第58話 世界標準
北西州の暴走事件は、三日で鎮静した。
だが、その余波は静まらなかった。
帝都測定局・緊急通信室。
【ヴァルメリア王国:重力異常確認】
【商業連合都市:水晶同期揺らぎ】
【聖教国家:深度異常兆候】
「……三国同時か」
測定局長が顔を引きつらせる。
ハインリヒは、観測盤を見つめたまま言う。
「局所ではない」
一拍。
「世界水晶網全体の揺らぎだ」
*
三領・会議室。
セレスティア、アルト、エルデン、ミヒャエルが集まっていた。
机の上には各国から届いた報告書。
「王国でも類似現象が発生したわ」
セレスティアが言う。
「規模は小さいけれど」
「原因は同じだ」
エルデンが静かに補足する。
「閾値更新による深度再分布」
ミヒャエルが整理する。
「つまり、今まで抑制されていた層が可視化された」
ラグスが腕を組む。
「抑えてた蓋が少し浮いたってことか」
*
セレスティアがアルトを見る。
「あなたは分かっていた?」
「可能性は」
「それでもやった」
「締め続ける方が危険だった」
沈黙。
*
帝都。
緊急閣議が開かれていた。
軍部代表が声を荒げる。
「世界が不安定化している!」
「責任は帝国にあると見なされる!」
測定局長も険しい。
「各国が共同管理を要求する可能性があります」
ハインリヒは静かに言った。
「拒否すれば?」
「帝国独裁の疑念が強まります」
「受け入れれば?」
「制度の主導権を失います」
沈黙。
ハインリヒは、ゆっくりと決断する。
「世界会議を開く」
ざわめき。
「制度の位置づけを再定義する」
*
三領。
その報が届く。
「帝都が国際会議を提案」
ミヒャエルが読み上げる。
「開催地は中立都市アストレア」
セレスティアが小さく笑う。
「ようやく、背骨が自覚したわね」
ラグスが問う。
「背骨?」
「世界標準よ」
セレスティアは真顔になる。
「測定制度は帝国のものじゃない」
「世界の共通規格」
*
エルデンが、古い設計図を広げる。
そこには小さな印がある。
「見てほしい」
アルトが覗き込む。
「“外部同期機構”?」
「当初から、国際接続を前提にしていた」
ミヒャエルが息を呑む。
「最初から世界規模だった」
エルデンは頷く。
「帝国は製造者だったが、所有者ではない」
*
アルトは静かに言う。
「制度は、共有資産だ」
セレスティアが即座に返す。
「ならば、管理も共有すべき」
「賛成だ」
ラグスが驚く。
「即答か」
「独占は、恐怖を生む」
アルトは淡々と続ける。
「恐怖は制度を歪める」
*
その時、再び急報。
「商業連合都市で水晶暴走」
「魔力逆流現象」
セレスティアが顔を強張らせる。
「連鎖している」
エルデンが低く言う。
「深度再分布が安定していない」
アルトは視界の端のUIを見る。
【領域支配】
世界水晶網:同期不安定
安定化には共同干渉が必要
(単独では無理か)
*
夜。
アルトは港に立つ。
セレスティアが隣に来る。
「あなた一人で制御できる?」
「できない」
彼は即答する。
「では?」
「共有する」
「誰と?」
アルトは海を見つめる。
「世界と」
セレスティアは小さく息を吐く。
「理想家ね」
「現実だ」
*
帝都。
ハインリヒが呟く。
「独占から共有へ」
測定局長が不安げに問う。
「帝国の威信は」
「威信より安定だ」
一拍。
「世界が崩れれば、威信も意味を持たない」
*
三領。
リアが夜空を見上げる。
「なんか、星が揺れてる」
ラグスが笑う。
「気のせいだ」
だが、アルトは感じていた。
世界接続の波。
深度の揺れ。
視界の端で、UIが再び点灯する。
【領域支配】
世界会議:必須イベント
管理形態:再定義段階
境界は、国境を越えた。
制度は、帝国の手を離れつつある。
物語は――
世界標準の再定義へと進む。
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