第47話 再測定令
三領の測定塔は、静まり返っていた。
塔の最上階、円形の測定室。
中央には帝都製の測定水晶。
淡く、しかし不安定に光っている。
帝都からの通達は、すでに全文が公開されていた。
――全国再測定令。
――既測定者も対象。
――測定不能者は特別審査。
――拒否は制度外扱い。
「制度外、ね」
ラグスが吐き捨てる。
「帝都の外に出すってことか」
「正確には」
ミヒャエルが訂正する。
「制度の保護を受けられなくなる、です」
「同じだろ」
「違います」
ミヒャエルは静かに言う。
「制度の保護とは、軍事・流通・法的保証を含みます」
「それを外れるということは――」
「孤立」
ラグスが言い当てる。
*
アルトは、通達書を読み終えた。
帝都の文面は冷静だった。
感情も、敵意もない。
ただ、秩序の言葉だけが並んでいる。
「全員再測定か」
アルトは呟く。
「三領も例外なしです」
ミヒャエルが頷く。
「住民から問い合わせが来ています」
「測定で数値が下がったらどうなるのか」
「適性が変わったら職を失うのか」
ラグスが拳を握る。
「ふざけやがって」
「ふざけていない」
アルトは淡々と返す。
「帝都は本気だ」
*
三領の広場では、すでに議論が起きていた。
「また測るのか?」
「今さら何を変えるってんだ」
「数値が下がったら、昇進はどうなる?」
「適性外って出たら?」
不安は早い。
測定制度は“基準”だ。
基準が揺れれば、立場も揺れる。
*
測定塔の下で、ミヒャエルが言う。
「拒否しますか?」
ラグスは即答する。
「当然だ」
だが、アルトは首を振らない。
「拒否すれば?」
ミヒャエルが続ける。
「帝都は制度外扱いを宣言します」
「物流も軍籍も、法的保護も外れる」
「……三領は孤立する」
ラグスが低く唸る。
「受ければ?」
アルトが問い返す。
「受ければ」
ミヒャエルは少し迷う。
「数値の再定義が行われます」
「評価基準が強化される可能性も」
「……そして」
「そして?」
「あなたが、再び“測定不能”と出た場合」
沈黙。
塔の水晶が、かすかに脈打つ。
*
アルトは水晶に近づく。
かつて、学園時代。
この水晶は、何も示さなかった。
数値も、属性も、適性も。
――表示不能。
それが追放の理由になった。
「再測定、か」
アルトは水晶に手をかざす。
触れない。
触れれば、波形が乱れることは分かっている。
視界の端で、UIが淡く浮かぶ。
【領域支配】
外部干渉を検知
測定制度:再定義フェーズ
(成熟)
ハインリヒの言葉が脳裏をよぎる。
制度は成熟しなければならない。
「拒否は、簡単だ」
アルトは静かに言う。
「だが、拒否すれば帝都の恐怖を肯定することになる」
ラグスが睨む。
「じゃあ受けるのか?」
アルトは答えない。
*
その夜、臨時会議が開かれた。
三領の行政担当、部隊長、商人代表、住民代表。
「帝都に従うのか?」
「数値が変われば、補助金も変わる」
「子どもたちは?」
議論は割れた。
「拒否すれば孤立」
「従えば支配」
どちらも痛い。
アルトは、全員の意見を聞いていた。
最後に、問う。
「測定とは何だ?」
場が静まる。
「能力の確認だろ?」
「適性の判断だ」
「職業選定の基準だ」
アルトは頷く。
「それは事実だ」
一拍。
「だが、測定は“安心”でもある」
視線が集まる。
「数値がある」
「適性がある」
「だから、自分はここにいると説明できる」
沈黙。
「再測定は、安心を揺らす」
ミヒャエルが小さく頷く。
「だから不安が広がる」
ラグスが問う。
「結論は?」
アルトは、ゆっくりと答えた。
「受ける」
ざわめき。
「ただし」
声が止まる。
「公開する」
「公開?」
「再測定の過程を、すべて公開する」
「数値の算出方法も」
「基準も」
ミヒャエルが目を見開く。
「帝都は認めません」
「認めさせる」
アルトは淡々と言う。
「測定が秩序のためなら」
「秩序は透明でなければならない」
*
翌朝。
帝都へ返信が送られた。
――再測定、受諾。
――ただし、過程の公開を条件とする。
帝都中央府。
報告を受けた測定局長が眉をひそめる。
「公開?」
ハインリヒは、書面を読んだ。
そして、わずかに笑う。
「やはり、そう来たか」
「拒否すべきです」
測定局長が言う。
「公開は制度の根幹を揺らします」
「既に揺らいでいる」
ハインリヒは静かに言う。
「拒否すれば、彼の言う通り“恐怖”を肯定することになる」
一拍。
「受ける」
局長が息を呑む。
「公開の上で、再測定を行う」
*
三領の測定塔。
帝都の監察官が到着した。
測定水晶が、強く光る。
再測定の日が、決まる。
ラグスがアルトを見る。
「後悔してるか?」
アルトは首を振る。
「制度は、壊さない」
一拍。
「だが、絶対にもさせない」
視界の端で、UIが静かに点灯する。
【領域支配】
測定制度:接続開始
測る者と、測られる者。
秩序と、例外。
本当の衝突が、始まろうとしていた。
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