第40話 祈りと責任
別れは、静かだった。
見送りの列も、
儀式もない。
ただ、鐘の音だけが、
いつも通りに鳴っていた。
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境界を越える直前、
司祭長がアルトを呼び止めた。
「一つだけ、
伝えておきたいことがあります」
声は、穏やかだ。
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「あなたは、
我々が“責任から逃げている”と
思いましたか?」
唐突な問いだった。
アルトは、正直に答える。
「……一瞬は」
司祭長は、頷いた。
「当然です」
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司祭長は、ゆっくりと続ける。
「我々は、
結果を神に委ねます」
一拍。
「ですが――
**行為を委ねたことはありません**」
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アルトが、目を細める。
「行為……?」
「祈る前に、
できることはすべて行う」
司祭長は、はっきりと言った。
「畑を耕し、
病人を看、
互いを支える」
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「奇跡を、
期待しているわけではありません」
司祭長は、空を見上げる。
「奇跡が起きない世界で、
**人としてどう振る舞うか**」
それを、
毎日問い続けているだけです。
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アルトは、言葉を失った。
視界の端で、UIが淡く反応する。
【領域支配】
再評価:
責任放棄ではありません
続く表示。
責任の所在:
行為 → 人
結果 → 信仰
(……分けているのか)
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「あなたは、
判断と責任を
人に返しました」
司祭長は、静かに言う。
「我々は、
**責任を分解しました**」
微笑む。
「似ているでしょう?」
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ラグスが、低く呟く。
「……逃げじゃないな」
「はい」
司祭長は、頷いた。
「**耐える形を、
選んだだけです**」
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アルトは、深く頭を下げた。
形式ではない。
敬意だった。
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「踏み込まなかったことを、
後悔しませんか?」
司祭長が、問い返す。
アルトは、首を横に振る。
「しません」
一拍。
「ここを変えたら、
あなたたちが
あなたたちでなくなる」
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司祭長は、満足そうに目を閉じた。
「それで、十分です」
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帰路。
ミヒャエルが、静かに言った。
「……宗教自治領は、
危険ではありませんでしたね」
「違う」
アルトは、否定する。
「**危険だ**」
二人が、顔を上げる。
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「正しさが、
通じない場所は」
アルトは、続ける。
「いつだって、
制度にとって危険だ」
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視界の端で、UIが最終更新を示す。
【領域支配】
非干渉領域:確定
付記。
宗教自治領は
管理対象外とする
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夜。
宗教自治領の灯りは、
遠ざかっていく。
だが、
完全に消えることはなかった。
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アルトは、独り言のように呟く。
「……祈りは、
責任を捨てるためのものじゃない」
それは、
この旅で得た、
確かな答えだった。
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宗教自治領編は、
静かに終わった。
勝者も、敗者もいない。
ただ――
**踏み込まなかったという事実**だけが、
残された。
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