第56話 波及する秩序
帝都の空は、妙に澄んでいた。
嵐の前ほど、空は静かになる。
中央測定局の観測盤に、新たな波形が映し出される。
【外部水晶網 同期揺らぎ検出】
【発生源:ヴァルメリア王国】
測定局長が顔を上げる。
「……国外です」
ハインリヒは即座に反応した。
「詳細を」
「王国騎士団内で“成長途上判定”が七件」
「王位継承候補の第一王子も再分類対象に」
室内が凍る。
「王位継承者が?」
「はい。旧基準S、現基準“再評価中”」
ハインリヒは、ゆっくりと息を吐いた。
「来たな」
*
ヴァルメリア王国・王都。
巨大な測定水晶が、激しく明滅している。
王国騎士団長が怒鳴る。
「帝国は何をした!」
王女セレスティアは、静かに観測盤を見つめていた。
旧基準値と新基準値が並ぶ。
歪みは小さい。
だが、確実だ。
「……更新された」
彼女は呟く。
「帝国は制度を拡張した」
騎士団長が苛立つ。
「勝手に世界標準を変えたということか!」
セレスティアは首を振る。
「違う」
「?」
「変えられた」
沈黙。
「帝国が単独で変えられるはずがない」
彼女の瞳が鋭くなる。
「三領の男」
*
三領。
リアが塔の下で空を見上げる。
風が揺れる。
「……なんか、ざわざわする」
ラグスが眉をひそめる。
「気のせいだ」
だが、測定塔の水晶は微かに震えていた。
【外部同期揺らぎ検出】
アルトはそれを見る。
(広がったか)
*
帝都中央府。
ヴァルメリア王国から正式抗議文が届く。
――制度基準改変について説明を求める。
軍部代表が苛立つ。
「やはり外交問題だ」
測定局長も険しい顔だ。
「世界水晶網は帝国製です」
「改変責任は我々にあると見なされます」
ハインリヒは冷静だった。
「事実は?」
「閾値更新は三領起点」
「だが全水晶に同期」
「つまり」
「制度は世界共通規格」
沈黙。
*
会議後。
ハインリヒは独り言のように言う。
「我々は帝国制度だと思っていた」
一拍。
「違った」
窓の外を見つめる。
「世界制度だった」
*
ヴァルメリア王国。
セレスティアは決断する。
「準備を」
侍女が問う。
「どちらへ?」
「三領」
騎士団長が反対する。
「危険です」
「危険なのは無知よ」
彼女は言い切る。
「更新の中心に会いに行く」
*
三領。
アルトのもとへ、急報が届く。
「ヴァルメリア王国の外交船が接近」
ミヒャエルが報告する。
「王女セレスティア・ヴァルメリア、自ら来訪」
ラグスが苦笑する。
「世界が動き出したな」
アルトは静かに空を見る。
(来るべきものが来た)
視界の端で、UIが更新される。
【領域支配】
国際接触:開始
影響範囲:帝国圏外へ拡大
*
数日後。
三領の港に、白銀の船が入港する。
紋章はヴァルメリア王国。
甲板に立つ少女は、迷いなくアルトを見る。
降り立つ。
視線が交わる。
第一声は、挨拶ではなかった。
「あなたが、世界標準を揺らした人?」
アルトは淡々と答える。
「揺らしたのではない」
一拍。
「広げただけだ」
セレスティアの瞳が細まる。
「その“だけ”で、国家は崩れる」
風が吹く。
測定塔が微かに共鳴する。
世界は、三領を中心に動き始めていた。
帝国の制度は、もはや帝国のものではない。
アルトは理解していた。
境界は、国境を越えた。
物語は――
世界規模へと踏み出した。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




