第24話 選ばれなかった結果
報告は、夜明け前に届いた。
簡潔で、淡々としている。
だが――
その内容は、重かった。
「……集落の西側、被害あり」
ミヒャエルが、低い声で読み上げる。
「住民三名、重傷。
建物二棟、半壊」
室内が、静まり返った。
死者はいない。
数字だけ見れば、最悪ではない。
だが――
救えた可能性があった被害だった。
ラグスが、拳を握りしめる。
「……もっと早く
介入していれば」
誰も、否定しなかった。
アルトは、報告書から目を離さない。
視界の端で、UIが反応する。
【領域支配】
非管理領域内事象を確認
結果は管理対象外です
(……分かってる)
それでも、
胸の奥が重くなる。
被害は、魔獣だった。
小規模な群れ。
本来なら、問題にならない。
だが――
集落側の判断が遅れた。
「様子を見る」という選択。
それが、裏目に出た。
アルトは、現地へ向かった。
誰にも命令せず、
誰にも付き添わせず。
集落は、静かだった。
騒ぎは収まり、
応急処置も終わっている。
だが、
空気が重い。
代表の男が、頭を下げた。
「……判断が、遅れました」
声は、震えている。
「助けを求めるのを、
ためらった」
理由は、分かっている。
「迷惑をかけたくなかった」
「自分たちで何とかしたかった」
それは、
誇りでもあり、
弱さでもあった。
「俺のせいだ」
代表が、歯を食いしばる。
「選んだのは、俺だ」
アルトは、首を横に振った。
「違う」
静かに言う。
「選ばせたのは、俺だ」
代表が、顔を上げる。
「だから、
この結果は共有する」
アルトは、逃げなかった。
「俺は、
すべてを管理しないと決めた」
一拍。
「だが、
結果を見ないとは言っていない」
アルトは、集落の人々を見る。
「今回の判断は、
間違いだったか?」
誰も、即答できなかった。
やがて、代表が答える。
「……間違いでした」
震えた声。
「だが、
自分たちで決めた」
アルトは、ゆっくりと頷いた。
「なら、次がある」
その言葉に、
誰かが小さく息を吸った。
「次に同じ状況が来た時」
アルトは、続ける。
「助けを求めるか、
自分たちでやるか」
一拍。
「今日より、
早く決められる」
それが、
彼の出した答えだった。
支援は、即座に行われた。
だが今回は――
集落側の要請として。
書類には、
彼ら自身の署名があった。
夜。
帰路の馬車の中。
ラグスが、低い声で言う。
「……割り切れません」
「割り切る必要はない」
アルトは、即答する。
「割り切れたら、
俺はここに立ってない」
視界の端で、UIが静かに変化する。
【領域支配】
判断結果の蓄積を確認
新しい行が、追加された。
《判断履歴》
・成功だけでなく
・失敗も記録されます
(……そう来るか)
帝都。
報告を聞いた官僚が、鼻で笑った。
「……結局、
人が怪我しているじゃないか」
だが、別の者が黙っていた。
「……だが、
誰の判断かが明確だ」
それは、
帝都が最も避けてきたことだった。
夜更け。
アルトは、灯りを落とす前に呟いた。
「……正しいだけじゃ、
足りない」
だが、
逃げない選択だけは、
間違っていないと信じていた。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




