第69話 抑制の真実
アストレア地下観測層。
世界核の存在が明らかになってから、観測室の空気は明らかに変わっていた。
誰もが理解している。
これは制度の問題ではない。
世界そのものの問題だ。
ドクン。
ドクン。
地下深層から伝わる振動が、確かに存在している。
観測水晶の光が、その周期に合わせてわずかに揺れる。
アルカが計測板を見つめながら言う。
「振動周期……さらに短くなっています」
ミヒャエルが呟く。
「加速しているのか」
カルディアは静かに頷いた。
「はい」
「封印層が薄くなっています」
ラグスが腕を組む。
「三百年前はどうだった」
カルディアは少し考え、答える。
「記録によれば」
「最初は同じでした」
「振動の加速」
アルカが言う。
「つまり」
「当時と同じ段階に来ている?」
カルディアは否定も肯定もしない。
「可能性は高いです」
沈黙。
*
アルトが問う。
「三百年前、人類はどうした」
カルディアはゆっくりと古い金属板を一枚取り出す。
そこには、封印設計の記録が刻まれていた。
「当時の文明は二つの選択肢を議論しました」
アルカが興味深そうに身を乗り出す。
「二つ?」
カルディアは頷く。
「進化を受け入れるか」
「抑制するか」
ラグスが低く言う。
「結果は分かってる」
カルディアは淡々と言う。
「抑制が選ばれました」
*
アルカが板を読み取る。
「理由は……」
彼女の声が止まる。
「どうした」
ミヒャエルが問う。
アルカはゆっくりと言った。
「“個の崩壊”」
沈黙。
カルディアが補足する。
「深度が上昇し続けると」
「人は世界核と強く接続します」
ラグスが言う。
「それが何だ」
カルディアは静かに答える。
「接続が強すぎると」
一拍。
「人と世界の境界が消える」
観測室の空気が凍る。
*
アルトが言う。
「同化か」
カルディアは頷く。
「はい」
「深度過剰者の一部は」
「世界の一部になりました」
ミヒャエルが息を呑む。
「消えたのではなく」
「吸収された?」
カルディアは肯定する。
「世界核へ」
*
ラグスが呟く。
「つまり三百年前の連中は」
「人類を守るために抑え込んだ」
アルカが言う。
「進化を止めた」
カルディアが静かに言う。
「そうです」
「抑制装置は」
一拍。
「人類を人類のまま保つ装置」
沈黙。
*
その時。
ドクン。
強い振動。
観測室の床が大きく揺れた。
観測員が叫ぶ。
「深層振動急上昇!」
「振幅三倍!」
アルカが画面を見る。
「……あり得ない」
カルディアが低く言う。
「世界核が強く脈打っています」
*
アルトは水晶に手をかざす。
視界の端でUIが強く光る。
【深層接続反応】
【対象:世界核】
【接続共鳴率:上昇】
(共鳴している)
アルトはゆっくり手を引いた。
ラグスが問う。
「どうだ」
アルトは答える。
「……遠くない」
「何が」
「世界核」
沈黙。
*
カルディアが言う。
「封印層は複数あります」
「最上層は水晶網」
「その下に古代封印」
「さらに深くに」
一拍。
「世界核」
アルカが問う。
「距離は」
カルディアは少し迷う。
「正確には分かりません」
「ただし」
観測図を指す。
「振動波形から推定すると」
「ここから真下」
「数十キロ」
ラグスが吹き出す。
「……地底探検か」
カルディアは真顔のまま言う。
「違います」
「封印層探索です」
*
アルトが言う。
「入口はあるのか」
カルディアは頷く。
「古代文明は整備していました」
「封印点検用の通路」
ミヒャエルが驚く。
「そんなものが」
カルディアは床を指す。
「この都市の地下にあります」
ラグスが笑う。
「つまり」
「世界会議の真下に」
アルカが言う。
「封印の入口」
ドクン。
鼓動がさらに強くなる。
観測水晶が赤く光る。
【深層振動レベル:上昇】
【封印層安定度:低下】
アルトは静かに言った。
「時間がない」
カルディアが頷く。
「はい」
沈黙。
そしてアルトが言う。
「地下に行く」
ラグスが笑う。
「決まりだな」
アルカは小さく息を吐く。
「……歴史が動きますね」
カルディアは静かに言った。
「もう動いています」
ドクン。
世界の鼓動が、はっきりと響いた。
三百年前。
人類は進化を止めた。
今。
その封印が、再び揺れている。
物語はついに、
世界の最深部へと向かう。
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