表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルなしと追放された俺、辺境で目覚めたのは〈領域支配〉だった 〜帝都が気づいた時には、もう遅い〜  作者: 影山クロウ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/60

第38話 救われているという事実

宗教自治領には、泣き声が少なかった。


子供の数は多い。

病人も、老人もいる。

だが――怒号がない。


それが、アルトには奇妙だった。


「……統計上は、危険水域です」


ミヒャエルが、低い声で言う。


「医療は最低限。

 食糧も余裕があるとは言えない。

 外部支援が途絶えれば、

 すぐに不安定化します」


「でも、崩れてない」


ラグスが、ぽつりと呟く。


「むしろ……落ち着いてる」


その“ズレ”が、宗教自治領だった。


---


昼。


施療所を訪れたアルトは、立ち止まった。


簡素な木造の建物。

寝台は足りていない。

薬も、質素だ。


だが、看取られている人間はいない。


「……医師は?」


「一人だけです」


司祭長が答える。


「訓練も、十分とは言えません」


それでも、

誰も不満を言わない。


---


「どうして……?」


アルトは、思わず口にした。


司祭長は、少しだけ驚いたように目を細める。


「何が、でしょう?」


「足りないものが多い」


アルトは、率直に言った。


「それでも、

 ここでは人が壊れていない」


---


司祭長は、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。


「壊れていないのではありません」


静かな声。


「**壊れる前に、

 委ねている**のです」


---


夕刻。


祈りの場に、集落の人々が集まった。


誰かが倒れた。

重病らしい。


だが、叫び声は上がらない。


司祭が祈る。

人々も、祈る。


結果は、分からない。


---


「……もし、

 助からなかったら?」


ラグスが、小さく問う。


司祭長は、否定も肯定もしなかった。


「受け入れます」


それは、諦めではない。


**覚悟**だった。


---


アルトの視界の端で、UIが反応する。


【領域支配】

評価不能

要因:幸福指標未定義



(……測れない)


いや、

測ってはいけないのかもしれない。


---


夜。


アルトは、施療所の記録を読んでいた。


死亡率は、高い。

だが、

**暴動率は、ほぼゼロ**。


精神崩壊の記録も、ない。


「……救われている」


アルトは、声に出して言った。


---


「え?」


ミヒャエルが、顔を上げる。


「ここは、

 効率的ではありません」


アルトは、静かに続ける。


「だが――

 **人は救われている**」


---


ラグスが、歯を噛みしめる。


「……それ、

 悔しいな」


「そうだな」


アルトは、否定しない。


---


司祭長が、そっと言った。


「あなたの制度は、

 人を“長く”生かすでしょう」


一拍。


「だが、

 **生きる理由までは、

 保証しない**」


---


その言葉が、深く刺さった。


アルトは、反論できなかった。


---


視界の端で、UIが静かに更新される。


【領域支配】

警告:

当該領域は

最適化対象外です



続く表示。


理由:

既に安定しています



(……最適化する必要が、ない)


---


夜更け。


アルトは、灯りを落とす前に、

一人で呟いた。


「……救われているという事実は、

 正しさより、

 重いことがある」


それを、

否定する資格は、

自分にはなかった。


---


祈りの声は、

夜の中に溶けていった。


管理も、判断も、

届かない場所で。


それでも――

**人は、生きていた**。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ