第35話 誰も縛れない場所
直轄地は、静かだった。
騒ぎも、暴動もない。
だが、
帝都の声も、もう届いていない。
朝。
配給所は開き、
治安部隊は巡回する。
命令書は、ない。
承認印も、ない。
それでも――
誰も止まらない。
臨時判断会議は、開かれた。
構成員は、固定されていない。
住民代表
元部隊長
医師
物流担当
その日、判断に関われる者
集まり、話し、
記録を残す。
それだけだ。
「……帝都から、
また文が来ている」
誰かが言った。
だが、
誰も読み上げなかった。
読む必要が、なかった。
三領。
報告を聞いたミヒャエルが、
静かに言う。
「……完全に、
止まらなくなりました」
ラグスが、腕を組む。
「縛る相手が、
いないからな」
アルトは、地図を見つめていた。
直轄地の中央。
そこには、
もはや“空白”という印はない。
だが――
領域でもない。
「……支配しないんですか?」
ミヒャエルが、
慎重に聞いた。
アルトは、首を横に振る。
「必要ない」
一拍。
「あれは、
誰の領域でもないままでいい」
視界の端で、UIが静かに表示する。
【領域支配】
観測:
外部領域が自律稼働しています
警告も、提案もない。
ただの、事実。
帝都。
会議室は、重苦しかった。
「……処分対象が、
存在しません」
報告官の声が、かすれる。
「命令も、
履行確認が取れません」
ハインリヒ・フォーゲルは、
ゆっくりと立ち上がった。
「……理解した」
全員が、息を呑む。
「直轄地は、
もう“帝都の外”だ」
誰も、否定できない。
「だが――」
ハインリヒは、続ける。
「我々は、
それを認められない」
視線が、鋭くなる。
「なら、
別の場所で、
主導権を取る」
夜。
アルトは、
最後の報告を読んでいた。
直轄地の議事録。
署名は、ない。
だが、
判断は残っている。
アルトは、静かに呟いた。
「……縛れない場所は、
怖いだろうな」
それは、同情でも、嘲笑でもない。
観測者の言葉だった。
視界の端で、UIが更新される。
【領域支配】
外部領域:安定
次段階:
異なる価値観との接続
(……次は)
アルトは、理解する。
正しさが、
通じない場所だ。
帝都。
ハインリヒは、窓の外を見ていた。
「……宗教自治領か」
呟きは、低い。
「あそこなら、
理念で縛れる」
その目には、
諦めと、執念が混じっていた。
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