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スキルなしと追放された俺、辺境で目覚めたのは〈領域支配〉だった 〜帝都が気づいた時には、もう遅い〜  作者: 影山クロウ


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第45話 引かれるべき境界

撤退は、敗走ではなかった。


だが、勝利でもない。


森の外縁に築かれかけた防壁は、そのまま残された。

半端に切り開かれた木々。

地面に残る杭の跡。


人の意思が触れた痕跡だけが、そこにある。


「撤去しないのか?」


ラグスが問う。


アルトは首を振った。


「消さない」


「戒めか」


「記録だ」


森を完全に元に戻すことはできない。

だが、ここに線を引いたという事実は残す。



ギルド都市代表会。


カルディアは壇上に立っていた。


「拡張計画は凍結する」


ざわめきが起こる。


「損失は、都市基金から補填する」

「責任は、代表会が負う」


一瞬、会場が静まる。


それは、自由都市にとって重い言葉だった。


「責任を取らない都市じゃなかったのか!」


誰かが叫ぶ。


カルディアは正面から受け止める。


「契約に基づく責任は取らない」

「だが、選択に対する責任は取る」


視線が揺れる。


「我々は森に踏み込んだ」

「それは都市の判断だ」

「ならば、都市が負う」


自由は、軽さではない。


それを、都市は初めて体感していた。



高台から、その様子をアルトは見ていた。


ミヒャエルが低く言う。


「基金が削られれば、物流優遇も再検討されます」


「当然だ」


アルトは淡々と答える。


「自由は、均衡を取り戻そうとする」


ラグスが呟く。


「痛みでな」


「痛みでだ」



ノインが森の縁で待っていた。


「撤退は正解だ」


彼は短く言う。


「正解ではない」


アルトは否定する。


「正解はない」

「境界を知っただけだ」


ノインは頷く。


「人は、何度も触れて、ようやく線を覚える」


「触れずに覚えられればよかった」


「無理だ」


ノインは森を見た。


「森は説明しない」



視界の端で、UIがゆっくりと更新される。


【領域支配】

新概念を確認


《不可侵境界》

・管理が均衡を破壊する領域

・最適化対象外

・観測のみ許可


アルトは表示を見つめる。


宗教自治領では《神の管轄》。

ここでは《不可侵境界》。


(増えていく)


管理できない領域が。


だが、それは敗北ではない。


世界の輪郭だ。



出立の日。


カルディアが門で待っていた。


「基金は削られた」

「商人から文句も来てる」


「当然だ」


「でもね」


カルディアは、真っ直ぐに言う。


「都市は残る」


一拍。


「あなたがいなくても」


アルトは頷く。


「それでいい」


「あなた、支配しないわね」


「必要がない」


カルディアは小さく笑う。


「本当に嫌な男」


「褒め言葉か」


「半分ね」


彼女は続ける。


「自由は、責任を取らない権利だと思っていた」

「でも違った」


アルトは黙って聞く。


「自由は――」

「どこまで責任を引き受けるかを選ぶこと」


アルトは、短く答える。


「そうだ」


カルディアは目を細めた。


「また来なさい」

「今度は、踏み込まなくていい場所に」


「約束はしない」


「それも自由ね」



都市を離れる。


森の線を越える。


視界の端で、UIが最終確認を表示する。


【領域支配】

外部領域評価:完了

非干渉領域:2

不可侵境界:1

管理限界:拡張


ラグスが呟く。


「増えたな」


「ああ」


アルトは答える。


「管理できない場所が」


ミヒャエルが静かに言う。


「それでも、広がっています」


アルトは頷く。


「管理できない場所を知ることで、管理できる場所が明確になる」


一拍。


「それが、次だ」


遠く、帝都の方角に視線を向ける。


制度は、まだそこにある。

測定制度も、帝都も、古い秩序も。


森も、宗教も、自由も、

それぞれの形で残った。


アルトは、境界線の位置を頭に刻む。


「制度は、人を救うためにある」


風が吹く。


「だが――」


目を閉じる。


「人を幸せにするとは、限らない」


その言葉は、独白だった。


そして、新しい戦いの始まりでもあった。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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