第74話 第二階層
封印通路・第二階層入口。
第一階層の記録庫を抜けた先に、巨大な縦穴が口を開けていた。
底は見えない。
中央には螺旋状の通路が下へ伸びている。
ドクン。
ドクン。
振動はさらに強い。
アルカが測定器を見つめた。
「深度波……急激に上がっています」
ラグスが苦笑する。
「そりゃ世界の心臓に近づいてるからな」
カルディアは真顔で言う。
「ここから先は」
「封印の本体です」
沈黙。
*
螺旋通路を降りていく。
壁には太い結晶導線が走り、光が脈打っている。
まるで血管だ。
ラグスが呟く。
「ほんとに心臓みてぇだ」
ミヒャエルが言う。
「水晶網は循環装置だったのか」
カルディアが頷く。
「世界核の振動を吸収し、分散させる」
アルカが続ける。
「それが三百年間続いてきた」
*
やがて通路は広い空間に出た。
第二階層。
巨大な円形ホール。
中央には巨大な柱。
柱の内部で、結晶がゆっくり回転している。
ドクン。
ドクン。
振動はここから発生していた。
アルカが息を呑む。
「……封印装置」
カルディアが頷く。
「第一抑制柱」
ラグスが柱を見上げる。
「一本じゃないな」
カルディアが説明する。
「世界中に七本あります」
ミヒャエルが言う。
「それで振動を抑えている」
*
その時。
柱の影が揺れた。
誰かがそこに立っている。
ラグスが剣を構える。
「またか」
影が前に出る。
先ほどの男ではない。
女性。
白い衣。
瞳が淡く光っている。
カルディアが小さく言う。
「……原初接続者」
女は静かに頭を下げた。
「調整者」
アルトを見ている。
ラグスが唸る。
「次から次へと」
女は微笑んだ。
「歓迎しています」
沈黙。
*
アルトが問う。
「名前は」
女は答える。
「リーネ」
「昔の名前です」
アルカが呟く。
「昔?」
リーネは頷く。
「接続すると」
「名前は意味を失います」
カルディアが言う。
「あなたは世界核側の存在」
リーネは否定しない。
「そう呼ばれることもあります」
*
ラグスが苛立つ。
「敵か」
リーネは首を振る。
「いいえ」
一歩近づく。
「ただ」
アルトを見る。
「あなたを見に来ました」
沈黙。
*
リーネは柱を見上げる。
「三百年前」
「ここで封印が作られました」
アルカが言う。
「記録は見ました」
リーネは微笑む。
「当時の人類は勇敢でした」
「進化を恐れながらも」
「世界を壊さない道を選んだ」
ラグスが言う。
「今も同じだ」
リーネは静かに首を振る。
「違います」
一拍。
「今は止められません」
ドクン。
柱が強く光る。
*
アルカが叫ぶ。
「振動上昇!」
カルディアが低く言う。
「抑制柱が限界に近い」
ミヒャエルが問う。
「破壊されるのか」
リーネが答える。
「いいえ」
「不要になるだけです」
沈黙。
*
アルトが言う。
「人類が変わる」
リーネは頷く。
「はい」
「世界と繋がる文明へ」
ラグスが吐き捨てる。
「個人が消える文明か」
リーネはアルトを見る。
「それはあなた次第です」
沈黙。
*
その瞬間。
ドクン!!
これまでで最大の鼓動。
第二階層全体が震えた。
アルカが叫ぶ。
「深層振動レベル突破!」
カルディアが言う。
「第三階層が開きます!」
ラグスが笑う。
「おいおい」
地面の中央がゆっくり割れる。
巨大な下層通路。
熱風のようなエネルギーが吹き上がる。
ドクン。
ドクン。
鼓動はすぐ下だ。
アルトは静かに言った。
「世界核」
リーネが微笑む。
「はい」
「すぐそこです」
封印層探索は、
ついに最深部へ到達しようとしていた。
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