第75話 第三階層
封印層・第二階層。
中央の大地が裂け、下層へ続く巨大な縦穴が現れていた。
熱を帯びた空気が吹き上がる。
ドクン。
ドクン。
鼓動はもうはっきりと感じられる。
アルカが震える声で言う。
「……深度波形、異常です」
「数値の意味がありません」
ミヒャエルが問う。
「どういう意味だ」
アルカが答える。
「計測範囲を超えています」
沈黙。
*
ラグスが穴の中を覗く。
赤い光が、はるか下で揺れている。
「……あれが」
カルディアが頷く。
「第三階層」
「世界核の外殻領域です」
アルトが静かに言う。
「外殻」
カルディアが説明する。
「世界核は直接触れられるものではありません」
「まず外殻」
「次に干渉層」
「その先が核本体」
ラグスが苦笑する。
「まだまだ下があるのか」
*
その時。
第二階層の柱が強く光った。
ドクン!!
振動が急激に強まる。
アルカが叫ぶ。
「抑制柱の出力低下!」
カルディアが顔をしかめる。
「振動を抑えきれていません」
ミヒャエルが呟く。
「封印が壊れるのか」
カルディアは首を振る。
「違います」
「振動が強すぎる」
沈黙。
*
リーネが静かに言う。
「封印は壊れていません」
アルトを見る。
「ただ」
一拍。
「時代が変わるだけです」
ラグスが吐き捨てる。
「便利な言い方だな」
リーネは穏やかに微笑む。
「恐怖は理解します」
「ですが」
世界核の鼓動が響く。
ドクン。
「世界は目覚めています」
*
アルトは縦穴を見下ろす。
深い闇。
その奥で、巨大な赤い光が脈打っている。
ドクン。
ドクン。
視界の端のUIが激しく点灯する。
【深層接続領域】
【対象:世界核外殻】
【接続共鳴率:上昇】
アルトは静かに言う。
「……呼ばれている」
アルカが振り向く。
「何が」
アルトは答える。
「世界核」
沈黙。
*
ラグスが剣を担ぐ。
「行くんだろ」
アルトは頷く。
「行く」
カルディアが言う。
「第三階層から先は」
「封印の中心です」
ミヒャエルが低く言う。
「戻れない可能性もある」
アルカが静かに息を吐く。
「歴史的瞬間ですね」
ラグスが笑う。
「歴史どころじゃねぇ」
「文明の分岐だ」
*
その時。
第二階層の空気が歪んだ。
空間が波打つ。
そして。
一人の男が現れた。
アルトたちはすぐに気づいた。
先ほどの存在とは違う。
圧倒的な存在感。
カルディアが小さく呟く。
「……ゼノス」
ラグスが目を細める。
「リーダーか」
男――ゼノスは静かにアルトを見た。
瞳が金色に光る。
「やっと来ましたね」
沈黙。
ドクン。
世界核の鼓動がさらに強くなる。
ゼノスは言った。
「人類は分岐点に立っています」
一歩近づく。
「個として残るか」
「世界と一つになるか」
アルトは静かに答える。
「どちらでもない」
ゼノスの目が細くなる。
アルトは続ける。
「第三の道を作る」
沈黙。
ゼノスはゆっくり笑った。
「それを見届けるために」
縦穴を指す。
「降りましょう」
世界核の鼓動が響く。
ドクン。
ドクン。
物語はついに、
世界そのものの中心へ向かう。
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