第67話 封印層
アストレア地下観測層。
先ほどまで静まり返っていた水晶群が、再び淡く光を帯びていた。
拍動。
ドクン。
一定周期。
まるで巨大な心臓の鼓動のように。
ラグスが腕を組みながら呟く。
「……冗談みてぇだな」
「世界が脈打ってる、か」
アルトは何も言わない。
視界の端でUIが静かに更新されている。
【深層干渉域:検出】
【振動源:地下深層】
(深層……)
*
カルディアは観測台の前に立ち、古びた金属箱を机に置いた。
「これは三百年前の封印記録です」
アルカが驚く。
「実物?」
「複製ですが」
カルディアは箱を開く。
中には薄い金属板が何枚も収められていた。
古代文字。
アルカが息を呑む。
「……旧封印文字」
カルディアが頷く。
「古代文明が使っていた深層干渉記録媒体です」
ラグスが首をかしげる。
「つまり?」
カルディアは短く答える。
「世界水晶網の設計思想が書かれています」
沈黙。
*
アルトが問う。
「観測装置ではないと言ったな」
カルディアは金属板を一枚取り出す。
そこに描かれているのは巨大な構造図。
地表。
水晶塔。
その下に延びる無数の線。
地下深層。
アルカの声が震える。
「……こんな構造」
ミヒャエルが驚く。
「水晶網は地表だけじゃない」
カルディアは静かに言う。
「地表は補助層です」
指がさらに下をなぞる。
そこには巨大な円環構造。
「本体は地下」
ラグスが低く呟く。
「封印層……」
*
カルディアは説明を続ける。
「三百年前、深度暴走が世界規模で発生しました」
アルカが頷く。
「記録にあります」
「都市が浮き、空間が歪み、海が割れた」
沈黙。
カルディアは次の板を見せる。
そこには巨大な球体構造。
「これが」
一拍。
「世界核」
観測室が静まり返る。
*
ラグスが言う。
「つまり、今の鼓動は」
カルディアが頷く。
「世界核の振動」
アルトが静かに問う。
「水晶網は」
「振動を減衰させる装置」
カルディアは断言する。
「抑制装置です」
沈黙。
*
アルカが資料をめくる。
「待ってください」
「もしそれが本当なら」
「深度上昇は……」
カルディアが答える。
「世界核の振動に同期しています」
ラグスが頭を掻く。
「つまり」
「世界が強く脈打つほど」
ミヒャエルが言う。
「人の深度も上がる」
カルディアが頷く。
*
アルトは観測水晶に触れた。
その瞬間。
ドクン。
先ほどより強い振動。
視界の端のUIが赤く点滅する。
【深層振動 強度上昇】
(強くなっている)
アルトはゆっくり手を離す。
「封印はどこまで続く」
カルディアは少しだけ目を伏せる。
「分かりません」
「……?」
「古代記録は途中で消えています」
アルカが言う。
「どういう意味ですか」
カルディアは淡々と言う。
「封印設計者たちは」
一拍。
「途中で消えました」
観測室が凍る。
*
アルトが問う。
「暴走した?」
カルディアは首を振る。
「違います」
「?」
「同化しました」
沈黙。
「世界核と」
空気が重くなる。
ラグスが低く呟く。
「……人間が?」
カルディアは頷く。
「深度が上がりすぎると」
「世界と区別がつかなくなる」
*
ドクン。
鼓動が再び響く。
今度は観測室全体がわずかに震えた。
観測水晶が強く光る。
【深層干渉域 活性化】
ミヒャエルが叫ぶ。
「振動が増幅している!」
アルカが計測器を見る。
「周期が短くなってる!」
アルトは静かに言う。
「目覚め始めている」
カルディアが続ける。
「封印層が薄くなっています」
*
沈黙。
そして。
アルトが一言だけ言う。
「地下に行く」
ラグスが顔を上げる。
「何だって?」
「世界核を確認する」
アルカが慌てる。
「無理です」
カルディアが静かに言う。
「……行けます」
全員が彼女を見る。
「封印層への入口は一つ」
一拍。
「ここから真下」
観測室の床を指す。
ラグスが苦笑する。
「つまり」
「地面の下に、世界の心臓があるってわけか」
ドクン。
再び鼓動。
世界は静かに、しかし確実に動き始めていた。
物語はついに。
世界の深層へ踏み込む。
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