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スキルなしと追放された俺、辺境で目覚めたのは〈領域支配〉だった 〜帝都が気づいた時には、もう遅い〜  作者: 影山クロウ


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第46話 秩序の再定義

帝都中央府・測定局。


重厚な扉の内側は、異様な静けさに包まれていた。


壁一面に並ぶ測定水晶。

淡く光り、脈打つように揺れている。


その前に立つのは、ハインリヒ・フォーゲル。


彼の手には、報告書があった。


「……三件目か」


低い声。


報告官が緊張した面持ちで答える。


「はい。南方州で一名、西部州で一名、そして……北辺で一名」


「いずれも?」


「測定不能です」


部屋の空気が、わずかに冷える。



測定不能。


それは能力が低いことを意味しない。

むしろ逆だ。


測定水晶が反応しない。


数値化できない。

属性が表示されない。

適性が分類できない。


つまり――


「管理不能」


若い官僚が、思わず口にした。


ハインリヒは否定しない。


「正確には、分類不能だ」


一拍。


「分類できないものは、秩序に含められない」


それが帝都の論理だった。



会議室に、各局の代表が集められていた。


軍部。

行政局。

測定局。

貴族評議会。


「再測定を提案します」


測定局長が口を開く。


「全国規模での再測定を」

「基準値の再設定を」


「過剰だ」


軍部の代表が眉をひそめる。


「三件だぞ?」


「三件“も”だ」


測定局長は即座に返す。


「これまで百年、測定不能はゼロだった」


沈黙。


ハインリヒがゆっくりと立ち上がる。


「問題は件数ではない」


全員の視線が集まる。


「問題は、制度の前提が揺らいでいることだ」



帝都は、測定制度によって安定してきた。


能力は数値化され、

役割は割り振られ、

適性に応じて配置される。


不満はあっても、

“基準”はあった。


だが――


「基準に入らない者が増えれば?」


ハインリヒが問いかける。


若い官僚が答える。


「格差が暴走します」


「違う」


ハインリヒは首を振る。


「恐怖が暴走する」


室内が静まる。


「人は、理解できないものを恐れる」

「測れない存在は、誤解を生む」

「誤解は、対立を生む」


一拍。


「我々は、戦乱の時代を忘れたか?」


誰も、答えない。



壁際の水晶が、淡く光を強めた。


報告が追加される。


【北辺 三領周辺:異常波形検出】


測定局長が顔を上げる。


「……三領」


軍部代表が舌打ちする。


「またあの男か」


ハインリヒは、目を細めた。


アルト・レインハルト。


測定不能でありながら、

領地を安定させ、

帝都直轄地を揺らし、

今や自由都市まで動かした存在。


「彼は、例外ではない」


ハインリヒは静かに言う。


「例外が存在する制度は、未完成だ」


若い官僚が恐る恐る問う。


「……排除、ですか?」


ハインリヒは、即座に否定した。


「排除ではない」


一拍。


「再定義だ」



会議の結論は、迅速だった。


――全国再測定令。


・全領地に通達。

・既測定者も再測定。

・測定不能者は特別審査対象。


そして――


「アルト・レインハルトには、正式出頭命令を」


測定局長が確認する。


ハインリヒは頷いた。


「拒否すれば?」


軍部代表が問う。


「拒否すれば、制度の外に出る」


それは事実の宣告だった。



会議が終わり、室内にハインリヒだけが残る。


水晶に手を置く。


淡い光が、指先を包む。


「……君は、何を見ている」


独り言。


アルトを思う。


彼は破壊者か?

それとも、進化の兆しか。


ハインリヒは、ゆっくりと目を閉じる。


「秩序は、恐怖を減らすためにある」


それは彼の信念だ。


だが、もし。


測定制度が、

恐怖そのものを生んでいるとしたら。


一瞬だけ、迷いがよぎる。


だが、次の瞬間には消える。


「再定義する」


低い声。


「制度は、成熟しなければならない」



帝都から、通達が発せられた。


三領へ。

各州へ。

全測定局へ。


再測定令。


視界の端で、三領の測定水晶が微かに震える。


【帝都通達を検知】


アルトは、報告書を受け取った。


封蝋には、帝都の紋章。


ラグスが低く唸る。


「来たな」


ミヒャエルが静かに言う。


「全国再測定令です」


アルトは、封を切らないまま窓の外を見る。


森の境界。

自由都市の方向。

そして、帝都の方角。


(再定義か)


口元が、わずかに動く。


「ようやく、本気だな」


帝都は、動いた。


破壊のためではない。

秩序を守るために。


だからこそ――


本当の対立が、始まる。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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