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スキルなしと追放された俺、辺境で目覚めたのは〈領域支配〉だった 〜帝都が気づいた時には、もう遅い〜  作者: 影山クロウ


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第66話 深度の底

世界会議から七日。


アストレアの地下観測層は、昼夜の区別なく稼働していた。


巨大な主観測水晶の周囲に、幾何学的に配置された副水晶。

それらが世界水晶網と同期し、深度分布を常時記録している。


アルカ=ノエルは、無言で波形を睨んでいた。


「……おかしい」


隣でミヒャエルが問う。


「上昇傾向ですか?」


「違います」


アルカは首を振る。


「上昇“だけ”ではない」


彼女は記録板に新しい波形を映し出す。


滑らかな上昇曲線の下に、微細な揺れ。

だがそれはノイズではない。


一定間隔で繰り返されている。


「周期波形……?」


アルトが呟く。


「ええ」


アルカは頷く。


「深度上昇はランダムではない」


一拍。


「拍動しています」



別室。


ハインリヒが報告を受ける。


「拍動、だと?」


「はい」


測定局員が答える。


「全水晶網で同一周期」


「発生源は」


「……特定不能」


沈黙。


ハインリヒの目が細まる。


「上からではないな」



地下観測層。


アルトは主観測水晶に手をかざす。


直接干渉はしない。

ただ、接続を感じる。


視界の端にUIが浮かぶ。


【領域支配】

世界水晶網:深層振動検出

位相:逆位相波


(逆位相……?)


アルトは目を閉じる。


その瞬間。


――ドクン。


鼓動のような音が、確かに聞こえた。


一瞬だけ。


水晶ではない。

世界そのものの。


アルトはゆっくり目を開く。


「……下だ」


アルカが即座に反応する。


「やはり」


「源は人ではない」


沈黙。



同時刻。


北方同盟、ヴァルメリア王国、聖教国家。

各地の観測水晶が微かに揺れる。


【深度振動 同期確認】


世界規模での拍動。


ラグスが呟く。


「世界が……脈打ってるみてぇだな」



アストレア地下。


アルカは古い設計図を広げる。


三百年前の水晶網原図。


そこには記載がある。


“深層干渉層”


ミヒャエルが眉をひそめる。


「地表網だけではない?」


「ええ」


アルカは指で下層をなぞる。


「水晶網は地下深層へ伸びている」


アルトが問う。


「どこまで」


「分かりません」


一拍。


「当時の記録は途中で途切れています」



再び、鼓動。


今度はわずかに強い。


ドクン。


観測水晶の光が乱れる。


【逆位相波 強度増加】


アルカが息を呑む。


「これは……」


ハインリヒが低く言う。


「世界水晶網が、何かを抑えている」


「あるいは」


アルトが静かに続ける。


「何かに抑えられている」


沈黙。



カルディア・エレノアが、地下室の入口に立っていた。


銀灰色の髪が薄暗い灯りに揺れる。


「あなたが“広げた”のですね」


静かな声。


アルトが振り向く。


「誰だ」


「カルディア・エレノア」


彼女は軽く頭を下げる。


「古代封印技術研究者です」


アルカが驚く。


「あなたが?」


カルディアは視線を水晶へ向ける。


「聞こえますか」


アルトは答えない。


だが分かっている。


「……鼓動か」


カルディアは頷く。


「三百年前にも記録があります」


一拍。


「世界核の振動」


空気が凍る。


ラグスが呟く。


「世界核?」


カルディアははっきりと言う。


「水晶網は、観測装置ではありません」


視線が集まる。


「安定化装置です」


沈黙。



ドクン。


鼓動が、わずかに強まる。


観測水晶の下層部分が、淡く赤く染まる。


【深層干渉域 活性兆候】


アルトは低く言う。


「封印が揺れている」


カルディアが静かに答える。


「いえ」


一拍。


「目覚め始めています」


地下観測層に、重い沈黙が落ちる。


世界は崩れていない。


だが――


脈打っている。


物語は、制度の問題を越えた。


今、問われるのは。


世界そのものの構造。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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