第30話 判断を止める命令
命令は、簡素だった。
そして――
あまりにも帝都らしかった。
帝国中央府通達
帝都直轄地における
臨時判断会議の活動を停止せよ
すべての判断は、
改めて中央の指示を待つこと
封蝋は、正式。
文言に、曖昧さはない。
「……来ましたか」
ミヒャエルが、低く呟いた。
「やっぱり、
止めに来たな」
ラグスは、苦々しい顔をする。
「死人が出たから、
“動くな”か」
「違う」
アルトは、静かに言った。
「責任が可視化されたからだ」
アルトは、UIを開いた。
【領域支配】
外部命令を検出
命令主体:帝都中央府
次の行が、淡く点滅する。
注意:
本命令は
当該地域の判断機能を停止させます
(……なるほど)
帝都は、
判断を取り戻そうとしている。
だが――
自分では、しない。
直轄地。
通達を受け取った行政官の手が、震えた。
「……止めろ、だと?」
部隊長が、歯を噛みしめる。
「次の配給判断は?」
「……中央の指示待ちだ」
住民代表が、声を荒げる。
「また、戻るのか!」
空気が、急速に冷えた。
誰もが知っている。
“指示待ち”は、
何も決まらないという意味だ。
その日の夜。
アルトは、直轄地へ向かわなかった。
代わりに、
一通の書簡を出す。
宛先は――
臨時判断会議の三名。
内容は、短い。
命令は確認した
従うかどうかは、
あなたたちが決めていい
俺は、
判断を奪わない
ラグスが、驚いた声を上げる。
「……従わない選択肢を
与えるのか?」
「違う」
アルトは、首を横に振る。
「従う選択肢も、含めて渡す」
数時間後。
直轄地で、再び会議が開かれた。
通達は、机の中央に置かれている。
行政官が、低い声で言う。
「……従えば、
責任は帝都に戻る」
部隊長が、続ける。
「だが、
また止まる」
住民代表が、震える声で言った。
「……でも、
逆らえば」
その先は、言わなかった。
沈黙。
長い、沈黙。
やがて、
行政官が口を開いた。
「……俺は、
従いたい」
弱音だった。
だが、正直だ。
部隊長が、歯を食いしばる。
「……俺は、
従いたくない」
「死人が出る」
住民代表が、俯いたまま言う。
「……私は、
もう、
決めない日々には戻れない」
決は、割れた。
多数決は、成立しない。
だが――
記録は残る。
翌朝。
配給所は、開いた。
治安部隊も、動いた。
形式上、
“従っている”ことにはなっていない。
だが、
止まってもいない。
帝都。
報告を受けた官僚が、声を荒げる。
「命令違反だ!」
「……いえ」
報告官が、言葉を選ぶ。
「命令に従う、
とも
従わない、とも
記録されていません」
「どういうことだ!」
ハインリヒは、静かに呟いた。
「……判断を止める命令は」
視線を上げる。
「判断できる人間を、
止められない」
それが、
帝都が一番恐れていた現実だった。
夜。
アルトは、報告を受け、
深く息を吐いた。
視界の端で、UIが更新される。
【領域支配】
外部命令との摩擦を確認
そして、新しい一文。
《判断保留》
・従属でも反逆でもない状態
・判断を止めないための設計
(……ああ)
帝都の命令は、
世界を止められない。
アルトは、静かに呟く。
「……止めたいなら、
自分で決めるしかない」
帝都は、
それができない。
だから――
負け始めている。
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