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スキルなしと追放された俺、辺境で目覚めたのは〈領域支配〉だった 〜帝都が気づいた時には、もう遅い〜  作者: 影山クロウ


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第44話 触れてはいけない線

ギルド都市の外縁は、思ったよりも近かった。


石畳が途切れ、

踏み固められた土が細く続き、

やがて、森が始まる。


「ここから先が、生態圏です」


案内役の冒険者が言う。


「普段は、深追いしない」

「狩りも、一定範囲まで」


アルトは森を見た。


静かだ。

だが、都市の静けさとは違う。


――均衡の静けさ。


視界の端で、UIが淡く点灯する。


【領域支配】

観測対象:魔獣生態圏

管理適合度:低

推奨:非干渉


(またか)


宗教自治領で見た表示と似ている。


だが、こちらは信仰ではない。

本能と循環の領域だ。



カルディアが同行していた。


「都市の拡張案が出ているの」


彼女は森を見ながら言う。


「物流が増えれば、倉庫も必要」

「人も増える」

「外縁を少し削るだけよ」


「少し、か」


ラグスが唸る。


「魔獣は?」


「管理できるでしょう?」


カルディアは、アルトを見る。


「あなたなら」


その視線に、悪意はない。

期待だ。


(管理できる)


アルトは森を観測する。

魔獣の分布。

移動パターン。

餌場。


UIが解析を始める。


【領域支配】

限定制御:可能

予測成功率:67%


(完全ではない)


「限定的なら、可能だ」


アルトは言った。


ミヒャエルが即座に反応する。


「ですが、成功率が……」


「三分の二だ」


ラグスが眉をひそめる。


「残りは?」


アルトは答えない。



拡張は、慎重に始まった。


森の外縁をわずかに削り、

防壁を設け、

魔獣の移動ルートを誘導する。


最初の数日は、問題なかった。


魔獣は予測通りに動き、

狩りも円滑になった。


カルディアは満足げだった。


「やっぱり、管理できるじゃない」


アルトは、無言だった。



異変は、小さかった。


最初は、森の奥の鳴き声が減った。


次に、外縁部で小型魔獣が増えた。


「縄張りがズレてる」


ノインが、初めて口を開いた。


今回の拡張に協力している、魔獣研究者だ。

無口で、森からほとんど出ない。


「ズレ?」


ラグスが問う。


ノインは地面に棒で線を引く。


「捕食者のルートが、変わった」

「餌が外側に流れている」


「予測では?」


ミヒャエルがアルトを見る。


アルトは、UIを再確認する。


【領域支配】

予測誤差:増大

要因:生態相互作用未解明


(……連鎖か)


「一時停止する」


アルトは即断した。


だが、その夜。


外縁部の倉庫が襲われた。


大型魔獣が、通常は現れない時間帯に出現。

防壁を破り、物資を荒らす。


死者は出なかった。

だが、怪我人は複数。



カルディアが、報告書を机に叩きつけた。


「これは何?」


怒りではない。

動揺だ。


「管理できるって言った」


アルトは静かに答える。


「限定的に、だ」


「限定じゃ足りないのよ!」


カルディアの声が上がる。


「都市は、拡張する」

「中途半端な管理じゃ意味がない!」


ノインが口を挟む。


「意味はある」


全員が彼を見る。


「森は、均衡していた」

「人が触れたことで、捕食と被食の比率が変わった」

「魔獣は、調整しようとしている」


「調整?」


ラグスが唸る。


「襲撃がか?」


ノインは頷く。


「人間も、餌の一部になる」


沈黙。



視界の端で、UIが赤く点滅する。


【領域支配】

警告:連鎖拡大

推奨:即時撤退


アルトは、歯を食いしばる。


(踏み込んだ)


宗教自治領では、踏み込まなかった。

ギルド都市では、透明化しただけだった。


だが、ここでは――

手を出した。


「拡張を停止する」


アルトは宣言する。


カルディアが睨む。


「損害は?」


「拡張を続ければ、増える」


「止めれば、投資が無駄になる」


「命よりは軽い」


カルディアは黙る。



森の外縁に立ち、アルトは一人でUIを見つめた。


【領域支配】

管理対象外領域を検出

名称:自然循環圏


新しい表示が浮かぶ。


《不可侵線》

・管理介入は均衡を崩します

・最適化は存在しません


(……遅い)


アルトは目を閉じる。


遅すぎたわけではない。

だが、早すぎたわけでもない。


――人は、試さなければ理解しない。


ノインが隣に立つ。


「分かったか」


アルトは小さく頷く。


「線がある」


「人の外側の線だ」


ノインは森を見る。


「森は、管理されない」

「ただ、続くだけだ」



翌日。


拡張計画は正式に凍結された。


カルディアは、代表会で説明する。


「我々は、線を誤った」


ざわめきが広がる。


「撤退する」

「都市は、森を削らない」


それは、後退だった。

だが、敗北ではない。



出立前。


カルディアがアルトに言う。


「今回は、あなたのせい?」


「違う」


アルトは答える。


「私の選択だ」


「後悔してる?」


一瞬の沈黙。


「……している」


カルディアは目を細める。


「珍しいわね」


「万能ではない」


アルトは淡々と言う。


「測れない領域がある」


カルディアは笑う。


「それでも、あなたは踏み込む?」


アルトは森を見る。


「次は、線を知った上で選ぶ」



都市を離れる。


視界の端で、UIが静かに更新される。


【領域支配】

不可侵線:記録

管理限界を確認


ラグスがぽつりと呟く。


「痛ぇな」


「ああ」


アルトは頷く。


「必要な痛みだ」


森は、何事もなかったように揺れている。


人が触れても、

触れなくても。


そこには、

管理の及ばない世界があった。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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