い。

『やはりレッドキャップ』

「うん。先を急ごう、カカシさん」

足跡を辿ること十数分。

二人は大きな岩山に突き当たった。

その裂け目には、ひっそりと布が貼られている。

まるで扉の代わりのようだった。

「足跡は……あの洞窟につながってる……?」

ミイナは無意識に喉を鳴らす。

レッドキャップ。初めて相対する、危険な魔物だ。

『間違いござらぬ。娘御、慎重にな』

「うん……」

ミイナは恐る恐る布切れを潜り、洞窟の中へ侵入した。

その後ろを、案山子戦士が続く。

案山子戦士が跳ねるたび、床に棒切れが当たってコツコツと音を立てる。

その音で気づかれるのではないかと、ミイナは内心ひやひやしていた。

心臓がドクドクと鳴る。

緊張か。恐怖か。それとも、ナディルを見つけられるという期待か。

逡巡が頭を巡る中、さらに進むと、洞窟の暗闇の奥にぼんやりとした明かりが見えた。

どうやら部屋になっているらしい。

ミイナはそっと壁に身を寄せ、中の様子を盗み見る。

話し声が聞こえた。

「また、気絶か。しかし、堕ちない。なかなか根性がある女だ」

蝋燭の灯りに照らされていたのは、黒いローブを纏った仮面の男。

その側には、子供ほどの大きさの人影が八体、控えるように立っている。

頭が赤い。

鶏冠だろうか。なるほど、あれがレッドキャップか。

ミイナは、痩せた鶏のような姿だなと思った。

そして洞窟の奥。

女性が一人、壁面にしなだれかかっている。

緑色のローブは裂け、脚が露わになっていた。その脚は切り傷だらけだ。

蝋燭の明かりがその顔を照らした瞬間、ミイナは思わず叫んでいた。

「ナディルさん!」

逃げるべきだと、頭のどこかでは分かっていた。

それでも体が勝手に反応する。考えるより先に、ナディルへ駆け寄ろうと走り出していた。

『娘御!』

仮面の男とレッドキャップたちが振り返る。

レッドキャップが、ナディルとミイナの間に立ちはだかった。

ミイナは、つんのめるようにして足を止める。

「邪魔しないで! あなた達がナディルさんにひどいことをしたの⁉︎」

頭に血が昇るのが分かった。

「ほう。誰かと思えば、その指輪。飛んで火に入る夏の虫!」

仮面の男が、こちらを向く。

「質問に答えて!」

「左様。私の願いを聞いて頂けなかったのでね。少々、手荒な真似もさせて貰った。なに、殺してはいない」

「ふざけないで!」

ミイナは、生まれて初めて憎悪した。

目の前の男が憎い。これが憎悪なのだと、初めて知る。

「何。ゆっくり話そうではないか。手荒な真似は本来好かないのだ。さあ、私を見ろ」

「話すことなんて……あれ……?」

男の仮面が蝋燭の火で揺れる。

いくつもの眼玉を模した仮面、額に描かれた幾何学模様、穴から覗く赤黒い目。

頭がぼうっとしてくる。

何か変だ――そう気づいた時には、もう仮面から目が離せなくなっていた。

「捕えろ」

冷たい口調で仮面の男が言う。

レッドキャップたちが前に出た。

『娘御!』

誰かが叫んだ、と思った。

次の瞬間、バキッという音が洞窟に響く。

洞窟の床が抉れていた。

案山子戦士の棒が岩を砕き、男の顔面を撃ち抜く。

仮面は割れ、後方へ吹き飛んだ。

さらに――

バキッ! バキッ! バキッ!

連続した轟音。

案山子戦士は床、天井、壁を縦横無尽に跳ね回り、レッドキャップたちの顔面へ容赦なく棒を叩き込む。

レッドキャップたちは次々と吹き飛ばされ、壁に激突した。

「あれ……? 私……」

ミイナは、意識にかかっていた靄を振り払うように頭を振った。

『催眠の魔術陣だ。危なかったな、娘御』

事もなげにそう言うと、案山子戦士はミイナの前に進み出る。

『その女性を返してもらおう、悪党ども。それとも、拙者の一撃をまだ食らい足りぬか?』

レッドキャップたちは、完全に昏倒していた。

残るは仮面の男――

いや、違う。

仮面が割れ、素顔らしきものが露わになっている。

白くのっぺりとした顔は、どこか爛れているようにも見えた。

赤黒い目。

縦に裂けたような瞳孔。

そして頭頂部から突き出した縄のようなもの。

円柱形のそれを見て、ミイナは思う。

――蝋燭だ。

頭の蝋燭には、烏男と同じ呪眼がついていた。

蝋燭男は片膝をつき、やがて立ち上がると、怒りを宿した視線で睨み据える。

「まさか……案山子の戦士、クロスケ……。こんなところで会うとはな。なぜ動ける?」

『敵に教える義理はござらん。いかがする? 拙者と一騎打ちするか? それとも諦めて引くか?』

蝋燭男の眼に、はっきりと怒りが浮かんだ。

頭の蝋燭にも火が灯る。

「舐められたものだ。案山子の分際で!」

案山子戦士が構えを取る。

「しかし、この閉所では不利なのも事実。今回は引かせて頂こう……」

頭の炎が膨れ上がったかと思うと、閃光。

次いで黒煙が洞窟内に爆発的に広がった。

『娘御!』

案山子戦士は覆い被さるようにしてミイナを庇う。

やがて二人が起き上がった時、蝋燭男とレッドキャップの姿は消えていた。

『逃げられたか……。娘御、今は追う場合ではない。その女性を連れて村に戻るぞ。拙者がこの人を見ていよう。お主、助けを呼んでこられるか?』

「うん! すぐに呼んでくる!」

ミイナはそう言うと、すぐさま村へ向かって駆け出していた。


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