第32話 資格という鎖
資格停止の通知は、名簿要求よりも早かった。
そして――
冷たかった。
帝国中央府通達
帝都直轄地・行政官〇〇
官僚資格を一時停止する
理由:
職務逸脱の疑い
疑い。
証明は、ない。
だが、
効力だけは即時だった。
「……来たか」
ミヒャエルが、低く呟く。
「名を縛れないなら、
次は肩書きだ」
ラグスが、苛立ちを隠さず言う。
「人を動かす前に、
人を縛る」
アルトは、何も言わなかった。
直轄地。
資格停止を受けた元行政官は、
紙を握り潰していた。
「……これで、
俺は何者でもない」
部隊長が、静かに言う。
「いや」
首を横に振る。
「判断した人間だ」
だが、現実は重い。
行政官は、
会議の席に座れなくなった。
制度上、
発言権がない。
「補充は?」
住民代表が、低い声で問う。
部隊長は、首を横に振る。
「帝都資格を持つ人間は、
もう来ない」
沈黙。
二人だけの会議。
三領。
報告を聞いたラグスが、
歯を噛みしめる。
「……止まるぞ」
「止まらない」
アルトは、即答した。
「止める設計じゃない」
アルトは、短い通達を出した。
臨時判断会議の構成条件を
次のように変更する
・資格の有無は問わない
・判断記録に署名できる者
・地域から信任を得ている者
ミヒャエルが、目を見開く。
「……資格を、
要件から外す?」
「もともと、
判断を保証していない」
アルトは、淡々と言う。
直轄地。
通達を受け取った住民代表が、
ゆっくりと顔を上げた。
「……なら」
小さく息を吸う。
「俺も、
署名する」
部隊長が、驚いた顔をする。
「資格は?」
「ない」
住民代表は、頷く。
「でも、
ここに住んでいる」
その言葉は、
何より重かった。
初めての議事録。
署名は、二つ。
部隊長
住民代表
肩書きは、ない。
帝都。
報告官が、困惑した声を出す。
「……資格停止は、
効いていません」
「どういうことだ!」
「……判断が、
資格を要件としていないようで」
机が叩かれる。
「そんなもの、
認められるか!」
ハインリヒ・フォーゲルは、
黙って報告を読んでいた。
やがて、低く言う。
「……資格とは」
視線を上げる。
「責任を負わなくていい者に、
与える免罪符だった」
その言葉に、
誰も反論できなかった。
夜。
アルトは、地図を見つめていた。
直轄地に、
新しい印がつく。
視界の端で、UIが淡く光る。
【領域支配】
新概念:
《資格無効化》
説明は、短い。
・判断要件から資格を除外
・責任と判断を直結する
(……そうなるか)
ラグスが、ぽつりと言う。
「……怖いですね」
「そうだ」
アルトは、頷いた。
「誰も、隠れられなくなる」
帝都。
官僚が、苛立ちを隠さず吐き捨てる。
「資格が通じないなら、
どう縛る!」
ハインリヒは、静かに答えた。
「……名でも、資格でもない」
一拍。
「恐怖だ」
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