第73話 封印の記録
封印通路・第一階層。
原初接続者の姿が消えた後も、空気は張り詰めたままだった。
通路の奥からは、変わらず世界核の鼓動が伝わってくる。
ドクン。
ドクン。
ラグスが低く言う。
「……逃げたわけじゃねぇな」
カルディアが答える。
「完全接続者は、空間に重なります」
「消えたのではありません」
アルカが震える声で言う。
「世界核と接続しているなら……」
「この通路全体を見ている可能性があります」
沈黙。
アルトは通路の奥を見つめた。
「構わない」
一歩進む。
「進む」
*
第一階層は、想像以上に広かった。
天井は高く、黒い結晶柱が規則的に並んでいる。
壁には古代の導線が走り、水晶が淡く光っている。
アルカが呟く。
「まるで都市……」
カルディアが頷く。
「封印層の管理区画です」
ラグスが周囲を見回す。
「三百年前の設備がまだ動いてるのか」
カルディアは壁の水晶を触る。
「古代文明は、我々よりはるかに高度でした」
ミヒャエルが言う。
「だから三百年も封印を維持できた」
カルディアは静かに言う。
「ええ」
一拍。
「ですが、維持は限界に近い」
*
通路の奥に、大きな扉が現れた。
半円形の黒い扉。
その中央に巨大な水晶。
アルカが息を呑む。
「……封印文字」
カルディアが近づく。
「記録庫です」
ラグスが眉を上げる。
「記録?」
「封印管理のログ」
カルディアは水晶に手を置く。
だが光らない。
アルトを見る。
「あなたの深度が必要です」
*
アルトが水晶に触れる。
視界の端でUIが起動する。
【古代記録装置 検出】
【アクセス権限:深度接続】
アルトは接続を許可する。
その瞬間。
水晶が強く光る。
ゴォォ……
扉がゆっくりと開いた。
内部は巨大な円形空間だった。
壁一面に、水晶記録装置。
中央には巨大な柱。
アルカが呟く。
「……封印ログ」
カルディアが頷く。
「三百年前の記録が残っています」
*
アルカが記録を起動する。
水晶に映像が浮かぶ。
古代都市。
巨大な水晶塔。
そして空に広がる歪み。
アルカの声が震える。
「……深度暴走」
カルディアが言う。
「当時の世界です」
*
映像の中。
人々が浮かび上がっている。
空間が歪み、建物が崩れる。
一人の研究者が言う。
「接続が強すぎる!」
別の声。
「世界核が活性化している!」
ラグスが呟く。
「今と同じか」
カルディアが頷く。
「はい」
*
映像が変わる。
研究会議。
古代の学者たちが議論している。
一人が言う。
「進化を受け入れるべきだ」
別の者が叫ぶ。
「文明が崩壊する!」
アルカが呟く。
「……分岐」
カルディアが言う。
「当時も同じ議論でした」
*
最後の映像。
巨大な水晶装置。
世界中の塔が接続される。
研究者が宣言する。
「世界核振動を抑制する」
「深度上限を固定する」
ラグスが低く言う。
「抑制装置」
カルディアが頷く。
「現在の測定制度の原型です」
*
映像が途切れる。
最後に残った記録。
研究者の声。
「我々は進化を止める」
一拍。
「人類を守るために」
沈黙。
アルカが呟く。
「……歴史の決断」
*
その時。
ドクン。
世界核の鼓動が強くなる。
記録装置の水晶が揺れる。
ミヒャエルが叫ぶ。
「振動強度上昇!」
カルディアが低く言う。
「封印層に負荷がかかっています」
アルトは記録柱を見る。
「三百年前は」
「ここで封印を完成させた」
カルディアが答える。
「はい」
ラグスが笑う。
「今はどうする」
アルトは静かに言った。
「同じことはしない」
沈黙。
カルディアが問う。
「封印を壊しますか」
アルトは首を振る。
「違う」
一拍。
「再設計する」
*
その瞬間。
記録装置の一つが突然強く光った。
アルカが驚く。
「新しい記録?」
ミヒャエルが画面を見る。
「違う」
一拍。
「現在ログ」
沈黙。
画面に浮かんだ文字。
【封印層第二階層】
【原初接続者 活動確認】
ラグスが剣を抜く。
「……待ち伏せか」
カルディアが低く言う。
「第二階層に」
アルトは通路の奥を見た。
鼓動が強くなる。
ドクン。
ドクン。
世界核が確実に目覚めつつある。
アルトは言った。
「行く」
ラグスが笑う。
「世界の心臓まで、だな」
カルディアが頷く。
「はい」
封印層探索は、
さらに深い階層へ進む。
そしてその先には――
世界の心臓が待っている。
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