第70話 覚醒の兆し
アストレア地下観測層。
観測室の中央水晶は、これまでにない強さで脈動していた。
ドクン。
ドクン。
鼓動はもう錯覚ではない。
観測室の空気すら、その振動に共鳴している。
観測員が叫ぶ。
「深層振動、再上昇!」
「封印層安定度、さらに低下!」
アルカが画面を見つめたまま言う。
「……振動源、拡大しています」
ミヒャエルが問う。
「拡大?」
「はい」
アルカの声が低くなる。
「一点ではありません」
「世界核全体が活性化しています」
沈黙。
*
ラグスが腕を組む。
「つまり」
「封印が一部じゃなく、全部弱まってる?」
カルディアは頷く。
「可能性は高いです」
アルトが問う。
「原因は」
カルディアは静かに答える。
「世界核の覚醒」
観測室が凍りつく。
*
アルカが記録をめくる。
「三百年前の終盤記録に似ています」
「振動加速」
「封印層不安定」
ミヒャエルが言う。
「その後どうなった」
アルカはゆっくり答える。
「封印が完成しました」
ラグスが笑う。
「つまりギリギリだったってわけだ」
カルディアが補足する。
「はい」
「封印は世界核の完全覚醒直前に完成しました」
*
その時。
ドクン。
今までで一番大きな振動。
観測室の床が揺れる。
観測員が叫ぶ。
「深層振動レベル更新!」
「危険域接近!」
アルカが画面を見つめる。
「……これは」
「完全に加速しています」
カルディアが低く言う。
「覚醒の前兆です」
*
アルトは水晶に触れる。
その瞬間。
視界が揺れた。
暗い空間。
果てしない深さ。
その中心で。
巨大な光がゆっくり脈打っている。
ドクン。
ドクン。
まるで星の心臓。
アルトは思わず手を離した。
視界が元に戻る。
ラグスが問う。
「何が見えた」
アルトは静かに答える。
「……心臓だ」
沈黙。
カルディアが言う。
「世界核ですね」
*
アルカが震える声で言う。
「つまり」
「今の深度上昇は」
カルディアが答える。
「覚醒の波」
ミヒャエルが呟く。
「世界が目覚めている」
*
アルトは観測図を見る。
深層振動の波形。
世界規模で広がっている。
「止められるのか」
カルディアは少し考える。
「止めることは」
一拍。
「できないかもしれません」
ラグスが眉をひそめる。
「じゃあどうする」
カルディアはアルトを見る。
「再設計するしかありません」
沈黙。
アルトはゆっくり頷く。
「壊すのではなく」
「作り直す」
*
その時。
観測員が叫ぶ。
「新しい反応!」
アルカが画面を見る。
「……何?」
「個体深度」
ミヒャエルが問う。
「誰だ」
観測員が答える。
「北方同盟」
「イグナート」
ラグスが笑う。
「またあいつか」
アルカが首を振る。
「違います」
「もう一つ」
沈黙。
「未知の深度反応」
カルディアの目が細くなる。
「……来ましたね」
アルトが問う。
「何が」
カルディアは静かに言う。
「原初接続者」
観測室の空気が凍る。
*
ドクン。
ドクン。
世界の鼓動がさらに強くなる。
深層振動は止まらない。
封印は揺れている。
三百年前。
人類は進化を止めた。
だが今。
その進化が、再び始まろうとしている。
アルトは静かに言った。
「地下に行く」
カルディアが頷く。
「はい」
ラグスが笑う。
「世界の心臓探検だな」
アルカが呟く。
「歴史の転換点です」
ドクン。
世界が脈打つ。
物語はついに、
文明の深層へ踏み込む。
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