第59話 外交圧力
帝都・中央議事堂。
世界会議開催の通達が出された翌日から、
帝都の空気は明らかに変わった。
広間には各国の使節団が到着している。
ヴァルメリア王国。
商業連合都市群。
聖教国家ルーメン。
北方遊牧同盟。
測定制度は、もはや帝国の内政問題ではなかった。
*
軍部代表が低く言う。
「帝国が世界を揺らしたと見なされている」
測定局長も険しい。
「“基準改竄”との表現まで出ています」
ハインリヒは落ち着いている。
「事実は?」
「閾値更新は三領起点」
「だが世界水晶網に同期」
「つまり」
「制度は世界標準」
沈黙。
「帝国が握っているのは製造権だ」
ハインリヒは静かに言う。
「所有権ではない」
*
同時刻、三領。
セレスティアが最新報告を読む。
「商業連合都市で、契約停止が相次いでいる」
「測定値再評価で信用格付けが揺らいだ」
ミヒャエルが補足する。
「交易基準が数値依存だったため、連鎖的に契約が凍結」
ラグスが唸る。
「数値経済か」
「信用の可視化は便利よ」
セレスティアが言う。
「でも絶対視すれば脆い」
*
アルトは静かに言う。
「制度が万能であるかのように扱った」
「違う?」
「制度は枠だ」
「中身は人間だ」
セレスティアの瞳がわずかに柔らぐ。
「理想主義ね」
「現実主義だ」
*
帝都では抗議が強まっていた。
「王位継承の再審議を求める」
「帝国の制度に依存しすぎた」
ヴァルメリア王国使節が声を上げる。
「世界標準を帝国単独で決めることは認められない」
商業連合代表も続く。
「交易基準の再協議を要求する」
聖教国家代表が言う。
「制度は神意の代替ではない」
会議室が騒然とする。
*
ハインリヒは立ち上がる。
「帝国は制度を独占しない」
静寂が広がる。
「世界会議にて共同管理体制を協議する」
ざわめき。
軍部代表が低く言う。
「譲歩しすぎです」
「譲歩ではない」
ハインリヒは静かに言う。
「現実だ」
*
三領。
アルトのもとへ正式招待状が届く。
――世界会議への出席要請。
ラグスが笑う。
「世界の代表か」
「代表ではない」
アルトは否定する。
「当事者だ」
セレスティアが頷く。
「あなたがいなければ議論は空論になる」
*
その夜。
アルトは測定塔の最上階に立つ。
視界の端で、UIが淡く光る。
【領域支配】
世界水晶網:接続強度増加
干渉可能域:拡張
(広がりすぎている)
単独制御は危険。
共同管理が必要。
だが――
共同管理は、権力闘争を生む。
*
北方遊牧同盟の代表が帝都で発言する。
「帝国の水晶を使わない選択肢もある」
空気が凍る。
測定局長が息を呑む。
「代替技術は存在しないはず」
「ならば、作る」
世界は分裂の兆しを見せ始める。
制度の共有か。
制度の分裂か。
*
三領。
リアがアルトに言う。
「もし世界が割れたら?」
「割れさせない」
「どうやって?」
アルトは少し考える。
「基準を奪い合わない」
リアは首を傾げる。
「奪い合い?」
「制度を支配しようとすれば、戦争になる」
*
帝都。
ハインリヒが一人、古い設計図を見ている。
「独占から共有へ」
小さく呟く。
「共有から、対立へはさせない」
*
港に、再び船が集まる。
世界会議へ向かうためだ。
セレスティアが言う。
「これは外交よ」
アルトは答える。
「境界だ」
「何の?」
「国家と制度の」
風が吹く。
測定塔が静かに光る。
世界は今、帝国に圧力をかけている。
だがそれは敵意ではない。
不安だ。
恐怖だ。
そして――
再定義への圧力。
物語は、国家の枠を越え、
世界秩序の再構築へと進む。
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