第7話 刃の向き
グラーデン領・南の平原。
朝霧の中、兵たちは整列していた。
――いや、整列している“つもり”だった。
隊列は歪み、間隔はバラバラ。
武具の手入れも不十分。
号令がかかっても、反応速度にばらつきがある。
「……ひでぇな」
ぼそりと呟いたのは、古参兵の一人だった。
「数はいる。
だが、軍じゃない」
その評価は、正しかった。
アルト・レインハルトは、少し離れた場所から兵たちを眺めていた。
視界には、いつものUIが重なっている。
【領域支配:軍制分析】
・総兵力:412
・即応可能:38
・実戦耐性:低
・損耗予測(対魔獣):62%
「……これは」
想定より、悪い。
(数で安心して、
構造を作っていない)
アルトは、静かに息を吐いた。
「全員、解散」
突然の命令に、兵たちがざわつく。
「え?」
「解散って……訓練は?」
「聞こえなかったか」
アルトの声は低く、だが通った。
「今の訓練は、意味がない」
ざわめきが、一段階大きくなる。
「な、何言ってるんだ!」
「俺たちは、ずっとこのやり方で――」
アルトは、視線を一人の兵に向けた。
「君。名前は?」
「……ラグスです」
「ラグス。
魔獣と、何度戦った?」
「三回……です」
「生き残った理由は?」
ラグスは、言葉に詰まった。
「……運、ですかね」
「違う」
アルトは即答した。
「配置だ」
ざわ、と空気が揺れる。
アルトは、地面に一本の棒で線を引いた。
「この領地の軍は、
“全員が前に出る”前提で組まれている」
棒で、乱雑な円を描く。
「だから、強そうに見える。
だが――」
次に、線を整理して描き直す。
「誰も、守っていない」
沈黙。
「魔獣は、
強い相手より、
隙のある相手を狙う」
アルトは、兵たちを見る。
「今のお前たちは、
全員が“隙”だ」
誰も、反論できなかった。
「再編する」
その一言で、空気が変わった。
【軍制最適化 開始】
・部隊再編
・役割固定
・戦線分割
兵たちの視界には、何も見えない。
だが、体が勝手に動く感覚があった。
「……あれ?」
「立ち位置が、分かる……?」
自然と、前列・中列・後列が形成される。
前列:盾役
中列:攻撃
後列:支援・回復・索敵
誰も指示していないのに、
自分の立つべき場所が分かる。
「これが……軍?」
ラグスが、息を呑んだ。
その瞬間、警報が鳴った。
「魔獣だ!
北の森から、群れ!」
最悪のタイミング。
――だが。
アルトは、少しだけ口角を上げた。
「実戦だ」
森の縁から現れたのは、
牙を剥いた魔獣の群れ。
以前なら、
突撃
混乱
死傷
が確定していた。
だが、今回は違う。
「前列、止めろ!」
誰が叫んだわけでもない。
だが、盾が揃う。
魔獣がぶつかり、
勢いが削がれる。
「中列、叩け!」
刃と魔法が、
最も効果的な角度で叩き込まれる。
後列では、
回復と補助が、必要な場所にだけ飛ぶ。
「……減ってる」
「押し返してる……!」
魔獣の群れは、
十分も経たずに撤退した。
死傷者――ゼロ。
静寂。
兵たちは、自分の手を見下ろした。
「……生きてる」
「俺たち……勝った?」
アルトは、UIを見る。
・損耗率:0%
・戦闘効率:最大
「これが、軍だ」
淡々とした声。
「勇気でも、根性でもない。
配置と役割だ」
ラグスが、震える声で言った。
「……俺たち、強いんですか?」
アルトは、首を横に振る。
「まだだ」
だが、続ける。
「ただし――
正しく使えば、負けない」
その言葉は、
兵たちの背筋を、まっすぐにした。
夜。
領主が、信じられないものを見るように言った。
「……軍が、
“軍”になっている……」
アルトは、淡々と答える。
「今までが、
ただの“武装した民”だっただけです」
視界の端に、通知が浮かぶ。
【領域支配】
軍制安定化 完了
次の最適化候補:
・指揮官育成
・外部防衛線
(次は……)
アルトは、遠く帝都の方向を見る。
この軍は、
もう“辺境の兵”ではない。
そして帝都は、
この変化を、必ず恐れる。
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