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スキルなしと追放された俺、辺境で目覚めたのは〈領域支配〉だった 〜帝都が気づいた時には、もう遅い〜  作者: 影山クロウ


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第52話 測れない余白

帝都中央府。


測定局の最上階、制御室。


壁一面の観測水晶が、一斉に波打っていた。


「閾値が……変化しました」


局員の声が震える。


「外部からの干渉です」

「三領、アルト・レインハルトによるものと推定」


ハインリヒは、静かに表示を見つめていた。


【閾値補正:+0.3】

【成長途上判定域:新設】


「……やったか」


低く、呟く。


測定不能だった少女の深度が、

“未定義”から“成長途上”へ再分類されている。


制度は壊れていない。


だが、拡張された。


「排除しますか?」


測定局長が問う。


ハインリヒは、ゆっくりと首を振った。


「まだだ」


一拍。


「制度は、更新を拒否しない」


局長が顔をしかめる。


「しかし、前例が――」


「前例は、恐怖を減らす」


ハインリヒの声は揺れない。


「今回の更新は、恐怖を減らしたか?」


沈黙。


「少女は暴走したか?」

「都市は崩壊したか?」


「……いいえ」


「ならば、拡張は失敗ではない」



三領。


リアは測定塔の下で、空を見上げていた。


「……私は、特別じゃない?」


アルトは横に立つ。


「特別だ」


「え」


「だが、危険ではない」


リアは、少しだけ笑う。


「難しい」


「難しいから、測る」


アルトは言う。


「だが、測れない部分もある」


リアは、胸に手を当てる。


「ここ?」


「そこだ」



エルデンが、塔の壁にもたれている。


「深度は変動する」


彼は静かに言う。


「若い者は特にだ」


ミヒャエルが問う。


「では、これまでの測定は?」


「固定化しすぎた」


エルデンは苦く笑う。


「本来、測定は“傾向”を見るものだった」

「だが、いつしか“運命”になった」


ラグスが鼻を鳴らす。


「数値に人生を預けたってことか」


「人は安心したがる」


エルデンは答える。


「確定している方が楽だ」



リアが、ぽつりと言う。


「でも、分からないのは怖いよ」


沈黙。


アルトは答える。


「怖い」


「じゃあ、なんで広げたの」


「怖いからだ」


リアが首を傾げる。


「怖いものを、閉じ込めれば」

「いつか、もっと怖くなる」



その頃、帝都では報告が続いていた。


「他地域でも、深度不安定例が増加しています」


「閾値更新が影響している可能性」


測定局長が苛立つ。


「雪崩が起きるぞ」


ハインリヒは、静かに机を叩いた。


「雪崩は、既にあった」


一拍。


「我々が見ていなかっただけだ」



夜。


アルトは一人、塔の最上階に立つ。


視界の端で、UIが淡く表示される。


【領域支配】

測定制度:更新済み

影響範囲:拡大中

安定度:不確定


(拡張は、連鎖する)


制度は生き物のようだ。

一部を動かせば、全体が揺れる。


「……これが成熟か」


背後からエルデンの声。


「成熟とは、揺れに耐えることだ」


アルトは振り返らない。


「壊れるかもしれない」


「壊れるなら、未熟だったということだ」



リアが階段を上ってくる。


「アルト」


「何だ」


「もし、また測れなくなったら?」


アルトは少し考える。


「その時は、また考える」


リアは笑う。


「それでいいの?」


「いい」


一拍。


「分からないまま、立つこともある」



帝都。


ハインリヒは窓の外を見る。


遠く、三領の方向。


「壊す者ではなかった」


小さく呟く。


「更新者か」


測定制度は、まだ存在している。


だが、もはや絶対ではない。


ハインリヒは決断する。


「特別審査は継続」

「だが、排除命令は保留」


局長が息を呑む。


「よろしいのですか」


「秩序は、恐怖を減らすためにある」


一拍。


「恐怖を増やしては本末転倒だ」



三領の夜は静かだ。


リアは塔を降りていく。


ラグスが呟く。


「とりあえず、助かったな」


アルトは首を振る。


「助かったのではない」


「?」


「始まった」


視界の端で、UIが再び点灯する。


【領域支配】

測定不能者:増加傾向

社会的緊張:上昇


測れない者たちは、これから増える。


恐怖も、疑問も。


だが――


余白は、広がった。


檻はまだある。


だが、その内側に、

新しい呼吸が生まれ始めていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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