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序章 魔王の呪いと猫勇者

魔王は、倒れた。

黒い血が石畳を濡らし、重たい音を立てて魔王の杖が床に転がる。

玉座の間には、まだ戦いの余韻が残っていた。焼けた空気、砕けた柱、崩れた壁。

それでも――終わったのだと、誰もが思った。

勇者は、剣を下ろしたまま立っていた。

息は荒いが、致命傷はない。

仲間たちも同じだ。戦士は膝をつき、聖女は祈りの言葉を呟き、魔法使いは杖を支えに立っている。

勝った。

間違いなく、勝利だった。

「……終わった、のか?」

誰かがそう口にした瞬間だった。

床に倒れ伏している魔王が、笑った。

粘っこく、気持ちの悪い笑い声だった。

「なるほど……流石は勇者一行。このワシを倒すとは、想像以上の強さよ」

老人だった。

魔王は、痩せた老人の姿をしていた。

血を流し、胸を貫かれ、それでもなお、ゆっくりと上体を起こす。

その眼が、勇者を見た。

死にかけのはずの魔王の鈍色の瞳は、怪しい光を湛えている。

視線が、交差した。

その時、勇者の周囲に無数の眼玉が浮かぶ。

百。

千。

勇者を、戦士を、聖女を、魔術師を。

無数の眼球が、すべてを見つめている。

「……っ! クソッ! 呪いか⁉︎」

膝が震える。

視界が割れる。

「安心しろ。殺しはしない」

魔王は、穏やかな声で言った。

「殺してしまっては、面白くない」

老人は、杖に手をかける。

その仕草は、あまりにも弱々しい。

「お前たちの、最も忌むべきものへ姿を変えてやろう」

勇者が斬りかかろうとした瞬間、激痛が走った。

身体が、崩れる。

骨が縮み、筋肉がほどけ、世界が異様に大きくなる。

声を上げようとしても、喉が応えない。

落下する視点。

床に叩きつけられた衝撃。

次に感じたのは、喉の奥のむず痒さだった。

涙で視界が歪む。

勇者は、くしゃみをした。

あまりにも甲高い音。

自分の口から出たそれが、人の声ではないことに、勇者は戦慄した。

「時間は、いくらでもある」

遠くで、魔王の声がする。

「私はいずれ復活する。

無力な姿で永遠の時を生きろ!

そして指を咥えて、私の野望を見ているがいい!」

最後に見えたのは、

無数の眼が、ゆっくりと閉じていく光景だった。

呪いを受けた勇者の意識は、遠ざかっていく。

そして世界は、暗転するのだった。



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