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スキルなしと追放された俺、辺境で目覚めたのは〈領域支配〉だった 〜帝都が気づいた時には、もう遅い〜  作者: 影山クロウ


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第54話 秩序の臨界

増加は、噂ではなく数値になった。


帝都測定局・統計室。


壁面に並ぶ観測盤の一部が、淡く赤く染まっている。


【成長途上判定:12件】

【再分類対象:9件】

【閾値上振れ:4件】


「……二桁か」


測定局長が、乾いた声で言う。


「三領の件から、二週間で十二件です」


ハインリヒは沈黙したまま、数値を見ていた。


「分布は?」


「南方州三、東部州二、北辺四、帝都内三」


「帝都内もか」


「はい」


室内の空気が重くなる。


「これは連鎖です」


局長が言う。


「閾値を上げたことで、潜在層が表面化している」


ハインリヒは、ゆっくりと頷いた。


「雪崩ではない」


「では?」


「圧力解放だ」



一方、帝都街区。


再測定で“成長途上”と表示された若い兵士が、酒場で怒鳴っていた。


「今までS判定だったんだぞ!」

「なんで“再評価中”になる!」


周囲がざわつく。


「落ちたのか?」

「昇進は?」


兵士は拳を握る。


「分からない、だとよ!」


恐怖は、広がる。



三領。


リアは、再測定を受ける他州からの訪問者たちと話していた。


「表示が変わったの?」

「怖くない?」


リアは小さく笑う。


「怖いよ」


「じゃあどうするの」


「……考える」


その答えは、単純だった。



測定塔。


エルデンが、水晶の内部波形を観察している。


「深度分布が、滑らかになっている」


ミヒャエルが問う。


「良いことですか?」


「良くも悪くもない」


エルデンは答える。


「固定値が崩れ、連続値に戻りつつある」


「戦乱の前の状態に?」


「違う」


エルデンは首を振る。


「今は、測る技術がある」


一拍。


「だからこそ、扱いを誤れば大規模な混乱になる」



帝都強化部隊本部。


ダルクは、報告書を叩きつけた。


「増えている」


副官が答える。


「はい」


「三領だけではない」


「閾値更新が影響していると」


ダルクは黙る。


やがて、低く言う。


「臨界だ」


「……臨界?」


「秩序が耐えられる変動幅には限界がある」


副官が息を呑む。


「越えれば?」


「暴発する」



帝都中央府。


緊急会議が招集された。


軍部、測定局、行政局、貴族評議会。


「強制隔離を再開すべきです」


軍部代表が言う。


「成長途上判定者を一時拘束」


「混乱を防ぐためにも」


測定局長が賛同する。


「制度の安定が優先です」


沈黙。


ハインリヒが、ゆっくりと立ち上がる。


「強制隔離は、恐怖を増幅させる」


軍部代表が睨む。


「では放置か」


「違う」


ハインリヒは静かに言う。


「説明する」


「説明?」


「制度は壊れていない」

「拡張されただけだと」


ざわめき。


「民衆が理解すると?」


「理解させる」


ハインリヒの声は低いが、揺れない。


「秩序は、剣ではなく枠だ」


一拍。


「剣を抜けば、枠は檻になる」



三領。


アルトは帝都からの第二通達を受け取る。


――特別審査委員会設置。

――アルト・レインハルトの理論説明を求める。


ラグスが苦笑する。


「呼び出しか」


「違う」


ミヒャエルが文面を読む。


「対話です」


アルトは小さく頷く。


「ハインリヒが選んだ」


エルデンが微笑む。


「彼は、剣を抜かなかった」



夜。


リアがアルトに問う。


「帝都に行くの?」


「行く」


「怖くない?」


アルトは少しだけ笑う。


「怖い」


リアは驚く。


「え?」


「恐怖は、悪ではない」


一拍。


「恐怖を絶対にすることが悪だ」



視界の端で、UIが淡く光る。


【領域支配】

帝都との対話:開始予測

社会的緊張:高水準


ラグスが呟く。


「戦いじゃねぇな」


「戦いではない」


アルトは答える。


「臨界だ」


制度は、揺れている。


だが、まだ崩れていない。


剣は抜かれなかった。


代わりに――


言葉が、選ばれた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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