第4話 辺境
北方辺境《グラーデン領》に到着したのは、夜明け前だった。
馬車を降りたアルト・レインハルトは、冷たい風に晒されながら周囲を見渡す。
「……ここが?」
思わず、声が漏れた。
城壁は崩れ、門は半開きのまま。
見張りの兵はいるが、鎧は古く、姿勢もだらしない。
街というより、放置された集落に近かった。
(防衛線が、存在していない)
馬車を見送った御者が、気まずそうに言う。
「俺はここまでだ。
あんた、運が悪かったな」
それだけ言い残し、馬車は去った。
――本当に、誰も見送らない。
領主館は、想像以上に荒れていた。
「……誰だ?」
出迎えたのは、やつれた中年の男。
服装は一応、領主のそれだが、目に覇気がない。
「帝都から参りました。
アルト・レインハルトです」
名乗った瞬間、男は苦笑した。
「ああ……また“管理補佐”か」
それだけで、期待されていないことが分かる。
「正直に言おう」
領主は椅子に崩れ落ちるように座る。
「この領地は、もう終わりだ」
説明は、短く、そして重かった。
財政は破綻寸前
税は集まらない
盗賊が横行
兵は足りているが、統率されていない
そして――
「魔獣が、増えている」
地図を指差す。
「この三か所。
今月だけで、村が二つ消えた」
アルトは、地図を見る。
(配置が……最悪だ)
すべてが場当たり的。
誰も“全体”を見ていない。
「帝都には、報告を?」
「している」
領主は、自嘲気味に笑った。
「返事は毎回同じだ。
“現地で対処せよ”」
つまり、切り捨てられている。
外が、騒がしくなった。
「領主様! 南区で暴動です!」
「糧食が足りないと――!」
同時に、別の兵が駆け込む。
「北の森で魔獣の群れを確認!
数が……多すぎます!」
領主は、頭を抱えた。
「……重なる時は、必ず重なる」
その瞬間、床が揺れた。
遠くで、咆哮。
(同時多発……)
アルトの思考が、加速する。
暴動。
魔獣。
財政破綻。
指揮系統の崩壊。
(この状況、帝都なら“責任の所在”で一週間は揉める)
だが、ここには――
「決裁者が、一人しかいない」
アルトの視線が、領主に向く。
領主は、ふっと力なく笑った。
「なあ、君」
その声は、諦め切ったものだった。
「どうせ帝都から来た人間だ。
ここで何かやったところで、
評価されることもない」
アルトは、何も言わなかった。
「……もう、好きにしてくれ」
領主は、そう言った。
「失敗しても構わん。
成功する可能性の方が、低い」
その言葉は、事実上の全権委任だった。
アルトは、ゆっくりと息を吐いた。
(権限、単一)
(管理対象、明確)
(制度、崩壊済み)
条件が、揃っている。
「分かりました」
アルトは、静かに答えた。
「この領地――
俺が、管理します」
その瞬間。
視界が、歪んだ。
――ザザッ。
耳鳴り。
ノイズ。
文字化けした光。
SYSTEM ERROR
測定対象が規格外です
管理階層を再定義します
アルトは、息を止めた。
「……何だ、これは」
視界の端で、見覚えのないUIが、脈打つように揺れている。
領主も、兵も、誰も気づいていない。
世界は、まだ崩れている。
だが――
何かが、確実に始まった。
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