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スキルなしと追放された俺、辺境で目覚めたのは〈領域支配〉だった 〜帝都が気づいた時には、もう遅い〜  作者: 影山クロウ


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第43話 自由の代償

三日で、街の空気は変わった。


暴動は起きていない。

血も流れていない。


だが――

笑い声が減った。


市場の声は、以前より大きい。

しかしそれは、活気ではなく、互いを疑う声だった。


「お前の契約、どうなってる?」

「その手数料、本当に妥当か?」

「代表会と裏で繋がってるんじゃないか?」


自由都市は、自由であるがゆえに、

疑いもまた自由だった。



代表会議室。


カルディアは、疲れを隠さず椅子に座っていた。


「商人ギルドが分裂したわ」


報告が届く。


「冒険者側もです」

「護衛契約の見直しを要求しています」


「当然ね」


カルディアは淡々と返す。


「見えたものに、目をつぶれとは言えない」


だが、その声はわずかに重い。



アルトは、都市の外縁でその報告を受けていた。


「内部対立、拡大中です」


ミヒャエルが言う。


「代表会への不信が広がっています」


「カルディアは?」


「折れていません」


ラグスが鼻を鳴らす。


「大した女だな」


アルトは短く言った。


「当然だ」



その夜、カルディアが訪れた。


応接室ではない。

都市の高台、灯りを見下ろせる場所。


「あなた、満足?」


開口一番だった。


アルトは首を振る。


「満足はしていない」


「街は揺れてる」


「揺れているだけだ」


カルディアは笑った。


「その言い方、嫌いじゃないわ」


夜風が、二人の間を抜ける。


「商人ギルドは、代表会の決定過程を公開しろって言ってる」

「冒険者は、損害補償基金の創設を求めてる」


「妥当だ」


「妥当よ」


カルディアは即答する。


「でもね」


視線を都市へ向けたまま、続ける。


「基金を作れば、自由は減る」

「責任を共有すれば、利益は薄まる」

「代表会の権限を縮小すれば、決定は遅れる」


一拍。


「それでも、やるべき?」


アルトは迷わない。


「選ぶのは、あなたたちだ」


カルディアは、小さく笑った。


「逃げるわね」


「違う」


アルトは静かに言う。


「奪わないだけだ」



翌日。


代表会で、公開討論が行われた。


カルディアは、壇上に立つ。


「契約は合法です」

「不正はありません」


ざわめき。


「だが」


彼女は続ける。


「合法であることと、納得できることは違う」


会場が静まる。


「自由都市は、契約によって成り立っています」

「だが、その契約が見えなければ、信頼は育たない」


「なら責任を取れ!」


誰かが叫ぶ。


カルディアは、真正面から受け止める。


「代表会が、全責任を負うことはできない」

「それはこの都市の構造と矛盾する」


怒号が上がる。


「じゃあ俺たちは何なんだ!」


カルディアは、ゆっくりと言った。


「当事者よ」


沈黙。


「あなたたちは、委任してきた」

「判断を、代表会に」

「契約を、商人に」

「護衛を、冒険者に」


一拍。


「それを、見直すなら――」

「自分たちも、責任を引き受けなさい」


会場の空気が、変わった。


怒りが、戸惑いへと揺れる。



高台から、その様子をアルトは見ていた。


「……折れないな」


ラグスが呟く。


「折れていない」


アルトは訂正する。


「曲げている」


ミヒャエルが問う。


「このままいけば、都市は?」


「再構築されるか、分裂するか」


アルトは淡々と言う。


「どちらにせよ、以前の形には戻らない」



夜。


カルディアが再びアルトを訪ねる。


今度は、疲れを隠さない。


「代表会は、基金の創設を決めた」


「ほう」


「損害の一部を、都市全体で負担する」


ラグスが驚く。


「自由が減るな」


「減るわね」


カルディアは苦笑する。


「でも、信頼は少し増える」


アルトは彼女を見る。


「後悔は?」


カルディアは、しばらく考えた。


「……ないわ」


そして続ける。


「理解はしたの」

「自由は、放っておけば強い者だけのものになる」


一拍。


「でもね」


彼女はまっすぐアルトを見た。


「私は、自由をやめない」


「やめる必要はない」


アルトは即答する。


「ただ、代償を払うだけだ」


カルディアは、ふっと笑った。


「ほんとに、嫌な男ね」



数日後。


商人ギルドは再編された。

冒険者は、損害補償の枠組みに合意した。

代表会の議事録は、公開が常態化した。


街は、崩れなかった。


だが、以前の軽さは消えた。


自由は、少しだけ重くなった。



出立の日。


カルディアは、門まで見送りに来た。


「あなたのおかげで、面倒が増えたわ」


「礼はいらない」


「言ってない」


彼女は笑う。


「でも、覚えておく」


アルトは問う。


「何をだ」


カルディアは、静かに言った。


「自由は、責任を取らない権利だと思っていた」


一拍。


「でも、責任を“選ばない”だけだった」


視線が交わる。


「次に会うときは、もっと上手くやるわ」


「楽しみにしている」


アルトは答えた。


門を出る。


視界の端で、UIが更新される。


【領域支配】

外部契約:安定化

結果:構造修正完了


ラグスが呟く。


「結局、壊さなかったな」


アルトは首を振る。


「壊れていた」


「え?」


「見えなかっただけだ」


振り返ると、都市は以前と同じように賑わっている。


だが、その下には、

確かに変化がある。


自由は、少しだけ重くなった。


そしてその重さを、

街は自分で引き受けた。


アルトは前を向いた。


次に踏み込むのは――

人ではない領域だ。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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