第9話 重なる領域
ローデン領は、グラーデン領よりもひどかった。
城門は半壊。
見張りは二人だけ。
街道には、逃げ遅れた馬車の残骸が転がっている。
「……想像以上だな」
アルトの呟きに、同行していた代官ミヒャエルが苦く笑った。
「良い報告ができる状況ではありませんでしたから」
それは、正直な言葉だった。
まず違和感があった。
アルトがローデン領に足を踏み入れた瞬間、
視界の端でUIが微かにノイズを走らせた。
【警告】
現在地は管理対象外です
一部機能が制限されます
(……完全には、届かないか)
それでも、UIは沈黙しなかった。
暫定権限を確認
外部領域:ローデン領
・管理同意:取得済み
ミヒャエルが、はっきりと頷いたからだ。
「この領地の判断は、あなたに委ねます」
その言葉が、鍵だった。
街の中央広場。
集まった兵と住民の前で、アルトは状Remember to stay concise but engaging. Continue story.
街の中央広場。
集まった兵と住民の前で、アルトは状況を一目見ただけで把握した。
怒号はない。だが、諦めが蔓延している。
「……まず、三つだけやる」
アルトは声を張らない。
それでも、なぜか全員が耳を澄ました。
「一つ。今夜から徴税を止める」
ざわっと空気が揺れる。
「二つ。兵は街の外に出るな。守るのは人だ」
兵士たちが顔を見合わせる。
「三つ。倉庫の鍵を全部集めろ」
ミヒャエルが驚いた顔で近づく。
「そ、それは……危険では?」
「大丈夫です」
アルトは即答した。
「もう盗まれてます」
沈黙。
誰も否定できなかった。
倉庫に集められた鍵を前に、アルトはUIを開く。
【暫定管理】
・物流経路:断絶
・資源所在:不明(63%)
(やっぱりな)
完全支配ではない。
だが――見える。
「……最低限、繋ぐ」
アルトがそう呟いた瞬間。
【部分最適化 実行】
対象:物流/治安
制限付き権限を使用します
グラーデン領で感じた“全能感”はない。
代わりに、重たい抵抗があった。
(これが……領域が重なっていない状態か)
現実世界が、ゆっくりと変わり始める。
倉庫に物が“戻ってくる”
兵の配置が自然と街道沿いに集まる
魔獣の目撃情報が、境界付近で止まる
だが、どれも不完全だった。
「……効いてる、が」
アルトは歯噛みする。
・物流効率 +38%
・治安係数 改善(不安定)
(グラーデンなら、一気に倍だった)
ミヒャエルが、震える声で言う。
「……それでも、奇跡です」
実際、住民の顔色は明らかに違っていた。
「物が……ある」
「兵が、逃げてない……」
それだけで、希望が生まれる。
その夜。
アルトは、宿の一室でUIを睨んでいた。
【領域支配】
警告:
複数領域への介入を検出
完全支配には条件が不足しています
条件――。
次の行が、ゆっくりと表示される。
必要条件:
・恒常的な指揮権
・制度の一本化
・境界の確定
アルトは、静かに息を吐いた。
(つまり……)
「領地同士を、別物として扱っている限り、限界がある」
ミヒャエルが、深く頭を下げた。
「ならば……どうすれば?」
アルトは、迷わず答えた。
「選択肢は二つです」
指を二本立てる。
「一つ。帝都の命令を待つ」
ミヒャエルは、何も言わない。
「二つ――」
アルトの声が、低くなる。
「この二つの領地を、事実上“同じ領域”にする」
部屋の空気が、張り詰めた。
それは、反逆でも独立でもない。
だが――帝都の想定外だ。
ミヒャエルは、ゆっくりと頷いた。
「……あなたが責任を取るのですね」
「はい」
その答えに、迷いはなかった。
翌朝。
ローデン領の門に、グラーデン領の兵が立っていた。
旗は、掲げない。
宣言も、しない。
ただ――
境界線が、曖昧になった。
視界の端で、UIが微かに光る。
【領域支配】
重複領域を検出
統合可能性:低 → 中
アルトは、静かに笑った。
(いい……見えてきた)
帝都は、まだ知らない。
辺境で起きているのは、
単なる「支援」でも「連携」でもない。
世界の管理単位そのものが、書き換わり始めていることを。
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