第64話 もう一つの未来
アストレア・世界会議議場。
イグナートの自律制御成功は、瞬く間に各国へ伝わった。
「個体が自律安定した……だと?」
商業連合代表が目を見開く。
聖教国家代表は慎重に言う。
「奇跡か、偶然か」
アルカが即座に否定する。
「偶然ではありません」
資料を示す。
「深度波形は収束型へ移行しています」
「外部抑制なしで」
ざわめき。
*
北方同盟代表が低く言う。
「では制度は不要になるのか」
アルトは首を振る。
「不要にはならない」
一拍。
「役割が変わる」
「どう変わる」
「制限から補助へ」
*
セレスティアが補足する。
「王国は制度を“証明装置”として使ってきた」
「今後は“観測装置”へ移行できる」
商業連合代表が唸る。
「信用の基準は?」
「固定値ではなく変動域で評価する」
アルカが続ける。
「深度は単一値ではなく、推移曲線で見る」
ざわめきが広がる。
*
ハインリヒが静かに言う。
「三百年前、我々は恐怖を抑えた」
一拍。
「だが進化を止めた可能性がある」
軍部代表が低く反論する。
「止めなければ滅んでいた」
「その通りだ」
ハインリヒは頷く。
「だが今は状況が違う」
*
議場に映像が投影される。
イグナートの深度波形。
不安定から、緩やかな収束へ。
アルカが説明する。
「自律制御は、抑制を経ずに深度を安定化させる」
北方同盟代表が問う。
「他にも可能か」
「可能性はある」
アルトが答える。
「だが訓練と環境が必要」
*
会議後。
アルトとセレスティアが回廊を歩く。
「彼は危険ではなくなった?」
「潜在的には危険だ」
アルトは正直に言う。
「だが、危険は管理できる」
「それが未来?」
「一つの未来だ」
セレスティアが立ち止まる。
「もう一つは?」
アルトは空を見る。
「抑制を外しすぎて崩壊する未来」
*
その瞬間。
観測盤に新たな警告。
【深度異常検出】
【発生源:聖教国家ルーメン】
アルカが息を呑む。
「同時多発的に増えています」
聖教国家代表が青ざめる。
「我が国は抑制を強化しているはずだ」
アルトは低く言う。
「締めすぎた」
「何だと」
「恐怖を絶対にした」
沈黙。
*
聖教国家の映像。
神殿上空に光の裂け目。
信徒たちが祈る。
中心に立つ少女が震えている。
「私は罪ですか」
深度過剰者。
抑制網が強すぎて、内部圧力が跳ね返っている。
*
セレスティアが言う。
「抑制型の限界ね」
アルトは頷く。
「自律制御を教える」
「宗教国家に?」
「恐怖の解釈を変えなければ、何も変わらない」
*
議場。
聖教代表が苦悩する。
「我々は神意に従う」
アルトは静かに言う。
「神は恐怖を絶対にしたか」
沈黙。
「深度は罪ではない」
少女の映像が揺れる。
*
アルトは宣言する。
「制度は主役ではない」
「人が主役だ」
ハインリヒがゆっくり頷く。
「抑制から補助へ」
北方同盟代表が言う。
「進化を認めるか」
商業連合代表が苦笑する。
「経済も進化だ」
*
夜。
アルトは塔の上に立つ。
視界の端でUIが更新される。
【領域支配】
自律制御成功例:増加
抑制依存度:低下
(時代が変わる)
背後からアルカが言う。
「あなたは三百年前なら危険人物でした」
「今は?」
「転換点です」
風が吹く。
世界は抑制の時代から、
調整と進化の時代へ移ろうとしている。
だが――
全てが順調なわけではない。
進化は必ず、別の歪みを生む。
物語は次に、
“進化の副作用”へと踏み込む。
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