第31話 従わない者の名簿
名簿は、正式な書式で届いた。
帝国中央府
帝都直轄地における
臨時判断会議の構成員について
氏名・所属・役職を
速やかに提出せよ
封蝋は、重い。
命令ではない。
だが――
拒否も想定されていない文面だった。
「……来ましたね」
ミヒャエルが、紙を置いた。
「次は、人です」
ラグスが、吐き捨てる。
「制度で止められないから、
首を掴みに来た」
アルトは、黙って書面を読んでいた。
「提出しなければ?」
ラグスが問う。
「不服従」
「提出すれば?」
「……その中から、
“見せしめ”が出る」
ミヒャエルの声は、硬い。
帝都のやり方は、
三人ともよく知っていた。
アルトは、静かに言った。
「名簿は、
存在する」
二人が、顔を上げる。
「だが――
提出する理由がない」
ラグスが、眉をひそめる。
「拒否するのか?」
「違う」
アルトは、首を横に振る。
「隠さない」
一拍。
「だが、
差し出さない」
その日のうちに、
アルトは返信を出した。
文面は、短い。
臨時判断会議は
帝都の制度ではありません
構成員の名簿は
当該会議が管理します
挑発ではない。
ただの事実だ。
帝都。
報告官が、顔をしかめる。
「……名簿は、
提出されませんでした」
「拒否か?」
「いえ……
拒否とも、違います」
「どういうことだ!」
「“自分たちのものだ”と」
会議室が、ざわつく。
「所有権だと?」
「判断主体を、
人格として認めている……?」
ハインリヒ・フォーゲルは、
静かに呟いた。
「……危険だな」
直轄地。
行政官が、手を震わせていた。
「……名簿を出せと」
部隊長が、唸る。
「次は、
資格停止だな」
住民代表は、黙っていた。
「……俺は、
抜けたい」
行政官が、声を絞り出す。
「家族がいる」
誰も、責めなかった。
それは、正直な恐怖だ。
臨時判断会議は、
三人で集まった。
机の中央に、
帝都の文書。
行政官が、深く頭を下げた。
「……すまない」
部隊長が、低く言う。
「責めない」
住民代表も、頷く。
「でも、
空席は埋めない」
行政官が、顔を上げる。
「……え?」
「三人で始めた」
住民代表は、静かに言った。
「二人でも、
続けられる」
それは、
役割が人ではなく、
“席”にあるという宣言だった。
報告は、三領にも届いた。
「……一人、
離脱しました」
ミヒャエルが言う。
ラグスが、歯を鳴らす。
「……帝都め」
「いい」
アルトは、即座に言った。
「正しい判断だ」
二人が、驚く。
「恐怖は、
無視するものじゃない」
アルトは、静かに続ける。
「尊重する」
一拍。
「だが――
制度は止めない」
視界の端で、UIが反応した。
【領域支配】
関係切断を確認
新しい行が、淡く浮かぶ。
《関係切断》
・特定個人への依存を解除
・判断機構は存続する
(……来たか)
帝都。
「一人抜けたか」
官僚が、吐き捨てる。
「これで止まるだろう」
だが、報告官が続ける。
「……いえ」
「判断会議は、
二名で継続しています」
沈黙。
ハインリヒは、
ゆっくりと目を閉じた。
「……名を縛れないなら」
呟きは、低い。
「資格だ」
夜。
アルトは、灯りの下で、
短く呟いた。
「……次は、
“肩書き”を奪いに来る」
それは、予測だった。
そして――
確信でもあった。
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