第76話 世界の心臓
封印層・第三階層入口。
巨大な縦穴の縁に、アルトたちは立っていた。
下から吹き上げる熱と振動。
ドクン。
ドクン。
鼓動は、もはや音ではなく圧力だった。
世界そのものが呼吸している。
ラグスが低く言う。
「……これが世界の中心か」
カルディアが静かに答える。
「外殻です」
「本体ではありません」
ラグスが苦笑する。
「まだ前菜かよ」
*
アルトは縦穴を見下ろした。
赤い光。
巨大な結晶層。
そしてその奥で、何かが脈打っている。
視界の端でUIが点灯する。
【世界核外殻】
【深層接続領域】
【干渉可能率:上昇】
アルトは小さく呟く。
「……近い」
*
ゼノスが静かに言った。
「あなたは感じている」
アルトは振り向かない。
ゼノスは続ける。
「世界核は生命ではありません」
一拍。
「だが、意思に似たものはある」
カルディアが眉をひそめる。
「意思?」
ゼノスは頷く。
「接続を求める」
アルカが呟く。
「……だから深度が上がる」
ゼノスは静かに笑う。
「そうです」
*
ミヒャエルが問う。
「なぜ今になって」
ゼノスは縦穴の奥を見た。
「封印が長すぎた」
ラグスが吐き捨てる。
「それで文明が保たれた」
ゼノスは否定しない。
「ええ」
一拍。
「だが進化は止められない」
沈黙。
*
アルトが言う。
「進化ではない」
ゼノスが目を細める。
「では?」
アルトは静かに答えた。
「暴走だ」
ラグスが笑う。
「その通りだ」
ゼノスは首を傾げる。
「恐怖の言葉ですね」
アルトは言う。
「個体が消えるなら文明は消える」
ゼノスは少し考えた。
そして言った。
「文明とは何ですか」
沈黙。
アルカが小さく呟く。
「……哲学ですね」
*
ドクン。
第三階層の空間が大きく揺れた。
アルカが叫ぶ。
「振動急上昇!」
カルディアが装置を見る。
「外殻が開きます!」
縦穴の下。
巨大な結晶層が割れる。
赤い光が吹き出した。
世界核の外殻。
ついに露出した。
*
全員が息を呑む。
そこには巨大な球体があった。
直径数キロ。
無数の光の線が流れている。
星のような結晶。
ドクン。
ドクン。
世界の心臓。
ラグスが呟く。
「……でけぇ」
アルカは言葉を失っている。
カルディアは静かに言った。
「世界核外殻」
ゼノスは微笑む。
「美しいでしょう」
*
アルトは一歩前に出る。
その瞬間。
世界核が強く脈打った。
ドクン!!!
視界の端のUIが激しく光る。
【深層接続率:急上昇】
【世界核共鳴】
アルトは思わず膝をつく。
世界が流れ込んでくる。
海。
山。
都市。
生命。
無数の意識。
ラグスが叫ぶ。
「アルト!」
カルディアが言う。
「共鳴です!」
ゼノスは静かに見ている。
*
アルトの視界。
世界核の内部。
光の海。
そこに無数の影。
アルトは理解した。
「……人間」
ゼノスの声が響く。
「三百年前の接続者たち」
沈黙。
アルトは言った。
「同化したのか」
ゼノスは答える。
「そう呼ぶ人もいる」
アルトはゆっくり立ち上がる。
「違う」
一拍。
「取り込まれた」
ゼノスの瞳が細くなる。
*
ドクン。
世界核がさらに強く脈打つ。
アルカが叫ぶ。
「外殻振動限界!」
カルディアが言う。
「このままでは」
ミヒャエルが続ける。
「封印が崩れます」
沈黙。
ゼノスが静かに言った。
「それが進化です」
アルトは答える。
「違う」
ゼノスを見る。
「設計ミスだ」
世界が静まった。
一瞬。
ゼノスが小さく笑う。
「面白い」
一歩下がる。
「ならば見せてください」
世界核を指す。
「あなたの設計を」
ドクン。
世界の鼓動が響く。
文明の未来は、
今この場所で決まろうとしていた。
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