01. 断罪と、暴かれた余命
「――エリシア・フォン・ルヴェリア。今からあなたの罪を告白します」
壇場に上がった聖女様が放った言葉が、騒がしかった会場を静まり返らせた。
今日は、学園の卒業記念パーティに私と婚約者である王太子殿下が参加していた。卒業後は、結婚式も控えて忙しくなる。だから共に卒業する学友との最後の交流の場だった。
一学年下の聖女様も参加されていることに、ほんの少しだけ嫌な予感を覚えたが、まぁ聖女様だから神殿とのあれこれで参加したのだろうな、仕方ないだろうと自分を納得させていたら、出会い頭挨拶も早々に上記の発言をされたのだ。
流石の私も、笑顔を消して眉根を寄せざるを得ない。
「罪、とは?」
「まずこの場で、嘘偽りなく申し開くことを我らが神に誓います」
態とらしいような、恭しい礼を聖女様が行う。余興がかったその動作に、さらに眉根を寄せる。嫌な予感がする。
「私が告白します罪状は、エリシア・フォン・ルヴェリアが王太子妃に相応しくないことです」
会場が、どよめいた。私の隣にいる王太子殿下は、私の肩に手を置いた。
「エリシア、聖女を虐めていたのは本当か?」
「は?」
「私、エリシアと仲良くしたかったのです。だって、王太子妃になられる方だもの。今後交流を深めていくのが良いと思ったのです。……それなのに、エリシアは私の陰口を側近に言っていたとか」
「それは――」
「祈りの儀式で使う聖水を捨てられて、神殿への寄付記録の改竄も目撃した人もいます。しまいには、私は階段から突き落とされて――」
ちらり、と聖女様がドレスの裾を捲る。そこには、痛々しそうに包帯が巻かれていた。
会場がざわついて、視線がこちらに集中する。
侮蔑、猜疑、好奇、疑念。
背中から汗が噴き出すのを感じる。でも気取られてはいけないと、扇を取り出して口元に当てた。何故なら私は、王太子妃になるからだ。
「聖女様、時と場所をお考えくださいませ。もし、私の振る舞いに疑念があるのでしたら、外務大臣でもある我が父、ルヴェリア公爵に申し開きを。それをせずにこのような公の場で仰られる行動には、些か疑問を感じます」
「話を逸らさないで下さい。認めるのですね?」
「何を?」
「あなたが、私を虐めたと、認めて下さい」
そんな事をするはずないじゃないか。と口を引き結ぶ。彼女が陰口と称したのは、何回言っても王太子殿下との距離が近かったので注意しても治らないから、あの子どうしようか、と友人に愚痴を溢していただけだ。
物を壊したり隠すだなんて、そんな程度の低い悪戯を私がするはずもない。何故なら私は王太子妃になるよう育てられたのだから。未来の王国を背負う人間なのだから。
私は、自身の価値が下がる行動はしない。
怒りが、一周回って落ち着いてきた。
「興味がありませんね。そんなこと」
王太子を見ると、びくりと肩を跳ねさせた。視線を逸らしたのを見て眉尻を上げる。私の知らない間に、誰かに煽られて調子に乗ったな? 後で聞き出さないと。
「それだけではありません。エリシアは――」
「子爵令嬢。本日は聖女としてご出席されているので聖女様とお呼びしますが、まだ学園を卒業していないあなたは正式な聖女様ではないはずです。それなのに、この公爵令嬢の私を呼び捨てになさるのですか? 殿下の婚約者である私を大勢の前で? 少しは慎みを覚えたらいかがです?」
「っ、エリシア・フォン・ルヴェリアは!」
聖女様が大声を出した。騒がしかった会場が、再び静かになる。
「余命があとたったの一年です!」
目を、見開いた。
隠していたけど、まさかこんな所で暴かれるとは思ってもみなかった。
会場から、悲鳴が上がった。会場の空気の色が変わる。彼女は、一枚の紙を取り出して掲げた。
「医師の診断書もこの手にあります。国王陛下と王太子殿下を騙して、婚約を続けていました! これは王室詐欺罪です! 婚約は破棄されるべきです!」
嵌められた、と気付いた時には遅かった。王太子が、聖女の側に立っている。いや待て、余命のことは陛下にも父から報告をしていた。その上で婚約は続けられていた。――王太子が動揺するから、隠す形で。いよいよ私が動けなくなった時に、改めて説明する段取りだった。
もし、ここで私が「陛下はご存じだった」と言ったら、王室が国民や臣下に対して隠し事をしていたことになるのだ。だから、私は黙ることしか出来ない。
神殿騎士が現れて私を取り押さえる。髪を振り乱し、顔を上げると、憐憫と侮蔑の表情と浮かべた殿下と、勝ち誇った顔の聖女がいた。
「……エリー、嘘偽りはないんだな?」
唇を噛みしめながら静かに頭を垂れると、声高らかに婚約破棄が宣言された。
神殿騎士に引き立てられながら、目を瞑る。
くそ、気をつけてはいたけど、まさか断罪エンドだったのかよ。




